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ドゥームズ・デイ・クロック  作者: レグルス
パラダイス・ロスト掃討編
16/16

ノブレス・オブリージュ

 まるで軍隊の様に規律を遵守し、厳しい訓練を受けて育て上げられる学園、「ストリェローク学園」。今回派遣された3人の内2人は例外中の例外と言えよう。


 今回彼らが派遣されたのは、独裁政権を敷いていると言う噂のとある王国だった。その王国の軍団と市民の間で紛争が起きてるらしい。その鎮圧は、彼らにとっては得意分野である。


「さーてと、今日は邪魔な雑魚共どもも居ないし、思う存分暴れられるぜ!」


「はぁ……全く。貴方には"品"ってものが無いのね。別にどうでも良いけど」


 2人のやり取りを見て、顔をしかめる教官、セルゲイは何時もこんな調子の2人にため息を吐く。


「良いか貴様ら、此処はもう戦場だ。気を引き締めろ!」


 セルゲイの一喝にもまるで動じない2人。本当に困ったものだと、何時も悩まされる。だか、2人の実力が折り紙付きなのもまた事実であり、誰も非難など出来ないのが現状だ。


 セルゲイとは古くからの付き合いで、"同志"とも呼べる学園長のアナスタシアが推薦したのだから、問題は無いだろうと自分に常に言い聞かせながら、2人を背後から見守り街へと向かう。


 街に着くと案の定、既に紛争が巻き起こっており、激しい爆音と銃声が鳴り響いている。


「あれ? どっちの味方するんだっけ?」


 イリーナが質問するとセルゲイは呆れた顔で答えた。


「ちゃんとブリーフィングを聞いて無かったのか? 我々の任務は王国側の護衛に入り、暴徒と化した市民から死亡者を出きるだけ出さない様に事態の……」


「あー、オッケーオッケー。王国の護衛ねー」


 説明の途中だったが、イリーナは突撃小銃(アサルトライフル)聖印武装(クラフト・アーツ)を展開して、街へと飛び出して行き、ルドルフが慌てて後を追う。


「また、これだ……。戦果に拘ってどうすると言うのだ。大戦でも無かろうに……」


 セルゲイは独り愚痴を溢し、近くに在った建物の屋根に飛び乗り、戦況を確認する。


「ん? どういう事だ? 市民の数が多いな。何処かの国の軍が混じっているな」


 セルゲイは通信機を 取り出し、2人に告げた。


「良いか良く聞け、市民の他に他国の軍が混じっている。先ずはそいつらを排除しろ」


 冷静に状況を見極め、指示を出す。それは彼が嘗て本物の軍隊として従事し、培って来た経験の差が物語っている。


「ラッキー、じゃあそいつらから始末しないとね!」


 イリーナは外見で明らかに軍隊だと分かる人間を狙い、銃弾をばら撒いて行く。適当に見えてその銃弾は的確に頭を撃ち貫き、一撃で排除して行く。


「んー! このシューティングゲーム感覚! やっぱり堪らないわ!」


 彼女は嬉々として殺戮行為に走っている。


 一方のルドルフも、散弾銃型の聖印武装(クラフト・アーツ)で次々と軍隊を吹き飛ばして行く。


「楽しいねぇ! 今日は邪魔も少ねぇし、最高だぜ!」


 至近距離から離れた弾丸は、時に人を肉塊へと砕け散らせる。それもまた、彼にとっては楽しみの1つなのだ。


 たった2人だけで戦況を引っくり返す程の戦闘能力……これが学園長が推薦した理由に他ならない。


 そんな時、とある店からこの状況では場違いとも思える2人の少女が出てきた。1人は何処どこかの王女の様な姿をし、もう1人はその少女に従事してると思われる侍女(メイド)だった。


「うーん、可笑しいわね。私が負ける筈なんて……。リリアン追加の賭け金を頂戴」


「ダメです! 幾らソフィ様の頼みでも、これは先代との約束ですから!」


 戦闘が繰り広げられている中、堂々と姿を現した少女達。間違いない、あれが七罪(セプテム)の一員だ。そう思ったセルゲイは狙撃銃型の聖印武装(クラフト・アーツ)を構え、王女らしき少女の頭を狙う。出きるだけ殺気を消し、静かに引き金を引いた。


 だが、弾丸は反れた。標準は定まっていたし、何より彼は大戦時代"伝説級のスナイパー"として名を轟かせ、見方からは守護神。敵からは死神と畏れられた程の腕前を持つ人物だ。


(何故だ? 何処からか、相殺されたか?)


