第84話 ライル王との戦い
王とソーマはお互い構えたままの睨み合いが続いている。
(あんな大きい剣のくせに全然隙が無いな……めちゃくちゃ強そうだぞ)
「どうした? 変わった構えだが……来ないのか?」
王はニヤリと笑みを浮かべソーマを挑発する。
攻めてみなければ分からないか、と観念したソーマは身体強化と疾風を使い、さらに局所突風にてゼロスタートから爆発的な加速を以て王に対し神速の居合斬りへと踏み込む。ソーマの十八番である。
まるでその場から消えたかのように見える居合斬りにソーマは保険として、自身の前と後ろに鉄の礫弾も放っていた。
もし王が見えているのなら、神速で迫るソーマの前に礫弾も迫っているように見えるはずで、ソーマの後方の礫弾には気付かない。
ソーマはどう出るか分からない王の一挙手一投足を凝視しながら刹那の間に間合いへと入り込む。
王は先に迫る礫弾を、おそらく突風だろうか、軌道を逸らすと同時に身の丈ほどもある大剣を軽々と振り、ソーマに対し水平に薙ぎ払った。
ソーマは想像以上の速度で迫る大剣をギリギリのところでしゃがんで躱すと、そのまま王の足目掛けて居合斬りを見舞った。しかし王もソーマに一振りを躱された時には既に屈んで準備しており、即座に上空へ飛ぶことでソーマの水平斬りを逃れた。
ソーマはさらに追撃のため、上空に飛んだ王に向けて三発の礫弾を即座に放つ。一発一発が弾丸のような速度で放たれるその礫弾を王はやはり風魔法を使って軌道を逸らした。
それでは、とソーマはさらに斬空剣を三撃見舞う。こちらは飛ばしているわけではないので風魔法では防げない。さらにソーマの小太刀の振りによる短いスパンの三連撃では大剣で弾くにしても得物の重さの違いで三振りで相殺させるには難しい……はずであった。
王はその三連斬空剣を、大剣の豪快で大きな一振りで全て消し飛ばし、優雅に着地した。
観客席に座る一部の兵たちからはざわめきが起こる。大半の兵は今起こったこと全てを把握していないだろう。
丸眼鏡とマキナは真剣な面持ちでそのやり取りを見つめ、フィオナはソーマの戦いを全て捉えきれない悔しさに唇を噛みしめていた。
(なんだか懐かしいな……ダンやミスタリレの騎士団長のブライアンとやり合ったことを思い出す。歴戦の猛者はなんていうか……勘が鋭いんだよな)
ソーマはじんわりと滲む汗と感じながらも笑みを浮かべていた。
戦いの勘が鋭い者は不思議とこちらの手を読んでいるかの如く、即座に最適解を導き出して反応してくる。
王との戦いからそんな過去の戦いを、ソーマは思い出していた。
「はっはっは、想像以上の強さだな! では今度は私から行くぞ!」
王は離れた間合いから大剣を振りかぶり、水平斬りを見舞う。
ソーマは離れすぎた間合いから、斬空剣か衝撃波の類かと察したが、王は振りと同時にその大剣の慣性も利用して加速し、ソーマを大剣の間合いに捉える。
引くか詰めるかを迷ったソーマは後手に回ってしまった。飛んでは隙を晒すがしゃがんでの躱しは先ほど見せている。
結局さらに迷ってしまったソーマは、ソーマから見て左側に振りかぶっている王の大剣に対し、右側に躱しながら剣線が来るであろう所に何枚もの分厚い鉄の地壁を作り出した。
ソーマから見て王の右側に回り込むように逃れるも、王は鉄の壁をまるでゼリーを斬るかの如く易々と切り裂いていく。
(なんだなんだ?! 馬鹿力か……それとも斬鉄剣? 心眼か?!)
まるで盾の役割を果たしていない鉄の壁に結局ソーマは飛び上がって斬撃を避けるより他になかった。
大剣を振り抜いた王と上空のソーマは視線を交わす。
(こえぇぇ!! 次何してくるかわっかんねぇけど、とりあえず一瞬たりとも油断出来る相手じゃねぇ!!)
