第82話 領主夫妻の悪事
無事三日間の稽古を終えた四人は朝から広場で、その成果の確認をしていた。
まずソーマ、マキナ、丸眼鏡は全員クラスチェンジを果たし大幅にステータスを上げている。
ソーマとマキナはファイアブレイドなどの魔法属性付与があり、さらに遠距離に斬撃を飛ばす斬空剣や、斬撃耐性・物理耐性を無効化する心眼などもあり、二対の神剣の攻撃力もあることから物理攻撃による殲滅力・突破力を底上げする形となった。
丸眼鏡は新たな高火力・高威力の攻撃魔法を手に入れることでパーティ全体のDPS(単位時間当たりの火力)向上に寄与し、結果的に自衛力も高めていた。
元々魔法コントロールがパーティ内でも突出しているので魔法の汎用性が格段に上がり、さらにその存在の利便性を上げている。
フィオナはまず魔法コントロールの技術を身に着けることを主眼に置いた稽古となり、数値には現れにくい練習となったが、無事スキル・魔術を魔術師スキルへとアップグレードさせている。
「各々またパワーアップ出来たし、結果的にシスでは良い休暇だったね。あとは領主邸に乗り込んでどういう動きになるかって感じかな」
「うむ。王都からも官吏が到着しておるようじゃし、打ち合わせ後に突っついてみるかのぅ」
「んじゃあたしは稽古行ってくるぜ」
領主はさすがに王都の調査団に対して手荒な真似はしてこないだろうということで、マキナは朝食を済ませると護衛として一緒には行かず、さっさと砂漠に稽古に向かってしまった。
ソーマが大魔術師取得目前とあって、少しでも追い付こうということだろう。
「で、では私も行ってきます!」
フィオナもマキナに付いていくようだ。
砂漠の稽古では水属性持ちがいるのといないので快適度合がかなり変わるので、マキナとしてもありがたいだろう。
最初は死にそうな顔をしていたフィオナも徐々に慣れてきたのか、ほんの少しだけ余裕が見られる。
まだ迷っているような雰囲気は十二分にあるが、身体も心もすぐに強くなるわけではない。一皮むけるにはまだしばらくかかるだろう。
「じゃ、行きますか」
「うむ」
ソーマと丸眼鏡は王国官吏の待つギルドの大会議室へと向かった。
王都でゴールドメイスに聞き取り調査をしたところ、やはり領主とは密接に繋がっていたようだ。
ギガントタートルの狩猟を実質独占させる対価に金品の授受が行われており、さらにギガントタートルの狩猟そのものも誘拐してきた者を使ったり、ギガントタートル素材を魔族に横流ししていたとあって、現時点での領主の罪は大きい。
ただし前領主の病死、現領主の兄の疾走に関しては有力な情報が得られておらず、もしそれが事実なのであればその罪も暴きたいところであると、王国側とソーマ達は思っていた。
「うむ、ではその手筈で行こうかの」
「分かりました。ココネ様、宜しくお願いします」
打ち合わせを終えたソーマと丸眼鏡、王国官吏4人は領主邸へと赴いた。
領主邸に着くなり丸眼鏡率いる調査団は豪華絢爛な応接間へと通された。
ソーマは護衛ということになっているので着席せず、後ろで立っている。
クレイシス領主は如何にも貼り付けたような笑顔で調査団の待つ応接間へと入ってきた。
当然だが領主も獣人で、ソーマが見た印象ではチーターのような雰囲気であった。
「これはこれは王国調査団の皆さま、こんな辺境の地まで御足労お掛け致しました。現領主のノヴァン=クレイシスです」
「突然すまぬのう。王国調査団長のココネじゃ。脇の四人は王国官吏、後ろのは護衛じゃの。早速じゃが先日のゴールドメイス捕縛の件は耳にしておろう」
「え、ええ。まさか彼らが悪事を働いていたとは知らずに我が領の仕事の一部を任せておりまして、全く領主として恥ずかしいばかりです」
