200 熱気に包まれた闘技都市
番外編を抜いたら200話目。
だからといって何かがあるという訳では無いですけど。
「ようやく街だ」
「大きい…」
熱気によってHPを削られて危機を感じながらも進み続けた結果、とうとう私たちは何よりも大きな影を目視した。其れはエネミーではなく外と街を区別する為に作られた壁と門。そして其処を抜けていくと存在する街並み。
炎帝領域の中に構えるはこの大陸における主要な街の一つとされる街、"闘技都市 カルヴァート"。戦いによって活気を得ている街らしい。
「ふぅ…ようやく落ち着けそうだね」
「此処に来るだけでも一苦労だったな。此れでまだ先の街に行かないといけないとか…」
まだ領域の中であるが、門を潜れば熱気によるダメージは無くなる。街に入ったという明確な証拠である。
途中に存在した村とは違ってしっかりとした建物が並んでいたり名前の割に安全性も感じられたりするので休息には丁度良いだろう。
「この街は首都には劣るが、あちらには無いものの存在によって賑わいを得ている」
「あちらには無いもの?」
「向こうに見えるだろう。アレが此処の重要コンテンツだ」
そう言って案内役が指差した方向にはドーム状の大きな建物が存在した。其処から時折発せられる声がまだ街の中に入ったばかりの場所からでも僅かながら聞こえる。賑わいを得ているという話だが納得である。
「何かの会場かな?」
「コロシアムさ。闘技場とでも言えば良いか?」
「あー、噂で聞いたな。アレで勝てないとボスに挑めないんだったか」
言われてみれば聞いた覚えはあった。なんでもこの大陸のボスが強者との戦いを望んでいるようで、ボスへの挑戦はまずコロシアムで勝ち抜いて強者として証明しなければならないという。今となってはボスは倒されて次の大陸への道は開かれているので必需という訳でも無さそう。とはいえ、その重要だったコロシアムがこの街にあるらしい。
「そういえば娯楽都市のやつは此れを真似てるんだっけ?」
「ああ有ったな。あちらはエネミーとの戦いだったが、此方は対人が主だ。難易度は別物だ」
「プレイヤーが相手となればそりゃ変わってくるわな。勝ち残れば尚更」
コロシアムについての話をしながら人通りの多い場所へと歩く。"戦いによって盛り上がっている街"と聞けば物騒な印象を受けるが、中を見てみれば其処まで荒れているような雰囲気は無い。どちらかと言えば規則性のようなものを感じる。盛り上げている戦いがコロシアムを指しているのだから当然かも知れないが。
ある程度歩いた後、案内役はふと立ち止まった。
「さて、聞いた話では首都は其程遠くなく街に沿って進んでいけば辿り着けるらしい。此処まで来れば後は大丈夫だろう」
「ああそうか。次の街までって約束だったな」
今の集まりは次の大きな街に向かうという目的で集まったに過ぎず、その目的もこの街に入った時点で既に果たされている。此処からは集団で移動する必要も無い。案内役も案内という役目を降りて此処まで来た目的へと移るのだろう。
「ではな。また何処かで会おう」
「有り難う御座いましたー」
「じゃあなー」
案内役が街の中へと消えていく。案内役の離脱を皮切りに自然と解散という流れになり、皆思い思いに動き出す。
「それじゃあ、また」
「あ、お疲れ様です」
「俺はコロシアムの様子でも見に行くかなっと。お前も一緒にどうだ?」
「いや遠慮しておくよ。流石に疲れたからね。そろそろ落ちるよ」
街の中であったりコロシアムであったりログアウトであったり、それぞれの方向へと離れていくプレイヤーたち。未練のようなものを感じさせないのはまた何処かで会えると分かっているからなのだろう。
「私たちはどうする?大人しくログアウトも有りだけど」
「うーん」
今回の移動は予想外の事もあって思った以上に疲労しているのでログアウトという選択も有りだろう。ただ時間として考えてみれば、思ったより時間が掛かったとも思ったよりも早かったとも考えられる時間であるので、"Akari"や"わんたん"ならまだ残るという選択も有り得る。
「其れなら街の中でも見て回る?コロシアムも気になるし」
