4話
第二研究無菌室に集められた研究者たち。長谷川研究所に属する者全てが集まった。男女、年齢、服装様々な彼ら。
「なんだ?」「今日って会議の日じゃないよな」「ていうか、何人いるんだ?」
「熱いな」「所長は何を考えてるんだろうか」
「ワクチンができたのか?」「できた?」「マジで?」
「ワクチン担当は俺だぞ。あともう少しだ」「じゃあ何なんだよ」「知るか」
集められた意味が分からない彼らは、口々に疑問を発する。今まで会議はちょこちょこあったものの、全員が集められるのは初めてだった。
それをモニター越しに見つめる四人の人影。長谷川を含める竜樹たちだ。
「じゃあ、蓮佳ちゃん。ここって、遺体の処理に核エネルギーを改造した閃光焼却を利用してるってことだよね?」
「ええ。そのパソコンのエンターキーを押せば閃光焼却が可能だわ」
「了解っと。さてと、いいかい? 竜樹」
「ああ、やってくれ」
「ほ、本当にやるのか?」
研究室でパソコンを操作しつつ話している三人に、長谷川は青ざめた顔をさらに青ざめさせながら問いかける。
「今更怖気づいたの? 散々殺してきたくせに」
「ウイルスで殺さないだけ人道的だろ?」
「今から人殺すのに人道的も何もないと思うわ」
「「正論だ」」
高校生で、今から大量に人を殺そうというのだ。長谷川は彼らが、人として大切な何かを損失しているように見えた。
「んじゃ、押すぜ?」
「おう」
「ぽちっとな」
妙な掛け声とともに遼がキーを押す。
刹那。
眩い閃光が無菌室を包み込んだ。
四人は思わず目を閉じる。
光が収まったのち、恐る恐る目を開けると無菌室には何も残っていなかった。たった一瞬の閃光で、何十人もの命が奪われたのだ。さっきまで、疑問を口にし、息をし、笑っていた人たち。一滴の血痕も、髪の毛一本も、痕跡を残さずに。
「さて、世界の終焉への幕開けが始まるね」
唖然とする長谷川を尻目に、大量殺人をやらかした三人はにこにこと笑う。
にこにこと にこにこ
にこにこ ニコニコと
にこにこ
笑う 嗤う
嘲う わらう
嗤う 嘲う
人を殺した重圧を感じないかのように、三人は狂ったようにただ、笑った。
*
数日後、ある研究所に小さな箱が届いた。日本の有名な研究所から送られてきたものだったので、ワクチンかと研究者たちは喜び勇んで箱を開ける。
そして――。
「静かになったねー」
「そうだな」
「確かに、静かね」
三人は、東京のスクランブル交差点のど真ん中に立っていた。普段は車や人で大混雑の交差点も、今は無音に包まれている。群れたカラスの鳴き声が、不気味にあたりに響いていた。
彼らが長谷川研究所を壊滅させたのち、あちこちにばらまかれた殺人ウイルスにより世界は阿鼻叫喚の図になった。まるで地獄絵を見ているかのように、道行く人みなが血を吐き、倒れていった。
だんだんと人は減り、電気を供給する人間がいなくなり地下が水に沈んだ。ペットとして飼われていた犬や小鳥は、野生の本能を失っているため死んでいき、猫はかろうじて、野生の本能を持っていたため生き残った。
しかし、都会に住むネズミたちは死に瀕していた。ネズミは、人間の食べ物にかなり依存しており、人間がいないと食料を得られずに死んでしまう。人間とは、ネズミにとってエサと等しいのだ。
人間絶滅後、たった数日で甚大な被害がでた。しかし、それが自然な地球の姿なのだ。それを歪めてきたのは人間たちで、絶滅すれば食物連鎖も植物の成長も遮られることはない。
そんな中、今となっては視界のなかに動く人間は誰もいない。
――はずだった。
「なあ、俺たち、なんで生きてんの」
「俺が知りたい。なぜ感染しなかったのか」
「何ででしょうね」
何故か、みなが死にゆくなか三人だけは生き残ったのだ。ワクチンを打ったわけでもないのに。
