第83話 獣人国王との謁見
ソーマ達四人は現在ライル王国行きの馬車内にいた。
リーザを捕縛した後、その経緯を官吏に説明すると、領主およびその妻の罪を暴いた暁には国王直々に礼がしたいと言っていたことを伝えられ、捕縛したリーザと官吏らと共に王都へと向かっているところであった。
ソーマとマキナは遠慮したがっていたが、丸眼鏡は世話になっていた王国に一度も帰らず魔族大陸から同行していた為、出来れば一度挨拶をしたいとのことだ。
街を出る際、ソーマはシスの地酒をローガンへの土産に買っていた。
「そう言えば獣人族の王都は初めてだな。人間のミスタリレ王都とドワーフ王都のマグラードには行ったから、今回獣人族王都へ行けばあとはエルフの王都だけ行ってないことになるね」
ソーマは案外冒険者っぽく王都巡りもしているもんだなと、悪い気はしていなさそうであった。
「そういや魔族大陸って魔族が取り戻したんだろ? 王都ってどこになったんだろうな?」
そう言うのはマキナだ。たしかに魔族が領土を奪還したのであれば王都の場所も気になるのであろう。
その問いには官吏が答えてくれた。
「たしか魔神神殿跡地のあるゴルモールが暫定的に王都になったと聞いております」
「なるほどな、ゴルモールも行ったことがあるから、いよいよ残すところはエルフの王都だけってわけだ」
官吏の言葉にソーマが答えると、フィオナが口を開いた。
「ソーマ様達には是非ともエルフの王都ミュランローゼにも見て頂きたいですわね。風光明媚で著名な街ですよ」
「ミュランローゼって言うのか。幻彩鳥を捕まえる際にはせっかくだし寄ってみようか」
「うむ、わたくしもエルフ王都は行ったことがないから楽しみじゃの」
その後フィオナからはエルフ国の情報を、丸眼鏡からはライル王国や国王などの話を聞きながら、一行は王都への時間を満喫していた。
もちろん、馬車の外では各々の魔法が稽古として飛び交っていたのは言うまでもない。
一度の野営を経て翌日の昼には王都ライルへと一行は辿り着く。
官吏達は野営の際にソーマ達から鹿のスープやバーベキューを振舞われており、とても喜んでいた。
「へぇー! ここが獣人族の王都か! やっぱりどこの国の王都も賑わってるし広いね!」
裏の外門から馬車で直接王城の側まで入り込んだソーマ達は城壁から眼下の街並みを見下ろしていた。
ライル王国は背に山脈を背負った斜面にあり、城はその丘の最も高いところに位置していた。
城壁からは城下町を見渡すことが出来、城下町も城のあるところからなだらかに下り坂となっている。
さらにずっと続く城下町の先には高い石の街壁が城下町を囲っており、その先には緑豊かな草原が地平線まで雄大に続いている。
どこかミスタリレ王都にも似た雰囲気だが、高さがある分より遠くまで見渡せる視界が非常に心地良い。
「ささ、ココネ様方、国王がお待ちしていますゆえ!」
「うむ。ソーマ殿達もまずは国王に挨拶へ行くのじゃ」
丸眼鏡に促され、城壁から身を乗り出して景色を楽しんでいたソーマとマキナは城壁から降り、フィオナと共に城へと歩みを進めた。
(そう言えば王城はミスタリレ以来だな。王都の謁見ってあの時以来だしなんか緊張するな……)
ソーマが王と謁見したのはミスタリレ王の、それも『賢者降誕祭』で賢者として祭り上げられて以来である。
この世界の王に対してあまり良い印象のないソーマは緊張した面持ちで丸眼鏡に続いた。
石造りの天井の高い廊下を一行は進んでいた。
天井は円形になっており、壁に並ぶ大きな窓からは日光が十分に入ってきて、場内は非常に明るかった。
何度か曲がった後、大きな扉を開けた丸眼鏡はそのままの足取りで王の間と思しき場所を歩いていく。
その王の間はミスタリレに比べると小さく、正方形に近い形であった。
石造りの壁は少し青味がかった白色で、天井はやはり円形で窓が多く採光は十分である。
その王の間の奥で玉座に座っているのは臣下と笑顔で話すライオンの獣人王であった。
特に階段もなく玉座に座っている王に対し、丸眼鏡は跪くことなく立ったまま話し掛けた。
丸眼鏡は背が小さいので良いが、ソーマは王より目線が高くなってしまうので少々居心地が悪かった。
「ライル王、たった今戻ったのじゃ」
「おお! よく戻ったな! 此度はシスの街の件、誠に感謝する。王としての管理不行き届き、情けない限りだ。ココネの連れの者にも迷惑を掛けてすまなかったな。礼を言う!」
王は玉座に掛けたまま、なんとソーマ達に向かって頭を下げた。
