ランクアップ試験!その2――久遠の竜帝――
竜帝さんは再登場の予定があります(ネタバレ)
あと、序章を軽く書き直しました。内容は変わってませんが、誤字やら気に食わない部分やらを修正しました。
「はぁ、正直想像以上だったよ……」
「そう言われても……」
俺達にとってはこれが普通だったし。
てか、Sランクなら今のくらいできるんじゃね?
「……お前、Sランクならあれくらいできるだろ、って思ってるな?」
なんでわかんだよ。
「で、できないのか?」
「確かに、あのオークくらいは苦戦せずに倒せるだろうよ。だが、お前らのあの倒し方はなんだ?貴重な魔導具を使ったりだとか、無詠唱で上級クラスの魔法を使ったりだとか。んで、ユキの嬢ちゃんに至ってはなにをやったかすらわからなかったぞ」
そ、そうなのか……
ちなみに、ユキの【断界】は風の神性闘技だ。
真空の刃を飛ばして、敵を斬るというシンプルな技である。
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森を歩いて何時間も経ち、空が白んできた頃。
「よし、それじゃここらで野営とする!!」
「わかった。そうしよう」
「疲れた〜!」
「歩いてばかりでしたね」
確かに、最近歩くことが多い気がする。
病院と自宅の往復くらいでしか歩いて居なかった前世と比べると、ずいぶんと健康的な生活になった。
「さっさと準備しろよー」
「へいへい」
野営の準備と言っても、テントを張るだけなら一分もあれば終わる。
アイテムボックス様様である。
「リョーガも亜空間収納持ちか……。まあお前らだったらもう今更だよな……」
「ところでリョーガ、見張りはどの順番でやるんだ?一応、俺も参加するぞ」
「ああ、見張りね。要らないよ。結界の魔導具使うから」
「はぁ!?結界の魔導具!?アーティファクト級のもんじゃねぇかよ!!」
「あっ、そうなの?でも持ってるものは使うからね?」
「……もういいよ、なんだって。それは俺のテントも結界で覆えるのか?」
「もちろん、バロンも結界の範囲内にテントを張ればいいだけだよ」
「そうか、じゃあありがたく使わせてもらうわ……」
流石にバロンが俺達を襲う可能性は考える必要は無いだろう。
それに、万が一があったとしても、ユキの万能察知で対処できるだろうし。
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当然何も起こることなく翌朝。
「リョーガ、昨日と同じペースで進むならいつ頃にエルダートレントのいた場所に着くんだ?」
「んー……、多分昼過ぎくらいだな」
「そうか、じゃあ今日中に全て終わらせてしまおう!」
それがいいと思う。あまり時間をかけてもいいことはないだろうし。
「早速出発するぞ!!」
やっぱり高ランク冒険者は朝から元気過ぎると思うんだ。
歩き始めて少し経った頃、視界の端に白いマッシュルームのようなキノコを見つけた。
もしかして、これは!!
『ご想像通り、白茸ですね』
よしっ!!ついに白茸を見つけることができた。
これで勝つる!!
「おいバロン。止まってくれ!」
「ん?どうした?」
「珍しいキノコを見つけたんだよ!」
「キノコだぁ?あとじゃダメなのか?」
「ダメなんだよ!このキノコは上級回復薬の素材にもなり、さらに滋養強壮効果、疲労回復効果まであり、その割には繁殖させる事もさほど難しくないという完璧素材なんだぞ!?」
「お、おう。じゃあ取ってこいよ……」
許可を得たところで早速採集に向かう。
しっかり根元からもぎ取るのがコツらしい。
結局、二十本ほどの白茸を確保することができた。
やったね!