 セルゲイは位置を素早く変え、もう一度射撃して見るが、結果は変わらなかった。


(何かが可笑しいな……)


 そして、少女らはゆっくりと歩いて行き、前線で戦っている2人の前に歩み出た。途端鎮まり返る民衆達。


「ご機嫌よう聖組織(エクスペリメント)の皆様方。私はソフィ=ルフェーブルと申します。以後お見知り置きを」


 静寂に包まれた中、少女ソフィはドレスの裾を持ち上げて片足を後ろに下げ、丁寧に挨拶する。


「あ? んだテメェは」


「可愛いドレス! 良いなぁ私も着てみたいわ」


 セルゲイはやり取りを静観して見る事にし、気配を消して双眼鏡で様子を伺う。


「クスクス、それは光栄ですわ。所でお二方はノブレス・オブリージュと言う言葉はご存知でしょうか?」


 当然知る訳も無い2人は唖然としてソフィを見つめる。


「要約致しますと、"高貴なる者の義務"と言う事です」


 それがどうしたと言わんばかりに苛立ち始めるルドルフ。彼はソフィに銃を向ける。


「ごたくは要らねぇんだよ! つか誰何だよテメェは!」


 ソフィの勿体ぶった態度が気に食わなくなったルドルフは銃を突き付け脅す様に訊ねる。


「まぁ、そんな慌てずに先ずはご静聴願えると……」


 その辺りまで喋った所で苛立ちを抑え切れなくなったルドルフは、遂に引き金を引いた。至近距離からの散弾銃の攻撃。先程まで、何人もの人間を肉塊へと変えて来た攻撃が放たれる。


 が、ソフィは平然としていた。そもそも弾丸が1つも当たって無いのだ。あの至近距離からで当たらない事など有り得ない筈だが……。


「落ち着きの無い方なのですね。でも構いませんよ。そう言う方もいらっしゃいますから」


 ルドルフは挑発されている気分になり、弾倉が空になるまで何度も銃を乱射した。しかし、結果は変わらず、掠り傷1つ付けられ無かった。


「おい! 何なんだよコイツ! どうなってやがる!」


 ルドルフが弾倉を交換しようとした隙を付いて、隣に佇んでいたメイドが素早く銃を蹴り上げて弾き飛ばし、そのまま腕を掴んで強引に向きを回転させる。そして、膝の関節を蹴り、膝を着かせ何処からか取り出した刀を首筋に当てる。その動作の一切に無駄は無く、瞬く間に捕らわれてしまった。


「ソフィ様へのご無礼は許しませんよ!」


 そのメイドは明るく子供の様な声で告げるものの、ルドルフの喉元に刃を押し当てる。ヒンヤリとした感触が全身にまで伝わり、冷や汗をかく。その洗練された一連の動作に流石のルドルフも驚きを隠せない。


「リリアン。構いませんから離して差し上げなさい」


 ソフィの言葉を聞いてルドルフを解放するリリアン。刀を納刀して、再びソフィの隣に並び立った。


「えーと、何処までお(はなし)しましたっけ? あっそうです! ノブレス・オブリージュについてでしたね」


 ソフィは両手を合わせてパンッと音を立てて、会話を続ける。


「つまり、私達の様に高貴なる者には民を救い、弱者を救い、強者を挫き、悪を討ち倒すと言う義務が課せられている、という意味です」


   そしてソフィは周囲を見渡し、両手を後ろで組んで告げる。


「此処にいらっしゃる方々は、この国の王によって虐げられ、苦しめられて来たのです。本来守るべき筈の存在である民達を、選りにも選って王が苦しめるなど、到底許される事では有りません」


「もう良いよ、分かったよ。そんなもんアタシには関係無いのよ」


 イリーナが突如口を開き、挑発的な発言をする。


「大体義務だか何だか知らないけど、要は力が無いそいつらの責任でしょ? 悔しかったら抗って見なさいよ、自らの手で」


「これは意外でした。貴女達は正義の味方では無いのですか?」


 イリーナの発言に首を傾げるソフィ。


「知らない。少なくともアタシには関係無いね!」


 そしてソフィに向かって銃剣を向けて飛び出すイリーナ。それをリリアンが刀を用いて食い止める。


「ソフィ様に手出しはさせません!」


「やっと乗ってくれた! 最初からアンタと戦いたくて仕方無かったのよね!」


 イリーナは嬉々とした表情になり、戦闘そのものを楽しみ出す。互いに刃を躱しては再び鍔迫合い、ほぼ互角の戦いが繰り広げられている。


「あらあら、リリアンったら相変わらずね。所で、相方さんはリリアンの()()()()に成ってくれてる見たいだけど、貴方はどうします? 私とお茶会でもして待ってましょうか?」