ソーマとフィオナは驚いていたが、丸眼鏡もその周りの臣下も特に驚く様子が見られないので、こういう王なのであろう。マキナに関しては国王にもいつもの口調で話しそうなので特に驚くこともなかったが。
「申し遅れた、獣人族国王のヴァンヘルム=ライルロンドだ。話は聞いておるぞ、黒髪の人間、そなたがソーマだな。して魔族とダークエルフのハーフのそなたがマキナ。此度ゴールドメイスに囚われてしまったという世界樹の巫女がフィオナだな。我が国への道中で大変な迷惑を掛けてすまなかった、エルフ国にはすぐに謝罪の印として遣いを出そう」
国王は立ち上がり、一人一人に握手した後、フィオナの前で再度頭を下げた。
ソーマとフィオナはその様子に感動を覚えていた。
一国の王が冒険者にここまで丁寧に相対するなど聞いたことが無い。
「聞いておるとは思うがココネは私の遠い親戚でな。以前から“来たるべき日がくれば自分はその冒険者達に着いていく”という条件で王都で働いておったのだ」
国王は豪胆に笑いながら玉座へと戻る。
「なるほど、確かに良い眼をしてる。特にソーマとマキナはな。良い友人を持ったな、ココネ」
「うむ、とても良くしてもらっておる」
始めは親戚だから丸眼鏡もこんなにフランクなのかと思ったソーマだが、どうやらライル王がその辺りを気にしない性格なのだろう。
「ふむ、知っての通り我が獣人国は未だ連合国入りをせず独立を貫いている。だが連合国内の情報が入ってこないというわけではない。最近ちと面白い情報が入っててな。突然で申し訳ないがソーマ、私と模擬戦の相手をしてくれないか?」
笑顔で話していた王は突如、ソーマに対し鋭い眼光を向けてそう言い放った。
突然のことで驚いたソーマだが、国王の真っ直ぐな瞳の中に強者との戦いを求める想いと挑戦的な気持ちを汲み取る。
丸眼鏡と臣下はまた始まったと言わんばかりの呆れ顔だ。
「ええ、構いませんが国王陛下、一つだけ条件を付けさせて頂いてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「国王としてだと少々面倒なので、一人の武人として戦って頂けるのであれば、是非お手合わせ願いたいと思っております」
「ははは! 面白い男だ! 構わん、元よりそのつもりだ。では早速稽古場に行こうか」
国王は機嫌良く立ち上がると颯爽と王の間を後にした。
ソーマ達も臣下に連れられて後に続く。
「すまんのぅソーマ殿、王ときたら強い者を見ると黙っておれぬタチでの」
「いいよ、俺もあの眼を見たら戦ってみたくなったし」
「おうソーマ、おまえ負けたら次あたしが出ても良いのか?」
さすがにそれは王に聞いてくれ、とソーマは首を傾げて呆れていた。
稽古場では多くの獣人達が剣を打ち合っていた。
熱心な者が多く、パッとみた感じでソーマは、ミスタリレ王国騎士団では相手にならないだろうなと思うほど熱が入っている印象だ。
王が姿を現しても稽古を続けているところを見るに、頻繁に見に来ているのだろう。
国王は稽古場の中心まで進むと大きく手を叩き、声を張り上げて稽古を中断させた。
「皆ご苦労! 皆ご苦労! 稽古中すまない! 先日我が国内で起こっていた悪事を暴いて頂けた、他国からの冒険者が来ておる! その者達は実力も屈指と見受けられ、我との模擬戦を受けて頂けるとのことだ! 是非とも今後の稽古の参考にしてくれ!」
騎士団は直立不動で王の話を聞き終えると、隊列を組んだまま走って稽古場の上にある観客席へと登っていった。
「では皆の者、拍手で迎えよ! 冒険者ソーマだ! 皆、戦いをまばたきする間も惜しんで目に焼き付けよ!」
国王の声に合わせ、稽古場には拍手が巻き起こった。
隣を見ると丸眼鏡は呆れ顔で拍手し、フィオナはニコニコの笑顔で大きく手を叩いている。
マキナに至っては目を輝かせて、負けてこい! と声を掛けているから始末が悪い。
ソーマは首を傾げながら、稽古場へと進み王と対峙した。
「えっと……国王として戦うんじゃないんですよね?」
「おお、そうだったな。いや、すまないがうちの奴等にも戦いを見せてやってくれないか。良い勉強になると思ってな」
「まあ良いですけど、あんまり噂にならないよう配慮してもらえると助かります」
そういうと国王は大きな両手剣を構え、ソーマはバックラーを左手に低く腰を落とし、居合抜刀斬りの構えをとって対峙した。
しんと静まりかえる稽古場で、獣人国国王とソーマの模擬戦が始まろうとしていた。
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