第二話 名前を燃やす者 ーーマルコム
第一話 名前を燃やす者
——ブルー・ワシントンの夜の語り
(ピアノの前に座った老いた黒人ミュージシャン。薄暗い照明。グラスを傾ける客たち。彼は鍵盤に指を置き、数小節のブルースを奏でる。そして、語り始める。)
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こんばんは、みんな。俺だ。
今夜は、マルコムXの話をしよう。
(ピアノで低い音を一つ。)
俺が初めて彼の名前を聞いたのは、シカゴのクラブの片隅だった。1960年。俺はまだ駆け出しのピアニストだった。演奏が終わり、汗を拭いながらバーボンを舐めていると、隣のテーブルで黒人新聞を広げた男が呟いたんだ。
「ハーレムに新しい預言者がいるらしい」
(彼は少し間を置く。)
俺は新聞を借りた。そこには一人の男の写真があった。細身のスーツに細いネクタイ。眼鏡の奥の目は、カメラをまっすぐに見据えていた。その視線には、何かを求めるような、何かを訴えるような、それでいて一切の譲歩を拒むような鋭さがあった。
名前はマルコムX。
(彼は鍵盤から手を離す。)
X——未知数。数学の授業でなら、解くべきもの。でもな、ここでは違った。それは、失われたものだった。奪われたものだった。奴隷船に乗せられる前にあった、本当の名前。それを示す、空白。
その空白が、なぜか俺の胸に引っかかった。
音楽で言えば、休符だ。音のない部分が、かえって最も強い意味を持つことがある。彼のXは、そんな休符のように、沈黙のように、しかしその沈黙がこれ以上ないほど雄弁に語りかけていた。
(彼は自分の譜面台を指さす。)
俺はその新聞の切り抜きを、ピアノの譜面台に挟んだ。何年もの間、そこにあった。
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(ピアノ。低く、地の底から這い上がってくるようなベースライン。)
彼の生まれは、オマハ。1925年5月19日。
雷鳴の夜だったと聞く。彼の母ルイーズは白い木造家屋の二階で、痛みに耐えながら産声を待った。双子だった。弟はすぐにウィルフレッドと名付けられた。でも、兄は数日間、名無しのままであった。
特別な名が必要だと母は言った。その名は、後にマルコムと決まった。
マルコム・リトル。
誰も知らなかった。この名がやがて、燃えるように変わり、燃えるように語り、燃えるように消えることを。
(ピアノが止む。)
彼の最初の記憶は、炎だった。
四歳のとき、ミシガン州ランシングの自宅が、白いフードをかぶった男たちに包囲された。真夜中だった。母は彼と三人の兄弟を抱きしめ、床に伏せた。窓ガラスが割れる音。誰かの怒号。そして、マッチの擦れる音。
「燃えろ、黒んぼども。ここから出ていけ」
(彼は声を潜めて。)
彼は母の腕の中で震えた。母は震えなかった。母は静かに、しかしはっきりと呟いた。
「見なさい、マルコム。これが彼らよ。これが、この国の正義とやらよ」
炎が庭の生垣を飲み込み、家の壁を這い上がった。隣家の白人たちは、窓からそれを見ているだけだった。助けようとしない。手を貸そうとしない。ただ、炎の明かりを、まるで花火でも見るように眺めていた。
消防車が来たのは、家の半分が焼け落ちた後だった。
(彼は鍵盤に指を置く。)
俺はその話を聞いたとき、ブルースの旋律が頭に浮かんだ。低い、低い、地の底から這い上がってくるようなベースライン。それは彼の生涯を通じて響き続ける、最初の音だった。
(そのフレーズを実際に奏でる。)
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(ピアノが止む。彼は客席を見渡す。)
六年後、彼の父が死んだ。
路面電車に轢かれた。公式には「事故」だった。でも、黒人街の誰もが「事故」とは思わなかった。父は白人から「黒すぎる」と嫌われ、黒人からは「白すぎる」と嫌われていた。マーカス・ガーベイの黒人ナショナリズムを説く父は、常に標的だった。
