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電子世界のファンタジア  作者: 永遠の中級者
其れは、紅く燃える強者の大陸
211/237

196 炎帝領域渡り その3 追い立てる

「此れじゃあ何処に向かっているのか分かり辛えな」

「一応方角は同じ筈だから大丈夫だろうけど」


 安全地帯から旅立って再び領域の中の私たち。相変わらず吹き荒れる熱風がHPを削っていく。残念ながら安全地帯で新たに耐性を得たりする事は無かったので減少値は遠慮の無いまま。だけど此処まではまだ良い。初めと同じだから。厳しいのは視界を遮る領域の濃度。気のせいか突入した初めよりも視界が悪くなっているように思えた。此れでは方向転換をしていなくとも同じ方向を進んでいるのかと疑いたくなる。


「濃度が増すのは中心部に近付いている証拠だ。だがこのままでは厳しい。彼処に避難場所がある。一度入るぞ」


 少し油断しただけで人影が怪しくなる中で私たちは回復も兼ねて一度遮蔽物となり得る物の場所へと急いだ。そして中に入ってHPの減少が治まったのを確認してから休息に入った。


「確かに難所だわ此処。進む程に視界が悪くなるとは初見殺しにも程がある」

「幸いHP減少の方は今の所変化はないが、この調子ならそっちも増大するかも知れないから油断できないね」


 領域自体は変わっていないのに奥に近付くだけで危険度が増す。今が大丈夫でも変化しないという保証はない。


「此れだと真っ直ぐ進むことも出来ない。どうする気?」

「まあ待て。今確認している」


 そう言って案内役は自らのウインドウを呼び出していた。恐らくマップを確認しているのだろう。目的地まで行った事のある彼ならマップデータにもその記録が残っている筈なので其れを見れば方角の確認が出来る。そうすれば視界の悪い中でも進む事が出来る。


「よし、向こうの方角だ」

「何にも見えない…」

「まあマップを見てそう言うのだから合ってるよね」


 マップでの確認が済んだ後、再びその方向へと進み始める。


「向こうに何か居るぞ」

「あっちで何か動いてる」


 視界が悪くて遠くが見えないと言っても何も見えないと言う訳ではなく影ぐらいなら見える。逆に言えば影しか見えないのでプレイヤーなのか形を似せたエネミーなのか判断が出来ないが故に其れを避けて進んでいく。


「…HPを無駄に出来ないのは分かるけれど…此れじゃあ時間が掛かるね」


 確かに時間は掛かる。怪しい場所を避けて進めば当然方向も曖昧になるので必要以上に確認をしなければならない。だけど確認を出来る状況は限られている。遮蔽物だって毎回見つかるとは限らない。時間を掛けるだけリスクは大きい。

 とはいえ、案内役のマップには正確な場所が記されているので、危険に晒される時間が長かろうと確実に目的地へと近付く事は出来る。なので急ぐも急がないもどっちもどっちである。


「そろそろ休憩を挟まないと危ないか」

「確認も兼ねたいところではあるね。一体何処向かってるのか…」


 正直前衛を務めるプレイヤーたちはまだ平気そうではあるが、後ろを進む私たちは常に回復アイテムを片手に進んでいたりする。そういう事を理解しているからか前衛は定期的に休憩を意識してくれている。足を引っ張ってしまっている気にもなるが。


「向こうに大きな影があるな」

「どれだ?」

「右にある影だ」

「…確かに何かあるな。よし確認を兼ねて彼処まで行こう。もしかしたら休めるかもしれない」


 その方向には確かに何かが存在した。はっきりと見えないのが少し恐ろしいが先程までの影とは違って動く気配が無いので、進行方向を其方へ切り替えるようだ。危険はあるが熱風を凌げる場所に少しでも早く向かいたいので急ぐ。


「ん?此れは…」


 距離を詰めて其れが見える部分までやってきた。しかし先頭が其れを認識した途端、その進行を止めてしまった。


「…どうしたの?」

「何か様子が変だね?」


 後ろに居る私たちは距離の関係でまだ其れが認識出来ていない。だけど前衛の様子からして良くない事が起こっているのは理解出来た。


「拙いな。早く離れよう」


 案内役がそう言って直ぐに動き、其れに伴って他の面々も其れを見て意図を理解してその場を離れる。ところが遅かった。離れきるよりも先に大きな影に変化が起こった。



――――ズズズ



「やはりか…!」


 先程まで静かに留まっていた大きな影はゆっくりと立ち上がった。初めに見た時は動いていない影だから遮蔽物という可能性を少しは感じてしまっていたが、その影は間違いなくエネミーだった。