どうやら領主は悪事を行っていたことは知らなかったという体で窮地を乗り切ろうという魂胆らしい。
「うむ……ちとすまぬがノヴァン男爵、奥方もおられるのであれば同席を願えんかのぅ」
「え……? はあ、では只今呼んでまいりますので少々お待ちを」
領主はそう言うと秘書に伝え、妻を呼んで来させる。
数分後、赤いドレスを身に纏った気の強そうな女が不機嫌な顔で入ってきた。
灰色の髪の毛に耳と尻尾を持っており、アメリカンショートヘアのような猫の獣人である。
「リーザ=クレイシスですわ。王国が辺境の領主の妻にどういったご用件ですの?」
リーザは高慢な態度に不機嫌そうな表情とあって、領主はそわそわしている。
丸眼鏡はゴールドメイスからの聞き取り調査の結果を詳しく領主とリーザに伝えた。
「そ、そんな悪事を働いていたとは……今後領内の仕事を任せる組織には裏が無いかきちんと調査せねばなりませんね。これは領主である私の落ち度でした。領民には大変申し訳ないことをしました」
「ふむ。とりあえずノヴァン殿には王都まで御同行頂くことになっておる。何故ギガントタートルの狩猟を規制しゴールドメイスに独占させたのか理由と経緯を聞かねばならんからのぅ。しかもその狩猟は誘拐された者を利用し、素材は魔族に裏ルートで売っていたとなれば国際問題になり兼ねん。知らなかったで済まされるものではないのぅ」
領主が青ざめている横で、リーザは足と腕を組んでその領主の様子を眺めていた。
「まあそういう事じゃからノヴァン殿は王都へ御同行をお願いするの。ちと領主不在になるがよろしいか?」
「ええ、私も多少は夫の仕事を手伝ってますから、領内の運営くらいでしたら問題ありませんわ」
リーザは邪魔者がいなくなるとばかりに少し機嫌が良さそうである。
「うむ、頼もしい奥方じゃの。ではノヴァン殿、行こうかの」
丸眼鏡が促すと、領主は力なく立ち上がりすっかり項垂れながら王国官吏へと連れ出されていく。
「あ、そうじゃ、リーザ殿。ちとゴールドメイスの一員から奇妙な話を聞いてのぅ。とあるチーターの獣人の死体の在り処を教えるから減刑しろと言うのじゃ。まだ王都では応じてないようじゃが心当たりはあるかの?」
「……え? 私はそのようなことはさっぱり……」
「うむそうか……減刑に応じなければ在り処は教えないと言い張るもんじゃから困っておったのじゃ。すまんかったのぅ、今のは忘れてくだされ」
そう言うと、丸眼鏡とソーマは領主邸を後にした。
王国官吏2名と護衛の騎士は早速馬車で領主ノヴァンを王都へと連行していった。
残された官吏には待機を命じ、丸眼鏡とソーマは広場でリーザを探査している。
「尻尾を出すと良いんじゃがの」
「その為にこの三日間も盗聴してたんだろ? 話の内容から察するに絶対黒だと思うけどな」
領主邸調査までの三日間、丸眼鏡が調査した内容としては領主よりリーザの方が動揺が大きかったようだ。
さらにリーザは潰された貴族の令嬢ということになっているらしいのだが、いくら出自を追ってもどこの貴族だったのか等は謎に包まれていた。
ソーマ達はリーザの動揺やこれまでのシスの歴史を見るに、やはりリーザとゴールドメイスにはなんらかの繋がりがあるのではと予想している。
「まあ、動くなら今夜だろうね」
「そうじゃの、とりあえずはまた探知かのぅ。夜まではわたくしが見ておるゆえ、ソーマ殿は稽古などしてても構わぬ」
「そうか。じゃあお言葉に甘えようかな。何かあったら適当に魔法でも飛ばして知らせてくれ」
その後、日中と夜の稽古を終えたソーマ達は丸眼鏡と合流し、宿に戻って領主邸の動きを見張る丸眼鏡と共に時間を過ごしていた。
「うん? 動くようじゃの。リーザ殿自らが一人で行くようじゃ」
「あたしも暇つぶしに行くぜ!」
「お、じゃあみんなで追跡と行きますか」
