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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
其れは、紅く燃える強者の大陸
222/237

207 合同工面

「此れが話にあった設計図か…」

「ハンマーね…」


 以前の交流によって得たツテを使って鍛冶レギオンと合流を果たした私たちは鉱山を出た後、集落内の鍛冶場スペース迄戻ってきていた。本当は首都辺り迄向かうつもりだったらしいがあの辺りの環境を私たちが進むには一々準備が必要な事もあって近場を借りる事になった。鍛冶場の状況等を考えればレギオンホームに戻るのが良いのではとは思うが、邪魔されたくない等と言っていた。


「あー、素材指定されてるね」

「そうなの、だから鉱石を集めてたんだけど、大陸が限定されているとかで――」


 今は借りた鍛冶場の中で例の設計図の確認をしている。鍛冶経験者なだけあって其程難しい設計では無いらしい。技術面は大丈夫なようだけどやはり素材に問題があるようだ。


「ヒートコアとロックアンバーか」

「そう。だからさっき採掘してたんだけど…」

「この大陸だけでは揃えられないらしくてね」


 ヒートコアの方はこの大陸で採掘が可能なのだが、ロックアンバーは大陸を移動しなければ入手する事すら出来ない。とはいえ必要数で言えばどちらも足りていないので相手側に頼らねばならないのだけど。


「その辺、誰か持ってる?」

「生憎と手持ちが無い」

「あたしも。殆ど寄付してるからね」


 …なのだけど、不運にも誰も指定素材を所持していなかった。一応先程の採掘などもあって基本的な鉱石は所持しているらしいけれど。此れでは直ぐに作成に取り掛かるという事は出来ない。


「…もう一度掘ってくる?」

「そうですね。無い事には始められませんからね」

「仕方ない、一度戻って予備の鉱石を持ってくるか」


 そう言って鍛冶側のプレイヤーの一人が先に鍛冶場を離れた。鍛冶専門なだけあって拠点に備えが幾らか有るのだろう。ただそういった素材はメンバーで共有している物のようなので何時でも有るとは限らないと"カナー"は言っている。そこそこ居るらしい在籍人数から考えると残っている可能性は其程高くはないだろう。


「さっきの続きでもするかぁ」


 待っている間、作成を始める訳にもいかないので、少しでも素材を増やそうともう一度鉱山へと戻る事にする。念の為に設計図も回収したので手持ち無沙汰となった鍛冶レギオンメンバーも一緒に鉱山へと付いてくる。


 私たちは先程と同じように道具を借りているのに対して、鍛冶レギオン側は自前の道具を取り出していた。自分たちで素材集めも行っているようなのでその手の道具も普段からインベントリに入っているようである。

 鉱山の奥へと進むと、先程に比べると滞在している者が極端に少なくなっていた。時間帯の問題なのかも知れないが、もう掘り尽くされている可能性も捨てきれないので、急いで採掘を開始した。


「あ、一応まだ出るみたいだ」


 少しすると鉱石を獲得出来たので掘り尽くされたという事は無かったようだ。

 鉱石の枯渇では無い事に安堵しながら採掘を進める。作業を黙々とする訳はなく気付けば雑談が始まっていた。


「ところで、ホームって何処にあるの?というか有るよね?」

「え?一つ前の大陸にあるけど?」


 相手側のレギオン【灼火の鋼】は要素特化型のレギオンという事もあり、全レギオンの中でも大手の部類に属するらしい。というのも同じ目的の小型レギオンを幾つも吸収合併しているようで、その人数も三十人はとっくに超えているのだとか。とはいえ在籍者全員が鍛冶をする訳ではないようだけど。現に"カナー・L"というパターンが存在している。


「…レギオンホームってそんな大勢でも大丈夫なんだ?」

「大丈夫では無いわね。所属上限は兎も角、幾ら改装して大きくしても人は増えるから手狭感が否めないし。特にウチは鍛冶だからね。鍛冶場にも限度がある」


 今となっては吸収合併をしなくとも定期的には新規加入があるらしい。レギオンで集めた素材は使用自由だから新規者には有り難いのだろう。だけどレギオン側としては改装のキリが無いようである。大手の意外な悩みが。