そしてやはり"Akari"は時間まで残るという選択を取るらしい。とはいえ、街の中なら危険も少なく時間の調整もし易いので、ログアウトまでの残りの時間の過ごし方としては無難な選択であろう。新しい場所だから把握の必要もあるので。
「良いね!気になるところが色々あるし!」
「…のんびりなら別にいい」
「補充も必要では無いですか?」
纏まりはないが見て回ると言う事に変わりは無いので特に考えなく歩き出す。人の流れに身を任せていると自然と商店のある場所にも辿り着いた。店頭販売の飲食店もあるので其処からの煙が漂ってくる。そんな煙を見ながらふと関係無いが…
「あ、そろそろ出しても良いかな」
「何を?」
ウインドウを呼び出してそのコマンドを探す。そして見つけたそのコマンドを選択するとウインドウから光が飛び出す。飛び出した光は直ぐに形を変えた後、薄い光が弾けてその姿を現した。
「おー、元気そう」
「アー!」
「今は空気のダメージも有りませんからね」
カゼマチ復帰である。一日も経っていない筈なのに道中が色々と苦戦していたせいか随分と久し振りに思えた。此れで普段通りに戻った。…とはいえ此の街は領域の中にあるから外には出られないのだけど。
カゼマチを復帰させてからも街を歩いて、抱いた街の感想としては街並みがどことなくダウンタウンのような雰囲気がある。材質や色合いの影響なのかも知れないけれど此れは此れで新鮮味がある。この大陸に存在する街の基本なのだろうか。
「よし、次はあそこに行こう」
「やっぱり行くのね」
街並みを見て回って、次に向かうのはこの街で一番目立つコロシアム。
この街の目玉なだけあってプレイヤー・NPC関係無く向かっている姿をちらほら見かける。コロシアムからは今も繰り広げられているようで音が漏れている。
「近くで見ると尚更でかいなぁ」
「入るわよ」
「アー」
コロシアムに辿り着き、開放された入り口から内部へと入る。入った部屋は娯楽などと同じようにエントランススペースのようだが騒がしい音が聞こえていた割には見える人影が少なかった。だけどまだ騒がしい音は聞こえている。奥から聞こえている辺り、殆どは奥へと進んだのだろう。
『只今試合中で御座います。観戦希望の方は左右の階段から上階へとお進み下さい』
受付に話しかけようとした所に先に言葉を投げられた。どうやら娯楽と違って皆が自分のタイミングで始められるのではなく予定を組んで行われているようで、試合中は手続き等は出来ないらしい。そして今の言葉からやはり此処に来た者は観戦へと入ったと言う事も分かった。
「流石に乱入とかは出来ないのかー」
「…其れが出来たらキリが無い事が起こりそう」
「皆が面白がってしたら収拾が付かない」
「其れもそっか」
そもそも試合をするつもりも無いので参戦については置いておいて、観戦出来るという場所へと移動する。建物の構造上、二階だけでなく更に上の階も存在しているようだけど詳細は説明されていないので手頃な階から奥へと進む。
オォォォォォォォォ!!
通路を抜けた先で複数の声が響く。
其処ではスポーツの試合会場と同じように多くの観客席が用意されていて複数のプレイヤーやNPCが集っている。それらに囲まれた中央では二人のプレイヤーによる戦闘が繰り広げられていた。
「おお!あの体勢からよく躱したな!」
「うおっ!?危ねえ!!」
「安心しろ、一応シールドはあるから」
「お、決まったか?」
来たばかりだけど行われていた戦闘は終了して戦っていたプレイヤーたちがフィールド外へと出て行く。一足遅かったかと思われたが、会場の中に投影された試合情報によれば先程の試合が準決勝で、まだ決勝戦が残されているようだった。
「此れから決勝だって」
「マジで?山場じゃん」
「良い時に来たんじゃない?」
試合と試合の間は少しの時間が取られるようなので、私たちは大人しく観客席で試合が始まるまで待つ事にした。決勝となると意外なものが見られるかもしれない。隣の"Akari"辺りは随分と楽しみなようだった。
【独り言】
ヒスイ地方での初めての色違いはフカマルでした。なお特殊型。
りゅうせいぐんでも撃ちますか貴女?