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第45話 終わりの鐘と、南風の約束

これで1章の終わりです!

2章は溜めてから始める予定なので6月位には再開しようと思います。

その間は不定期で夏休みの間章あげます。

 カーン、コーン、と。

 学園の時計塔から、一日の終わり――そして、波乱に満ちた一学期の終わりを告げる鐘の音が鳴り響いた。


「お、終わったぁぁぁ……っ!」

 同時に、教室の真ん中でリリィが机に突っ伏し、魂が抜けたような声を上げた。

 今日まで三日間にわたって行われた、地獄の期末筆記試験。

 実技試験が中止になったことで異常なまでに難易度が跳ね上がっていたそのテストが、今ようやく全日程を終了したのだ。


「お疲れ様、リリィ ……ほら、採点結果が戻ってきたよ」

 カイルが、教卓の魔導器から自動で吐き出された結果用紙を配って回る。

 リリィは恐る恐る顔を上げ、裏返しにされた自分の用紙を、指の隙間から細目で覗き込んだ。


「……ご、四十三点!?」

「赤点ラインが四十点だから……本当にギリギリだったね」


「やったぁぁぁ! 赤点回避! 補習なし! 私の夏休みが守られたよぉぉっ!」

 両手を突き上げて歓喜の舞を踊るリリィを見て、レイナは思わず吹き出してしまった。

 つい先日まで、正体不明のテロリストの恐怖に怯えていた教室。

 けれど今、リリィが全身で表現する「学生らしい喜び」が、重苦しかった空気を完全に吹き飛ばしてくれていた。


「ふん。私やレイナ、カイルが毎晩図書室で叩き込んでやらなければ、今頃あなたは海の底ではなく、補習室の机に沈んでいたでしょうね。

 感謝しなさい」

 全科目でトップクラスの成績を叩き出したカトレアが、呆れたようにため息をつく。

 だが、その口元は微かに綻んでいた。


「わかってるって! もー、本当に三人ともありがとう! というわけで……」

 リリィはレイナたちの前に身を乗り出し、パァッと顔を輝かせた。


「約束通り、明日からの夏休みは、みんなで私の実家……ブライト領にご招待します!」

「ブライト領って、王国のずっと南の方だよね。僕、行ったことがないんだ」

 カイルが興味深そうに尋ねると、リリィは自慢げに胸を張った。


「すっごくいい所だよ! 一年中暖かくて、海は底まで見えるくらいエメラルドブルー!

 海沿いには大きなヤシみたいな木がたくさん生えててね、甘くて濃厚な黄色い果実とか、爽やかな酸味の柑橘とか、とにかく美味しいものがいっぱいなの!」

「へえ、それは楽しみね。王都のジメジメした夏から抜け出せるのは悪くないわ」


「でしょ? あとね、海鮮はもちろんだけど、地鶏の炭火焼きみたいな郷土料理が絶品でね……あ、レイナ、水着は持ってる!?」

 勢いよく話を振られ、レイナは目を丸くした。


「み、水着……? ううん、持っていないわ」

「じゃあ領地に着いたら、一番に街へお買い物に行こ! レイナのお肌は真っ白だから、きっと鮮やかな色が似合うよ!」

 矢継ぎ早に夏の計画を語るリリィ。

 美味しい食べ物、美しい海、そして初めての「お出かけ」の約束。

 アッシュベルクの霧の中では想像もつかなかった眩しい未来の予定に、レイナの胸の奥がじんわりと温かくなる。


 ――トントン、と

 教壇を軽く叩く音がして、教室が静まり返った。

 セレナ先生が、いつものように凛とした姿勢で生徒たちを見渡している。

 しかし、その瞳の奥には、いつもより柔らかな光が宿っていた。

「全員、席につきなさい

 ……さて、これで今学期の全課程が終了となる」

 セレナは一度言葉を切り、静かにクラス全員の顔を見つめた。

 ユーリの空席,そして、激戦を乗り越えた生徒たちの、少しだけ逞しくなった顔つき。


「この数ヶ月、諸君にとってはあまりにも過酷で、理不尽な出来事が続いた。

 ……己の無力さを痛感した者も、隣人を信じられなくなった者もいるだろう」

 セレナの言葉に、ギルバートをはじめとする数人の生徒が、ハッとして俯く。


「だが、諸君は今日、こうして無事に一学期を生き抜き、終えた。

 その事実をまずは誇りなさい」

 セレナは小さく微笑み、言葉を続けた。


「明日から、夏季休暇に入る。

 魔法の研鑽も結構だが……まずはしっかりと休養を取り、大いに楽しみ、傷ついた心と体を癒してきなさい。

 学生にとって、遊ぶこともまた重要な義務よ」

 その言葉に、教室中から安堵と喜びの入り混じった、温かな溜息が漏れた。

「では、解散 ……九月にまた、全員の元気な顔を見られることを期待しているわ」



***

 放課後、寮へ戻るため、レイナは校舎の扉を押し開けた。

 外には、本格的な夏の訪れを告げる、力強くも爽やかな風が吹いていた。

 数ヶ月前、この学園の門をくぐった時のことを思い出す。

 他人が怖くて、世界の色が眩しすぎて、ひたすらに自分を『灰』で覆い隠そうとしていた孤独な少女。

(……おばあちゃん)

 レイナは、胸元のペンダントにそっと触れた。

 石はもう冷たくない。

 レイナ自身の体温を吸い込み、穏やかな熱を持っている。

(私……明日から、友達と海に行ってくるね。美味しいものを食べて、笑って……私自身の『色』を、もっと見つけてみるよ)

 空を見上げると、抜けるような青空の向こうに、うっすらと新緑のような風の気配が揺れた気がした。


「レイナ! 早く早く! 荷造り手伝って!」

「……ええ、今行くわ」

 リリィの呼ぶ声に、レイナは弾むような足取りで駆け出した。

 彼女の灰色の世界に、いま確かな『夏の色』が、眩しいほどに広がろうとしていた。

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