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千鶴の困惑と縁談

 そして、狼と共に大理石の廊下で話し込む。廊下を選んだのは誰かが来ても見渡せるし、足音が響くからだ。


「千鶴……。この事は、庵に伝えても良いか。それともお前から伝えるか? 僕が言うと、下手に伝えそうだ」


「……御大将、自分は……」


「千鶴、いいか、よく聞け」


 狼はタバコを取りだして、咥えて片手で器用に火をつける。紫煙が立ち上る前に口から離して、千鶴へそれを向ける。


「僕はお前の上司だが、一時の上司だ。だがお前は騎士なんだ、お前の主は王だ。それは延々と続くだろう。騎士とは主に忠誠を誓い、主に仕える者だ。主の願いを聞き入れる。それはお前にも判っているだろう。……だから、蚊帳の外の僕にはそれを止められないんだ。すまない……」


「……御大将が止める手段なんて暗殺くらいしかないですよね」


 冗談として千鶴が言ってるのは判るが、心境を考えると笑えない話だ。

 恐らく、縁談を持ちかけさせたのは野良だろう。暗殺者を使うのは大体が貴族だから、繋がっていてもおかしくはない。それにもし親ではなく女から縁談を持ちかけたのならば、野良の息がかかっている可能性が高い。


「少なくとも、今の期間は考えるフリをするべきだ。庵に隠してはいけない。隠したら逆に怒るだろう。僕だったら怒るね」


「……御大将。ねぇ、庵は、その、本当に自分のこと……」


 千鶴が頭をかきながら言うと、狼はにやにやとして、少しだけ嬉しそうに、自分で確認するよう言いつけた。

 それから顔つきを一変させて、真面目なものに。餡蜜が来たこと、餡蜜の言葉、冒険者の在り方、全て自分の考えで不審だと思ったものを共に考えようとした。

 千鶴は頭を切り換えて、ふむと唸ったあと、纏まって話さず、ぽつりぽつりと自分の考えた意見を次々に述べていく。


「何か、餡蜜でならなければならない理由があるんでしょうかね。例えば、森にしたって、元はその付近の魔物ではなくて餡蜜を狙ってだったかもしれません。冒険者の性質はきっと庵の方が判ると思います。庵は魔法使い、パーティだって幾度となく組んでいる筈ですから。親元が殺すよう仕掛けている、とは考えにくいですか?」


「僕からは今、庵には聞けないな。その場に誰か居て良いから、聞いてみてくれ。冒険者の性質を。親元が殺すように、となれば、幽霊がこの前警告してきた意味が判らん」


「……混乱を招かせるとか? 真雪は十八ですよね。十八年も、果たして自分の親が魔王だと気づかずに暮らせるんでしょうか?」


「……――真雪は確か、獣人語も扱えたな。……もし、動物が抹茶を疎んでいて、抹茶が捕まっていることを、真雪に知らせたらどうなる?」


「…………御大将、まさか……?」


「真雪だけじゃないというのがポイントだ、餡蜜の言葉の。抹茶と話せないならば、抹茶と接している、接点のある僕にその言葉を言った。……あの徒党は、組んでいる? 別の何かの目的で? ……真雪の親元を洗い直し、他メンバーの親元を洗い直す必要がある。目的を言わず、親元だけ洗い直させろ。そうすれば、此処まで考えてる意図は判らないだろう、誰にも」


「御意に。では、御大将、そろそろお時間ですので、集合場所へどうぞ。ご武運お祈りしてます」


「僕にはいつだって、武運の女神はいるさ。そうだ、一つ言っておく。抹茶に対してだが、軍にはどう動か判らんが、僕にとって悪い方向に動く可能性はないと思う。それを確認した」


 その言葉を聞くなり、千鶴は目を見開き、まさかと呟いた後、やっちゃったんですかと思わず下品な質問を浴びせ、そして狼に根性焼きをされる。


「あつっ!! 御大将、だって、確認って……!!」


「僕がそんな簡単に身を棄てると思うか」


「野良部隊長とは?」


 千鶴はくすくすと笑いながらそう言うと、狼はむっとしたような顔をして、根性焼きしたタバコを地面に落とし、足で火を消す。


「……厭なことを言うなぁ、お前。兎に角、あいつとは何もないが、あいつは僕を特別扱いしていることが判った。だから、大丈夫だ。何か奴が単独行動したら、それは軍にとっては判らない、だが僕にとって良いことを起こそうとしているときだ。それか、誰かに捕獲されたときだな?」


「……餡蜜と組もうとしてもですか? そういうことは考えられませんか?」


「餡蜜もこの間と違い、何処か落ち着き払っていた。この国を、餡蜜が襲うことはないだろうよ。他の魔王は知らんが」


 二人は頷きあい、それからその足で、広間に向かい、もう揃っている軍を見遣ると、狼は荷物を受け取り、兎姿の獅子を従えて、いってくると手をひらつかせた。


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