 動き出したエネミーは遠くから遮蔽物と見間違えただけあってプレイヤーよりも大きな身体を持ち、岩のような鱗を持っている。その見た目からして此の状況で当たりたくない部類のエネミーだろう。



――――――――――――――――――――――


マウンテンロックス / Lv 45


――――――――――――――――――――――



 重量感を感じさせるその身体は此方を認識しているのか此方へと進み始めている。


「どうする、応戦するか?」


 動き出したエネミーは一体。幾ら大きいと言っても此の数で戦闘すれば撃破する事は出来るだろう……ただし其れは場所が通常フィールドだったらの話。エネミーはその姿からして硬さを持っているようで全力で挑んでも倒すのは時間が掛かるだろう。其れに加えてこの領域。真っ向から挑んでいては先に此方が半壊もしくは全滅するのが目に見えている。


「此処で相手をしている余裕はない」

「だが向こうはやる気満々みたいだぞ!」


 エネミーは完全に此方に狙いを定めているようで攻撃態勢らしきものをとっている。背中辺りに着いている岩のような鱗の幾つかが逆立つ。


「逃げるぞ、走れ!」


 その声と同時にエネミーから岩の砲撃が放たれた。山のような軌道を描いて飛んでくるその攻撃は其処まで早いという訳ではない。しかし其れが地面にぶつかった途端、突き刺さり砕けて小さな石が飛散した。その光景が威力を物語っていた。直接当たるのは遠慮したい。


「結構良い狙いしてるなあ!?」

「あんなの喰らったらやばいって!」


 ただでさえHPを削られている状態であの砲撃を喰らってしまえば一度で終わりだろう。そうならないために必死で逃げる。回復アイテム片手に。


 其処から逃走が始まった。速度で言えば振り切るのは容易だった。しかし砲撃の回避の度にバラバラになってしまい、合流をしようと探していると砲撃が飛んできたりと、此の環境で纏まって逃げ切るのは容易ではなかった。とはいえその砲撃も無限ではないようで、何発か撃たれてからは動くものの撃ってこないという状態があった。その隙を突くことで何とか逃げ切る事は出来た。


 だけど…


「どの辺だ此処は?」

「まだ領域範囲っぽいけど、熱は弱くなってるね」

「今のうちに回復…」


 砲撃から逃げていた影響で確認していたルートを外れてしまい、予想外な場所へと辿り着いた。その場にはまだ領域内である証拠として視界を薄く染める熱風が漂っているが此れまでとは違って影響力は低い。濃度の事を踏まえればかなり離れた位置に来てしまったのだろうか。


「待て、今確認する」

「…おい、此処も此処で安心出来そうにないぞ」


 案内役が現在地を確認しようとマップを呼び出している間に、周辺を見回っていたプレイヤーからそんな声が発せられた。その声の主の方向を見てみれば遠くにエネミーの姿があった。其れだけでなく周辺にもちらほらとエネミーの気配があった。先程の熱風の中よりも明らかに多い。


「もしや此処は…」


 案内役は何かを察したような反応を見せた。だが其れを口にするよりも先に小型エネミーの群れが背後に飛び込んできて、案内役は攻撃を受けた。


「…ッ!?」


 現れたのは、以前にも群れで目撃した事のある、荒々しく発達した両足を持つエネミー"ソルジャーラプトル"。その時より数は少ないものの以前より状況は悪い。後ろに"ソルジャーラプトル"が現れた事で前に進んでも後ろに進んでも敵が居るという状況が出来上がったのだから。


「大丈夫か!」

「ああ、不意を突かれたが問題無い…」

「よし、其れなら全員で突破するぞ」


 案内役とエネミーの間に割って入ったプレイヤーが正面突破を提案した。まだ数が把握出来ていない奥よりも数が限られている手前の方が勝算があるという判断なのだろう。しかしそう簡単にはいかず、どこからともなく現れたエネミーが手前の布陣に追加された。


「…ちょ!?火炎弾なんて飛ばせるの!?」

「飛び道具とは厄介な!」


 しかも追加で現れたエネミーが口から火球を飛ばしてきて近付くことを許さない。


「仕方ない、一度離れてから立て直そう!」

「ほら、行くわよ」

「分かってるよ、あー、すばしっこくて鬱陶しい!」

「足止めはしておくから急いで」

「あ、手伝います!」


 後ろから追ってくるエネミーに対して"先輩"がスキルを放つのに合わせて此方も〈バブルポップ〉で進路を塞ぐ。その隙に私たちは奥へと走った。その道中に時折言われる案内役の制止を聞き流しながら。




【独り言】

また来てしまった。

定期的に訪れる容量問題…

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