「分かりました!」
装備を整えた四人は闇夜のシスの街へひっそりと繰り出した。
リーザは北の外門から街を出ると疾風を用いて草原を疾走していた。
シスは砂漠と緑地の境目にあるので、南は砂漠、北は草原となっている。
夜は幾分気温が落ち着き、疾風を使って疾走すると涼しさが心地良い。
四人は十分に距離を取りながら逆探知も警戒しつつリーザを追っていた。
リーザの足で二時間ほど北へ走ると左手に森が見えてきた。リーザはその森の中へ迷わず入り、速度を落とすことなく駆け抜けている。
ここまでの速度を考えるとそこそこMPと疾風の習熟度を持ち合わせているらしい。
ソーマ達は森の入り口で一旦立ち止まり、丸眼鏡の様子を確認する。フィオナはMPが心もとなかったのか、少し安堵の表情を浮かべていた。
「ふむ、まだまだ森の奥深くに向かっているようじゃの。少しずつ追いかけるかのぅ」
森に入りさらに奥へと追跡する。
途中マキナはカットラスを抜刀してエアブレイドを付与し、不斬剣を用いて道中の木の幹や枝に剣を振っている。
「随分熱心だなぁ」
「あ? おまえも似たようなもんだろ。最近起きてる間はずっと地振動探知使ってんだろ?」
「さあそれはどうかな」
「ソーマ殿はさっきから後方で礫弾も適当に飛ばしておるのぅ」
「あ? そうなのか? ったく誰が一番熱心なんだよ」
三人がそんな冗談を言いながら森の中を疾走しながら、フィオナは疾風で三人に付いて行くのが精一杯なのか悔しさを噛みしめていた。
しばらく進むと丸眼鏡が三人を制した。
どうやらリーザが止まって何か始めたらしい。
「うむ、やはり何か掘っておるのぅ。大方予想通りと言った所じゃの」
「よし、じゃあちょっと間を置いたら突入するか」
あらかた掘り終えたと思われる頃、四人はリーザの元に駆け寄った。
「リーザ殿、おぬしも王都まで来てもらうからの」
「な……なぜここが!?」
「昼間の話しはおびき寄せるための罠じゃからな。まんまと引っかかるとはのぅ」
その瞬間、リーザは両手をソーマ達に向けてかざし、詠唱を結ぶ。
「焼き尽くせ! 炎熱嵐!」
しかし丸眼鏡に対魔法障壁により魔法はソーマ達には届かない。
「あ? ゴールドメイスのボスと同じ魔法だな?」
「うむ、ドリア殿ともしかすると何らかの関係があるのかのぅ。まあ我々に魔法を放った時点で殺人の容疑もかかるゆえ、いよいよ弁解の余地はないの」
リーザは後退りし、疾風を纏ったのを察知したソーマは小さめの礫弾を頭に当てて気絶させた。
「とりあえず一件落着だな。あとはこいつを官吏達に引き渡してギガントタートル狩猟を済まそう」
「うむ。すまんがリーザ殿はソーマ殿にシスまで運んでもらうかのぅ」
「てめぇ、気絶してるからって変な真似すんじゃねぇぞ」
「ソーマ様、まさかそれを見込んで気絶させたのですか?」
二人のレディはソーマに対し怪訝な目を向けている。
「文句あるならおまえらが運べよ……俺だってそんなめんどくさいことしたくないって」
「私はさすがに人を背負って疾風で戻れるほどMP残ってませんわ」
「てめぇ女に重いもん持たせんのか?」
ソーマは「マキナが女を盾にするとはねぇ」と盛大な溜め息を吐きながらリーゼに魔法で鉄の手錠を作り、背負った。
「んぬふっ……モテる男はつらいのぅ?」
「おい、ムフフの袋に入れてくれても良いんだぞ」
「生き物は入れぬ主義じゃ、さて帰ろうかの」
四人は疾風を使って森を抜け、シスの街を目指す。
ソーマはその間、甘ったるい香水の匂いや、手から伝わる太ももの感触、背中に当たる柔らかな感触に関しては一切考えないよう思考を制御しひたすら前を向いて走っていた。
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