遺体は損傷が激しく、彼は棺の中の父の顔を見ることが許されなかった。
(長い沈黙。)
母は精神を病んだ。七人の子どもたちはバラバラにされた。マルコムは、ミシガン州メイソンの養護施設に送られた。そこで彼は、ただ一人の白人にだけ、親切にされた。
スワンソン先生。彼女は彼に本を読むことの喜びを教えた。彼は貪欲に読んだ。図書館の本をすべて読み尽くすつもりでいた。彼女は言った。「あなたはとても賢い。きっと、いつか偉くなるわ」
彼はその言葉を信じた。信じたかった。
(彼の声が低くなる。)
しかし、中学三年生のとき、担任の教師に言われた。
「君は黒人だ。弁護士になる夢は諦めなさい。現実を見なさい」
(ピアノが止む。彼は鍵盤から手を引く。)
彼はその言葉も信じた。そして、信じることをやめた。
俺はその話を思うたびに、ピアノの鍵盤から手を引く。沈黙。何も弾けない。彼がその日、心の中で何かを閉ざしたように、俺の指も止まる。
信じることをやめる。それは、世界の音を遮断することだ。音楽で言えば、聴くことをやめる。
彼はその後、長い間、誰の言葉も聴かなかった。聴く必要がなかった。世界が、彼に聴く価値のあるものを何も与えなかったからだ。
(ピアノ。一つの音。虚無のように。)
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(ピアノのリズムが変わる。刑務所の重い鉄の扉のような音。)
ボストン。ハーレム。そして、刑務所。
1946年、彼は二十歳だった。窃盗罪で、チャールズタウン州立刑務所に送られた。そこでの十年——彼は後に「大学」と呼んだ。
(彼は少し笑う。苦い笑い。)
囚人仲間のビンブリーから、彼はイスラム教を知った。エリヤ・ムハンマドの言葉を知った。「白人とは悪魔である」という過激な教えは、彼のこれまでの人生すべてに、初めての「説明」を与えた。
彼は手書きで辞書を丸ごと書き写した。一ページ、また一ページ。獄中の灯りの下で、指は真っ黒になり、目は霞んだが、彼は止まらなかった。文字が、言葉が、知識が、彼の中で武装していくのを感じた。
(ピアノが力強くなる。)
出所した1952年、彼は名字を捨てた。
「リトル」——それはかつて白人奴隷主が先祖に与えた名前だった。彼はそれを、燃えるゴミのように捨てた。
代わりに、Xを取った。
マルコムX。
未知。失われた真の名。取り戻すべきものの象徴。
彼はエリヤ・ムハンマドの下、ハーレムの寺院で語り始めた。
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(ピアノが止む。彼は客席を見る。)
俺が初めて彼の声を聴いたのは、その数年後だ。
レコード屋で、彼の演説のLPを見つけた。ジャケットには、彼の鋭い目と、上げられた人差し指。俺はそれを買い、スタジオに持ち帰った。
針を落とす。ノイズ。そして、彼の声。
(彼は目を閉じる。その声をもう一度聴くように。)
声は低かった。キング牧師のような朗々とした響きではない。もっと地の底から這い上がってくるような、唸りのある声だった。
「お前たちは『我々には時間を』と言う。『我々には忍耐を』と言う。だが、お前たちは百年間、我々に何も与えなかった!」
拳が何かを叩く音。
「公民権法だと? あんなものは紙くずだ。銃を持った男の前で、紙切れがお前を守れると思うか?」
(彼の声が徐々に熱を帯びていく。まるで自分がその場にいるかのように。)
彼の声は熱を帯びていく。会場の拍手、叫び、足音。熱気がスピーカーから溢れ出した。
「非暴力だと? お前たちは殴られても殴り返さないと言う。だが、私に言わせれば、それは犬に噛まれても噛み返さないのと同じだ。犬に噛まれたら、私は犬を殺す!」
(彼はそこで止まる。目を開ける。)