ソーマは極限の集中力を以て王の挙動を凝視する。
足先指先から重心の細かな移動まで見逃さないよう注視し、相手の次の一手を少しでも早く察知する。
ソーマは自分から攻めないと決めていた。振りの大きい大剣は良い状態で躱せさえすればカウンターを決めやすい。
その為にも、一瞬でも早く次の相手の攻撃を見切り、反撃しやすい回避をしなければならない。
あまりにも長く感じる滞空、その隙を逃す王ではない。
王は瞬時に身体を半身捻り、ソーマに対して真下から切り上げを放つ。
ソーマはわざと宙返りで跳んでおり、頭を下に向けてその様子を見切っていた。
直後、上空にソーマの足ほどの鉄の地壁を作り出す。上空の足場となったそれを踏み込み、ソーマは切り上げてくる大剣スレスレを狙って地面へと飛び込んだ。
王の大振りの切り上げと同時、ソーマは地面に着地した瞬間に王へと飛び込みそのがら空きの胴を水平に斬る……はずであった。
しかし王は腰に帯刀していた片手剣を即座に左手で半身抜き、ソーマの水平斬りを受けたのである。
そのまま細身の片手剣も抜刀した王は振り上げた大剣の慣性を利用して瞬時に身体を捻り、ソーマに回転斬りの反撃まで見舞う。
ソーマはそれをバックステップで躱し、再度間合いを取り直した。
(決まったと思ったんだけどな。さすがにあんな大きな剣だしああいう防御策も持ってるか)
あまりに激しく、華麗な打ち合いに場内は静まり返っていた。
王は再度ニヤリと笑って片手剣を鞘に仕舞うとソーマに向かって手をかざした。
(おいおい攻撃魔法か!?)
単発か範囲か分からぬ魔法に対しソーマはさらに大きくバックステップをして間合いを取る。
直後目の前を覆うほどの炎熱嵐が吹き荒れ、躱しきれないと悟ったソーマは瞬間的に対物魔結界で対応した。
炎によって遮られる視界。これであれば水壁で打ち消した方が良かったと後悔するも束の間、間髪を容れずにその炎の嵐の中から王が飛び込んでくる。すでに水平斬りを繰り出しており左右前後、上に避けるも間に合わぬと言った状況でソーマは頭上から局所突風を放ち、うつぶせに倒れ込むようにしてその斬撃をギリギリのところで躱す。
王は水平斬りの慣性を利用してくるりと半身を捻って大剣を持ち変えると、今度は地面に伏すソーマに対して右上段から渾身の力で大剣を振り下ろしてきた。
それに対しソーマは自身のミスリルプレートに超速の礫弾を放つとともに局所突風を用いてその場から緊急退避を試みる。
吹っ飛ぶようにしてその場から離れたソーマが目にしたのは、地面に深々と突き刺さる大剣であった。
(おいおい、当たってたら死んでるんだが……マジかよこのおっさん……)
王はゆっくりと大剣を地面から引き抜くと、首を傾げながらソーマに向き合う。
「どうした、勝つ気はないのか? それとも本気を出したくないか?」
「え……結構真面目にやってますし必死ですよ」
「それが必死な者の態度か?」
ソーマは王のその言葉にある種の納得を覚えた。
この人は本気で戦いたいのだと、そして本気で戦っている者が好きなのだと。
そう考えると久しく本気で戦っていないな、と思ったソーマは気を引き締めて王へと向き合う。
「仰っている意味が分かりました。失礼しました、本気で行きますね」
対人戦において本気で殺しに行くなどダンとの稽古以来であるが、あれからソーマはとんでもなく進化していた。
今の自分を本気で受け止めてくれる相手がいる。
その相手に対して一切の手加減なく本気で向かっていく、そういった自身の未知の領域に対するワクワクと不安の入り混じった気持ちが、ソーマは嬉しかった。
ソーマは再度碧竜刀を納刀し、シャドウブレイドを付与した。
鞘からでも闇属性の黒紫色のオーラが立ち込める中、腰を低く落とし居合抜刀斬りの構えを取る。
「ほう、目つきが変わったな。それにもう一度その構えか。来るがよい」
王の言葉に対し、ソーマはありったけの殺気を込めて覇気を王に叩きつけた。
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