 ルドルフはその言葉に苛立ち、ソフィに迫る。


「今だったらあのメイドも居ねぇ! だったら俺だけで十分だ!」


 ルドルフは腰に刺してあったサバイバルナイフを取り出し、ソフィに斬り掛かる。


「クスクス……貴方もせっかちさんですね」


 凶刃が迫る中、臆する事無く立ち尽くすソフィはただ一言呟いた。


強欲の指(マモン)


 すると、ルドルフのナイフが真っ二つに折れた。流石のルドルフも、何が起きたか分からず唖然とする。


「テメェ……何しやがった!」


 だが、直ぐに何時もの態度に戻り、素手でソフィの胸ぐらを掴み締め上げる。


「何も……していません……」


 息が詰まりまともに喋れ無いソフィは、掠れた声で答える。


「く……苦しい……ので……離して下さい……」


「知らねぇよんな事は!」


 そのままソフィの顔面を殴り付けるルドルフ。しかし、次の瞬間ルドルフはまるで誰かに殴られた様に吹き飛んだ。


「ぐっ……ってぇー。どうなってやがる?」


 確かに自分が殴った筈なのに、殴られたのは自分だった。それも何処から殴られたのかは分からない。


「どうかされました? 大丈夫ですか?」


 ソフィはそんなルドルフに(わざ)とらしく質問する。それは最早、煽りにも近い言い方だった。


 ルドルフは先程弾き飛ばされた自身の散弾銃を広い上げ、弾を装填し至近距離から再度撃ち込んだ。


「くたばれ! このアマ!」


 引き金を引いた途端、ソフィは不敵な笑みを浮かべた。そして、大量の血飛沫を撒き散らしながら宙を舞うルドルフ。


「がはッ……」


 彼はそのまま動けなく成った。


「あら? こんなに大怪我をされて大変だわ」


 ソフィは小さな宝石を1つ取り出し、空中に投げる。するとそれは剣の形へと変化し、彼女の横を浮遊する。


「その状態じゃあ生き地獄でしょう? 今楽にしてあげますからね」


 ソフィがそう呟くと剣はルドルフ目掛けて射出された。ずっと様子を伺っていたセルゲイは剣を射撃して、破壊する。剣は砕け散り、粉々になった。


「あらあら、私の貴重な財産を……」


 ソフィはセルゲイの方を睨む。


「ずっと隠れていらっしゃったのは存じてますよ」


 彼女は今度は数枚の金貨を片手で持てるだけ持ち、セルゲイに向けてばら蒔く。するとそれは弾丸とも矢とも言える形状に変わり、高速で飛翔する。そして、セルゲイが潜んでいた建物に突き刺さり、派手に爆発した。


 セルゲイは急ぎ建物から脱出して、ソフィを狙って銃弾を放つが、やはり全てが命中しない。


(何だ? 奴の能力の正体は?)