「おそらく、危機的状況に陥った俺たちの体の遺伝子の一部が変化し、ウイルスに対抗する抗体を作った、という感じじゃないか?」
「マジで? 困るよ、文明社会に生きてる俺ら、生きていく術なんてないのに」
「そうですね、電気も止まりましたし。夜も真っ暗です」
「それにしても人間がいなくなった後の地球、気になるな」
「それを観察するには」
「食糧を調達に」
「コンビニ行こうぜ、食べ物腐る前に」
「「「生きたからには、生き延びよう」」」
こうして、人類滅亡を企て実行した凶悪テロリストたちは、悪びれもせず走りだした。赤く染まる道路を駆け抜け、腐臭を漂わせる屍を乗り越え、彼らはただ駆けた。地球の本来の姿を観察するために。
彼らが、人類を滅亡させた後。
――一年後。
道路は植物に覆い尽くされ、つるに巻きつかれた建物が崩壊し始めた。
――五年後。
道路は消えてなくなり、あたり一面緑に染まる。生い茂る森。動物たちの生態系にも変化が現れる。草食動物が増え、それを追って肉食動物も増えた。
――二十年後。
人が消えたことで、失われていた自然の治癒力が増し、元の自然豊かな環境へと変化した。
――二十五年後。
高層ビルの窓ガラスが割れ始め、避雷針が錆び落雷し、火の海に包まれた。
――四十年後。
自然火災、白アリ、腐食により木造家屋の倒壊が始まった。
――百年後。
巨大建築物に影響が出始める。橋という橋は水に没する。書物、フィルムは腐食された。
――二百年後。
高層ビルは崩れおち、人間の叡智をつめたものが消え始めた。
――千年後。
建造物などはすべて倒壊し、自然本来の姿を取り戻した。
――一万年後。
人間のいた痕跡はごくわずかしか残らず、あらゆる生命が謳歌する地球へと変貌を遂げた。
――人類滅亡結果。
地球は本来の姿を取り戻し、自然豊かな緑あふれる環境となる。
*
「――というところで目が覚めたんだ!」
「壮大な夢だな。お前の頭をかち割りたいくらいだ」
遼は、隣を歩く悪友竜樹に語りかける。二人で世界を壊滅させたという、妙に壮大な夢を。
「第一、俺は別に全人類壊滅させようなんて持論は持ってないぞ。確かに人間いないほうが地球のためだけど。死にたくないし」
「それは俺だって一緒だけど。ていうか何でこんな夢を」
「昨日映画観に行った影響じゃないか?」
「そういえば……」
そういえば、確かにそんな気もする。ちょうど某有名漫画が実写化され、その探偵役の番外編、といった映画を観に行った。それは、遼が見た夢と同じようにウイルスで人類間引きを企んでいる集団を阻止する、といった内容だったが。決定的に違うのは、その映画は最後は世界を救っていた。遼の夢は全く逆だ。
「ま、ただの夢だろ?」
「やけにリアルだったけどなー」
夕焼けに目を眇めながら、汗のにじむ額をぬぐう。隣の竜樹は汗一つなく、無表情なのでますます人形チックに見える。
「結局、夢の中でもエボラって理解不能だったんだよなー」
「それはお前の頭が緩いからだ」
「ひでー」
軽い会話を交わす二人の足元。丸い、丸いマンホール。
――あれ? 既視感?
思わず足を止めた遼。怪訝な顔つきで振り返る竜樹。
二人を嘲笑うかのように。
――鈍い、重い異音が響く。
それは遼の足元のマンホールから。
夢で聞いたような、金属を叩く音。
二人の額には、冷や汗が。夢でかいた冷や汗とは違う。青ざめた顔で、二人は顔を見合わせる。
ふと、聴こえた小さな声。
「助けて……」
二人は背筋を凍らせる。
まさか。
これはまさかの。
「「正夢――――――――――ッ?」」
10年以上前に書いたものを一度投稿して、途中で放置してたので・・・。
供養がてら完結まで投稿しときます。
若かりし頃の(黒)歴史です。




