第100話 ハワーヌ=ルイ先生の本領発揮
第一層で幸先の良い出だしを見せたソーマ達は、水と竜がモチーフとなっているレリーフに手を触れて第二層へと転移した。
そこは今までのダンジョンとは違い明るく、氷のように美しく淡い水色の壁と天井に覆われた長大な空間で、とても涼しく、眼下には非常に複雑怪奇な流れるプールのような迷路が広がっていた。
しかも迷路は高さや階層もある三次元的迷路になっており、出口に辿り着くにはとてつもなく時間が掛かるように見えた。一般的なパーティには。
王はこの階層についての説明を始める。
「見ての通り、難解な迷路だ。目の前にある小舟に乗って進むのだが、途中水面下から鮫のような魔物が襲ってくる。船底を破られて浸水すればそのまま水流に流され、運が良ければ落とし穴のようなところに流されてこの入り口に戻ってくる仕様となっている。我が国の騎士団でも手こずれば三日は掛かる場所だ」
なるほどね、とソーマは木製の船を確認しながら頷く。
「じゃあ俺は船底に魔法で鉄板貼り付けて補強するから、ハワーヌ=ルイ先生は探知で正解ルート探してもらおうかな」
「んぬほぉっ!? きゅ、急にどうしたのじゃ!? そ、その名を未だ且つて呼んでくれた者は一人も……のぉぉおおお!!! わたくしはハワーヌ=ルイィイイイイ!!!」
フィオナが一体何ですのと言った具合で尋ねるのを、マキナが自称の作家名らしいぜと補足する間、ソーマとふるふると震える丸眼鏡は各々作業に当たっていた。
王はその様子を見て、今まで正攻法で試し何人も尊い犠牲を出したのは何だったのだと悔しがっているようであった。
船の補強を早々に終えたソーマも丸眼鏡を手伝って探知を勧めた結果、約一時間程で正解ルートを導き出した。
早速五人は小舟に乗って、迷路へと進む。
迷路の水流は意外と早く、ぼーっとしていると正解ルートを通り過ぎてしまうことがしばしばあった。王が言うには水流に逆らって戻ることは出来ないとのことであったが、ソーマと丸眼鏡の水魔法と風魔法で無理矢理戻って正しいルートに戻るのをみて、王は再び呆れ返っていた。
一度、マキナがどんな魔物がいんのかねぇと水面を覗き込んでいた時に飛び出してきた鮫に頭を食われそうになってビビりまくっていたのを皆で大爆笑するという事件が起こった以外は難なく第二層の終着点に辿り着いた。
「さって、次はあたしが開ける番だな!」
「神殿攻略のキーアイテムを出すことにおいては右に出るものがいないからな、期待してる」
「おめぇ、あたしが気にしてることをずけずけと言うったぁ良い度胸してるな……」
事実世界樹の粉塵や魔人装備を出しているのはマキナが最多であり、アイテム的にもレアアイテムであるのだが、マキナは装備や金になるレアアイテムが欲しいようである。
ソーマとマキナ、丸眼鏡はお決まりの祈りの言葉を発し、フィオナはまだ照れくさいのか祈るポーズだけ見せ、マキナは宝箱を開けた。
すると中には精巧なガラス細工が施された瓶の中に入った桃色の薬が入っていた。
「おっ? なんか結構良さそうなアイテムじゃねぇか? 丸眼鏡ッち頼むぜ」
「うむ……おお、これは一時的にステータスを大幅に上げるタイプの薬のようじゃの。たしか市場に出回れば金貨100枚ほどのかなり珍しいダンジョン産の薬じゃ」
マキナはそれを聞いて飛び跳ねながらよっしゃー! と喜んでいる。ソーマはさらに効果時間や副作用などがあるか丸眼鏡に聞いていた。
どうやら効果は全ステータス上昇特大で副作用は無し、効果時間は5分と短いが上昇量を考えれば妥当であろう。
「かなり使えそうだね。ボス戦でここ一番の火力が欲しい時なんか最高だ」