 一方、2人で死闘を繰り広げるイリーナとリリアンは街の郊外の方まで来ていた。


 リリアンは何処から途もなく様々な武器を取り出して、オールレンジで攻撃を仕掛ける。イリーナはそれを見てある事に気が付いた。


「リリアン……だっけ? アンタ」


「それがどうかしましたか?」


 互いに銃弾の雨を掻い潜りながら、対話している。イリーナは思った事を確めるべく、彼女に()()()()を投げ掛けて見た。


「アンタ、良くそんなに沢山の武器持てるわね。まるで"歩く武器庫(ワンマンアーミー)"だわ」


 その言葉を聞いて、一瞬硬直するのを確認したイリーナは更に追い打ちを掛けるように呟く。


「"灰塵の凶鳥(グリ・フレスベルグ)"」


 それを聞いたリリアンは攻撃を止め、立ち止まる。イリーナもそれに合わせる様に静止する。


「やっぱり、分かってたんですね……"紅蓮の狂犬(クリムゾン・ハティ)"」


 互いに睨み合い様子が変わる2人。2人にしか通じない()()()有るのだ。


「ふ~ん。て事はアンタは祖国を裏切ったのね。まさかメイドやってる何て思いもしなかったわ」


「貴女こそ、良くあんな国に従事出来ましたね。実力の差ですか?」


「同じ異名持ち(ネームド)なのに、実力差は無いでしょう? それにアンタの方が能力者の分、アドバンテージは大きい筈」


 2人は同時に銃を構える。そして、同時に引き金を引く。互いの銃弾が衝突し、破裂する音が鳴り響くと同時に2人は動き出した。


 2人共に銃を乱射するも、互いの銃弾は衝突し合い破裂して行く。彼女らには弾道が見えているのだ。


「アンタ、暗殺しに行った相手に従事してるとか、狂ってるんじゃない?」


「何も知らない癖に! 勝手な事を言うな!」


 2人は互いに罵り、合いながら戦闘を繰り広げる。そして、イリーナは銃剣を構えて一気に距離を詰める。


 リリアンはそれに反応して天高く飛翔し、ロケットランチャーを取り出す。そして、それを両手に装備し、ロケット弾の雨を降らす。


 彼女の眼下は一気に焦土と化し、焼け焦げた匂いと爆煙が充満する。彼女の異名『灰塵の凶鳥(グリ・フレスベルグ)』とは、この姿から取られた物だ。


 そして、爆煙の中からイリーナが飛び出し、彼女との距離を詰める。彼女は手にしていたランチャーを捨て、空かさず刀を取り出す。


「アハハッそう来なくっちゃねぇ!」


 互いの刃が交錯し、火花を散らす。イリーナの素早い動きにリリアンは段々と翻弄されて行く。そう、この素早い動きで敵を屠る姿こそが、イリーナの異名の由来なのだ。


 如何なる時でも臆する事無く敵地へ飛び込み、銃剣で次々と敵を刺し殺すその様がまるで狂犬の様だと。


「久々だよ! 誰にも邪魔されず純粋に殺し合うこの感覚! あー至福だわ!」


 普段のイリーナとは打って変わって、狂気に汚染されたかの如く、リリアンと斬り結ぶ。勿論、自身の怪我など彼女の範疇には無い。


「この、サイコパスがぁ!」


 リリアンは必死に応戦して行く。刀のリーチの長さを利用しても、イリーナの素早さの前には意味を持たない。()してや、彼女は負傷を恐れ無い。


 リリアンは距離を取り、呼吸を整えて呟く。


『リミットアウト!』


 途端、彼女の身体能力が極限まで強化される。いや、それこそが本来の彼女の身体能力なのだ。人間は皆、いざと言う時の為に、全体能力の殆どをセーブされている。それを故意に解放し、全力を引き出すのが、この『リミットアウト』なのである。


 瞬間、イリーナを上回る速度で斬り込むリリアン。瞬く間に彼女の全身を複数回斬り付けていた。


「やるじゃないの……そうよ……これを待ってたのよ!」


 イリーナも同じ様に『リミットアウト』を発動し、彼女と同等のスピードで互いに斬り付けて行く。地面を蹴るだけで一気に跳躍し、自在に空中を飛び回る。そして、空中で何度も斬り結んで行く2人。空中には飛び散る火花しか見えず、彼女らの異常さが見て取れる。


「アハハハッ! 最高だわ! やっぱり良いわねぇ! 戦いってヤツは!」


 狂った様に笑いながら嘗ての同志ですら殺す事を厭わない。それが彼女達の育った環境であり、存在理由でもあるのだ。


 しかし、幕引きは唐突に訪れるもの。互いに急接近し、急所目掛けて互いの刃を突き付ける。ズブッと鈍い音がして、お互いの心臓辺りに刃が貫通する。


「がはっ……まさか……ね」


「ソフィ……さま……申し訳ありません……」


 互いに刃を引き抜き、同時に落下して行き地面に叩き付けられる2人。傷口からは鮮やかな赤い血が流れて行き、地面を真紅に染める。


 だが、それこそが彼女らにとっての勲章である事は間違い無いのだ。傷は勲章であり、祖国の為の犠牲は誉れである。何度も言い聞かされた言葉だ。イリーナは過去の事を少し思い出し、そっと目を閉じた。


「ちょっと……疲れたから……休ませてよね……」


『リミットアウト』の反動で、全身の筋肉に力の入らなくなったイリーナは、休んでから応援に行く事にした。

激闘の末に嘗ての同志、リリアンを撃破したイリーナ。


次回、謎の力を持つ少女ソフィとセルゲイが遂に激突する!

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