「まあ、ホームでしか作成をしないって人は少ないから依頼で外に出る事も珍しくないけど」


 此方が向かう話だったのに態々やってきた事にも少しは関係していそうである。邪魔されたくないと言っていたが、そんな人数が多い場所に話を持ち込めば、興味を示す者も多いだろう事は想定できる。依頼内容がただの作成注文ならまだしもレアな型番設計図だから。


「―――お、気を付けてね。誰が引くかは分からないけどそろそろ何か出そうだから」

「へ?」


ガキッ――――


 "カナー"が突然の注意を放った直後、"Akari"が雑談に気を取られて豪快に掘っていた箇所から奇妙な音が響いた。すると小さな地響きを伴ってその箇所から何かが出てきた。ハズレの敵対エネミーだった。


「やばっ!?引いちった!」


 そう言いながら"Akari"は反射行動でエネミーに向かって採掘道具を投げつけていた。その行動が良かったのかエネミーの行動を遅らせる事に成功して、私たちは戦闘態勢に移ることが出来た。


「速攻処理で!」

「分かってるよ!」


 そうして数に物を言わせての戦闘は思いの外早かった。

 考えてみれば他のプレイヤーがハズレを引いた時も其程時間を掛けずに処理されていた。周りも協力しているからという理由もあるだろうが、この手の厄介な所は鉱石に混じっての奇襲だろうから其の奇襲が潰れた時点で脅威率は格段に下がったのだろう。


「案外楽勝だったね」

「というか、なんでさっき引くのが分かったんです?」


 戦闘を終えた後、道具を持ち替えながら真っ当な疑問が飛んだ。疑問の矛先は先程注意を放った"カナー"に。何故彼女が出現を感知出来たのかというと……


「そういえば危機感知能力が高いって前に…」

「そうよ。この子が直前に反応したからそろそろ出るのが分かったの」


 そう言って"カナー"は背中を向けた。其処には以前と同じように丸いエネミーがくっついていた。此れが彼女の従者である「マツボール」というエネミー。以前よりもより身を固めているようだが眠っている訳ではない。活発的な動きがあまり無い代わりに防衛的な行動は行うので危険を知らせる事は出来る。


「何か付いてると思ってたけど其れも従者なの?!」

「…此れはまた…身近とは違う」

「ウチの有能センサーさ!アレのお陰で奇襲されなくて助かるのさ!」


 動かないタイプでも聞いていた以上にパーティに貢献出来るらしい。確かにこのような支援があるのなら安全性は上がるだろう。エネミーも本当に様々である。

 ちなみに自身に視線が集まっていようとマツボールに動きは無い。"カゼマチ"が出ていればもう少し動いたかもしれない。出せば熱でダウンするので試さないけれど。


「それより、目的の鉱石はどうなったのよ…」


 皆がマツボールに注目しているが故に作業が完全に止まっていた。従者の関係で"カナー"も動き辛い状態になっている。独り言程度に口から其れが零れると「大丈夫」という返事が来た。


「一応掘り出せてるよ、ほら」


 確かにその手には目的であるヒートコアがあった。しかし必要数として考えればまだ足りない。持ってきてくれるにしても確実性は無いので保険でもう少しは欲しいところ。

 其れからも採掘を続行。今度はエネミーを引くような気配はない。


 そして少しして…


「なんだ戻ってたのかよ。鍛冶場周辺探したじゃねえか」


 鉱山の入り口からレギオンへと素材を取りに行っていた者が戻ってきた。大陸を移動したにしては結構早いのでスキル等をフルに使ったのだろう。いや、もしかすると単に採掘が遅いだけかもしれない。


「例の物は?」

「ギリギリだったな。近々集めねえと……というかブツって言うな」


 どうやら必要数は持ってこられたらしい。多めに取っておく必要は無かったようだ。どうであれ此れで材料が揃った。


「じゃあ鍛冶場に行ってみよー」

「切り替え早いな」


 唯一の問題であった材料が揃ってしまえば作成へと移る事が出来る。それ故に採掘を投げ出すような勢いで鍛冶場へと向かっていく鍛冶レギオンを追って一行も鉱山を後にした。





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