「使いどころはソーマに任せるけどよ、使ったらパーティから使用料もらうかんな!」
特にそこまで金に頓着のない他の三人は適当に了承し、そのまま第三層へと転移した。
第三層はこれまた長大な空間に、入り口とはるか遠くに見える出口であろう場所が見え、その間は一切の揺らぎがない大きなプールのような水面であった。
「ここはこの涼しい中、凍えるような冷たさの水の中を泳いでいかなければいけない寒冷地獄のようなエリアだ……。当然我々が水の中に入れば先ほどの鮫のような魔物が襲ってくる。中にはとんでもなく大きなものも交じっており、全員生還が非常に難しいエリアになっている」
王もその過酷さを知っているのか神妙な顔つきで語っている。が、凍土持ちの丸眼鏡がいればどうということは無い。
丸眼鏡は早速凍土で幅広の道を作ると、滑らないようにその上に石の道をコーティングした。
さすがに長大な水面全てを覆うことは出来ないようだが、五人が横並びに歩いても十分過ぎるほど余裕のある道が出口までの道程の三分の一ほどまで伸ばすことは出来ていた。
王はその様子を見てあんぐりと口を開けている。
「私、ダンジョンというものが初めてなんですけど、こんなに楽なものなんですの?」
「いや、そんなことはない、我が国でどれほどこのダンジョンで犠牲を出したことか……」
今のところ全く苦労をしてないフィオナの問いに対し、王は焦燥した様子で答えていた。
「丸眼鏡ッちが優秀過ぎるんだよな! それに引き換えおまえは役に立ってねぇなぁ!」
「いえいえマキナさん、そう言いますけどマキナさんもまだ何もしてませんからね?」
「んぬふぅっ! マキナ殿も意外とフィオナ殿を意識しておられるんじゃのぉぉお! せ、正ヒロインのじ、自覚ぅううう!!!」
女子三人の盛り上がりに呆れ顔のソーマはさっさと行くぞと促し、丸眼鏡が作った水上通路を走って突っ切るのであった。
時折大きな鮫の魔物が通路を突き破って出てくるも、水中探知で常に把握しているソーマ達は易々と避けつつ進んでいく。
マキナとフィオナは飛び出してきた鮫をどっちが先に倒せるか競っているようだが、経験値はパーティで分配されるので単純に遊んでいるのだろう。本人たちの目がマジなことは除いて。
あっという間に第三層も突破した五人。
件の祈りの言葉を唱えて丸眼鏡が宝箱を開けると、そこには小さなバスケットの中に『オトクな5個セット』のような感じでMP回復薬が入っていた。
回復薬はいくらあっても損は無いので、丸眼鏡はムフフの袋に仕舞い、そのまま皆で第四層に転移した。
第四層も長大な空間だったので、ソーマは小声で、ああこういう感じなのねと呟いていた。
全体的にはやはり氷のような薄い水色の岩の壁と天井で涼しく、第四層は非常に細い通路が頭上に一本通っており、足を滑らせて落ちれば鮫の魔物が蠢く水面に叩きつけられると言った具合であった。
さらに頭上ではワイバーンが何匹も飛び交っており、狭い足場での応戦を余儀なくされるようであった。
「我々の騎士団が進めたのはここまでだ。ここまでの攻略にも数々の犠牲を払っており、現在の戦力ではこれ以上厳しいとの判断したのだ」
「なるほどね、ちなみにあの上の通路って重さとか打撃とかで壊れたりするの?」
「ああ、壊れた衝撃で全て落ちてしまうわけではないが、跳ばないといけなくなるぞ」
ふむ、とソーマは考え込む。
最初は通路を鉄でコーティングし、それにくっつけるように鉄の板を展開して道幅を広げようと思ったが、かなり重みが増す上に進行速度がそこまで出せないので悪手と踏んだ。
「ちっとゴリ押しになるけど、あれやりますか」