俺はその言葉に、ゾクッとした。キング牧師の「愛」に心を震わせたことが何度もあった。でも、この声は違った。それは、愛ではなかった。それは、痛みだった。怒りだった。何年も、何百年も、押し殺してきたものが、ついに爆発する音だった。
(彼は自分の胸に手を当てる。)
俺はそのLPを何度も聴いた。何度も何度も。彼の声が、俺の音楽に入り込んできた。
キング牧師の声が光だとすれば、マルコムXの声は炎だった。燃えるような、焼き尽くすような、しかしその熱さの中に、かえって純粋な何かがあった。
(ピアノ。炎のような速いフレーズ。)
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1964年、彼はメッカへ向かった。
(ピアノのリズムが変わる。巡礼の、静かな歩調。)
その知らせは、音楽業界の黒人たちの間でも衝撃をもって広まった。マルコムXが——あの「白人悪魔論」のマルコムXが——イスラム教の大巡礼に出るというのだ。
彼は変わった。あの過激な教えを、自らの手で燃やした。
かつての仲間たちは彼を「裏切り者」と呼んだ。命を狙う者もいた。自宅には火炎瓶が投げ込まれ、彼と妻ベティ、四人の娘たちは、何度も引っ越しを強いられた。
(彼の声が強くなる。)
それでも、彼は語り続けた。
「私はこれまで、多くの間違いを犯してきた。しかし、間違いを認めることを恥ずかしいとは思わない。恥ずかしいのは、間違いに気づきながら、それを認めないことだ」
(彼は鍵盤に指を置く。新しい曲を弾くように。)
俺はその言葉を聞いたとき、ピアノの前に座り、新しい曲を書き始めた。タイトルは「Changing Man」。変わることを恐れない男への、賛歌だった。
彼は変わることを選んだ。それは、自分の過去を否定することではなかった。燃やしたものは、灰になって、新しい種を育てる土になったのだ。
(ピアノ。その曲の一部を奏でる。)
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(ピアノの音が突然止む。沈黙。)
1965年2月21日。ニューヨーク、オーデュボン・ボールルーム。
(彼の声が低くなる。)
俺はその日、ツアーで西海岸にいた。朝、ホテルのテレビをつけたら、ニュース速報が流れていた。
「マルコムX、暗殺される」
(彼はそこでもう一度繰り返す。その言葉の重みを噛みしめるように。)
マルコムX、暗殺される。
画面には、彼が倒れた演台の写真。血の跡。割れたメガネ。会場から運び出される担架。
(長い沈黙。)
俺はテレビの前に立ち尽くした。ピアノはない。音はない。ただ、テレビから流れるアナウンサーの無機質な声だけ。
「演説中、複数の男に銃撃されました。搬送先の病院で死亡が確認されています。彼は、三十九歳でした」
(彼はそこで止まる。)
三十九歳。キング牧師も同じ年だった。同じ三十九歳。
俺はホテルの窓から外を見た。西海岸の空は、青く澄んでいた。その青さが、なぜか憎らしかった。
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(ピアノ。葬儀の鐘のような低い音。)
彼の葬儀は、ハーレムのフェイス・テンプル教会で行われた。
オシア・デイヴィスが弔辞を読んだ。
「ここに横たわるのは、私たちの誇り高き兄弟だ。彼は多くの名を持った——マルコム・リトル、マルコムX、エル=ハッジ・マリク・エル=シャバーズ。しかし、私たちにとって彼はただ『私たちの黒い王子』だった」
(彼は客席を見渡す。)
会場の外では、一万五千人もの人々が集まっていた。彼らは寒さの中、黙って並び、最後の別れを待っていた。その列は数十ブロックに及んだ。
俺はその中に、白人の若者たちが混じっているのを知った。彼らは、かつてマルコムが「悪魔」と呼んだ人種の者たちだった。でも、彼らはそこにいた。最後の別れを惜しむかのように。
(彼の声が遠くを見るように。)
彼は変わった。そして、彼が変わったからこそ、彼の死は、まだ変わらざるを得ない多くの人々の胸に、何かを刻みつけた。