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その後昼食をとり、さらに数時間歩くと、目の前に廃協会が現れた。
「ここがエルダートレントのいた場所だ。もっとも、今は別の奴がいるみたいだが」
「ああ、これは想像以上だな」
俺の言葉に真剣な表情のバロンが返す。
明らかにエルダートレントなんかよりも上位の生物が居るのだろう、圧倒的な存在感だった。
これで中位竜なのか?だとすると上位竜や竜帝なんかは冗談抜きで化物だな。
「行くぞ!!」
バロンが喝を入れて歩き出す。
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その竜、いや、その死竜帝は自らの領地に接近するものに気づいていた。
しかしそれは矮小なる虫、少し前に力を与えたエルダートレントよりは強いようだが、自分を倒せるような存在ではない。
長きを生きる死竜帝はその経験からそう断定した。
その慢心こそがその身を滅ぼすのだとは知らず……
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廃教会の中に居たのは、一体の竜だった。
「バロンさんや……。これが死せる中位竜ってやつですか?」
「いや、どう考えても違うな。それどころか、もしかしてこいつは……」
竜が大きく嘶く。
「グガアァァァァーー!!!」
いやこれは化物だろ。
昔戦った(虐殺したとも言う)劣飛竜なんて、こいつの前では赤子に等しいだろう。
竜が低く唸り、そのままこちらに口を開く。
「まずい!ブレスが来るぞ!!」
バロンが叫ぶと、竜はヘドロのような色のブレスを吐く。
「危ねぇよ」
横に跳んでそれを避ける。
アリスは結界で守り、ユキはブレスを斬って身を守ったようだ。
バロンもブレスが来る前に身を隠していた。汚いさすがSランク汚い。
「やはりそうか……。気をつけろリョーガ!!こいつは中位竜なんてチャチなもんじゃねぇ!竜帝の『久遠』だ!!!」
は?『久遠』?誰だよ……
『久遠はあの竜帝の二つ名ですね。三百年ほど前に暴れ回っていたトカゲです』
へぇ、魔物にも二つ名が付くことがあるんだなー、って竜帝!?
『はい。討伐され、封印されていたようですが、封印が解けたのでしょう』
何でもないように言ってくるが、相当まずいのではなかろうか。
竜帝ですよ、竜帝。龍の中でも三番目に格が高い存在!
とりあえず、二人に指示を出しておこう。
「敵は竜帝!相手に不足は無い!安全第一で立ち回るように!!」
「んっ!」「了解です!」
アリスが氷の弾丸を放つ。
しかし、あまり効果があったようには見えない。
「嬢ちゃん!そいつに半端な魔法は効かない!詠唱してでも、強力な魔法を使え!!」
なるほど、竜帝にもなれば魔法耐性もかなりのものだということか。
「お父さん!アリスは私が守ります!!」
「わかった!じゃあ、アリスは『解放』してから詠唱もしてくれ!!」
「んっ!いくのっ!『解放【忍耐】』」
再び周囲が凍る。
圧倒的な力に反応した『久遠』がアリスにその爪を振るう。しかし――
「させません。アリスには指一本触れさせません」
刀を抜いたユキが、その腕ごと『久遠』の爪を吹き飛ばす。
あれ?これユキだけで勝てるんじゃ……
と思ったのだが、斬り飛ばされた腕が即時に再生した。
「物理攻撃も効果が薄いのか……」
そう呟きながらアイテムボックスを開く。
「『破弓アルテミス』」
そう言って取り出した弓に、矢を番える。
軽く息を吸って、止める。
「ふっ!」
息を吐くと共に、限界まで引き絞った矢を離す。
音は何も聞こえないが、数瞬経ち
「ガッッ!?」
短い悲鳴を残し『久遠』の頭が爆散する。
どうせすぐに再生するのだろうが、時間を稼ぐことが目的なので気にしない。
そしておそらく、
「『――それは氷。いざ、永久凍土の世界へ!【コキュートス】』」
エネルギーの奔流が発生する。
それは全て『久遠』へ向かう。
「ガアぁぁ…………」
その声は次第に小さくなり、消えた。