ソーマの提案にピンと来た丸眼鏡は物凄くイヤそうな顔をするものの、実質最も安全に早く終着点に到着出来ると思われるため、拒絶は出来なかった。
「どう攻略するというのだ?」
「私も教えて頂きたいですわ」
王とフィオナは当然分からないので、ソーマは見た方が早いよと言ってマキナと丸眼鏡に指示をだす。
丸眼鏡が渋々マキナの背中に飛び乗ると、身体強化を施したソーマはマキナを担いで全力で終着点に向かってぶん投げた。
三人の局所突風がその二人をさらに加速させる。さすがに終着点までは辿り着かないが、落下し始めた辺りで丸眼鏡が空中に鉄の塊を作り出すと、マキナがそれを足場に再度跳躍し、それを三度ほど繰り返し徐々に速度が落ち着いてきた辺りで二人は無事、終着点に着地した。
当然、あまりの速度にワイバーンが付け入る隙などは一切なかった。
その様子を見た王とフィオナは顔を青くしている。しかしフィオナはハッと気付き、ソーマにすり寄った。
「も、もしかしてソーマ様が私を背負って下さるのですか?」
「あいや、多分ヴァン一人で向こうに辿り着くのは厳しいと思うから、フィオナを背負ったヴァンを俺が投げるよ」
「う、うむ、フィオナには悪いがそうしてもらえるとありがたい」
王も投げられるのは嫌だが取り残されるのはもっと嫌だと言った感じで、フィオナはガッカリしたように王の背中に飛び乗った。
「一応足場は俺と丸眼鏡でサポートする。自分で出すよりピンポイントにはならないかもしれないけど、そこは覇王の豪闘気と気合で頼む!」
そう言うとソーマは再び、王とフィオナを終着点に向かってぶん投げた。
空間の半分よりこちら側ではソーマが鉄の足場を作り、向こう側からは丸眼鏡が足場を作ってサポートをする。局所突風に関してはソーマ、フィオナ、王が使えるので各々が用いて加速させた。
王はオレンジ色のオーラを纏いながらその足場で跳躍し、無事終着点に着地することに成功した。
それを見届けたソーマは自身で空中に足場を作りながら跳躍を繰り返し、難なく終着点へと辿り着いた。
非常に簡単にクリアしているように見えるが、加速させる突風や地属性の足場作り、身体強化系スキルと要求されるものはかなり多く、一般的なパーティではまず使えない方法だろう。
ソーマが終着点に着くと丸眼鏡はゲッソリしており、フィオナと王は興奮のせいか顔を紅潮させて興奮しているようであった。マキナは相変わらずケロッとしている。
「無事攻略だね。じゃあ次宝箱を開けるのはフィオナかな? ダンジョンの宝箱を開けるのって初めて?」
「え、あ、はい! 初めてです!」
フィオナはわくわくして宝箱の前に出た。
ソーマは、一応今までの経験上本当に願ったもの、必要なものが出やすいような気がすると伝え、祈りの言葉は単なるゲン担ぎだということも伝えた。
「うーん、私の場合ですとエルフですから世界樹に祈った方が良いんでしょうか」
「さあね、そもそも女神に祈ってるけど俺たちも別に人間の女神に祈ってるわけじゃないから」
フィオナはそうなんですか、と返事をし、祈りの言葉を口にする。
「世界樹様、どうかソーマ様とお揃いのステキなアクセサリーをお授けください……」
そのフィオナの言葉にソーマと王は苦笑いをし、マキナと丸眼鏡は何言ってんだこいつと言わんばかりの目をしていた。
そして宝箱をフィオナが開ける。
なんとそこには……。
ライル王国騎士団のロゴが入ったタオルが入っていた。
ソーマはそれを見て即座に、年末のご挨拶で企業が配るヤツだ……と思ったのであった。
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