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(ピアノ。朝の空気のような、静かで透明なフレーズ。)
彼の死から数年後、俺はハーレムを歩いた。
朝の五時。彼が好きだったという時間。街はまだ誰のものでもない。
百二十五丁目を歩きながら、彼の言葉を思い出していた。
「俺に会うなら、朝がいい。朝の五時、ハーレムの街を歩いている。あの時間は、街がまだ誰のものでもないからな」
(彼は目を閉じる。)
ある角で、俺は立ち止まった。かつて彼が演説した寺院の跡。今は別の建物になっていたが、その場所に立つと、彼の声が聞こえる気がした。
「俺に言わせれば、この国は裁判所で正義が実現するのを待っている間に、何世代もの黒人が墓の中に消えていった。俺は待たない。待つことは、死ぬことと同じだ」
(彼はゆっくりと目を開ける。)
彼の声は、今もここにある。彼の怒りは、彼の痛みは、彼の変化は、彼の最後の言葉は——すべて、この街の空気の中に、まだ残っている。
(彼の声が優しくなる。)
彼が撃たれた時、誰かが彼の口に耳を寄せたと言う。彼が最後に言った言葉は——「何も怖くない」。
それが何を意味するのか、俺にはわからない。でも、一つだけ確かなことがある。
(彼は鍵盤に指を置く。)
彼は、名前を燃やした。白人奴隷主が与えた名前を、彼は燃やした。自分を縛るあらゆる枠組みを、彼は燃やした。そして最後には、自分自身の過去の信念さえも、彼は燃やした。
灰の中から、新しい名前が生まれた。
それはXではなかった。それは、自由への——
(ピアノ。その言葉を音にしたような、未完のコード。)
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(彼は客席を見渡す。一人ひとりに語りかけるように。)
俺はスタジオに戻り、ピアノの前に座った。
譜面台には、あの新聞の切り抜き。彼の鋭い目が、俺を見つめていた。
俺は鍵盤に指を置いた。低い音から始まるブルース。地の底から這い上がってくるような、唸りのあるベースライン。それは彼の声だった。
(そのベースラインを奏でる。)
キング牧師の声は光だった。マルコムXの声は炎だった。
光は照らす。炎は燃やす。照らされるだけでは、何も変わらない。燃やさなければ、新しいものは生まれない。
彼は燃やした。差別を。屈従を。そして自分自身の限界さえも。その炎は、彼自身をも焼き尽くした。
でもな、灰は土になる。土から、新しい何かが芽吹く。
(ピアノ。その「新しい何か」を予感させる、優しいコード。)
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(彼はピアノの蓋に手を置く。)
彼は燃やした。名前も、過去も、限界も。
彼は変わった。変わることを、恐れなかった。
彼は死んだ。しかし、彼のXは、代数のように——未知数として、永遠に残り続ける。
(長い沈黙。)
でもな、名前を呼ぶ声は消えない。燃えた灰の中から、新しい名前が生まれる。その名前は、まだ誰も知らない。Xのままかもしれない。あるいは、自由への——まだ見えない何かかもしれない。
(彼は鍵盤に指を置く。最後のコードを鳴らす前に、もう一言。)
静かに。
繰り返し。
祈りのように。
ブルースのように。
(ピアノ。最後のコード。長く、長く伸びる。そして、静かに消える。)
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マルコムXのために。
1925年5月19日 - 1965年2月21日。
彼は燃やした。ただ、それだけだった。
そして、灰の中から、まだ名もなきものが芽吹く。
(拍手。深い敬意を込めた拍手。彼は軽く会釈する。その目はどこか遠くを見ている。しばらくの間——長い間、彼は何も言わなかった。ピアノの前に座ったまま、その余韻に浸っている。そして、ゆっくりと次の曲へと指を動かす。)




