決心
やっと物語を、進めていけます。。
それは短く永い人生の走馬灯のようなものである。
魔と人の戦争の歴史。
双方が己の正義を信じ、衝突を繰り返す。
そんな暗黒な時代に生まれた1つの希望。
魔と人のどちらにも属し、どちらにも属さないその男は一人の女神に愛されていた。
やがてこの戦争はその男によって終着する。
男の命と引き換えに。
やがて世界は平和になる。
新たな絶望が芽を出そうとは誰も知らずに時は流れる。
まどろみの中、少しずつ世界が明るくなる。
「んんっ…。」
目を覚ますとそこは見慣れない景色であった。
旅行先の宿で目を覚ましたような感覚。「あっ、自分ちじゃない?」って一瞬混乱してすぐ我にかえるような感覚。
さっきのは夢なのか…?
『目を覚ましたのね。』
女の声が頭の中きら聞こえる。
フォルンか。
『貴方、一週間も眠ったままだったのよ。』
うそだろ。
驚いて勢いよく上体を起こす。
どうやら俺はどこかの部屋のベッドで眠っていたらしい。
小綺麗だが質素なその部屋の窓からはキラキラと日差しが差し込んでいる。
どこだここ?
『緑人族の町よ。』
そうか、俺は土人族の【魔王】と戦って、それで意識を失ったのか…。
…?
……!
そうだ【食屍鬼王】はどうなった!
『落ち着きなさいよ。貴方はちゃんと倒したわよ。』
フォルンの言葉に胸を撫で下ろす。
『貴方が眠っている間に色々あったわよ。ちょっと外へ出てみたら?』
言われるままに俺はベッドから出て、部屋のドアへ手をかけた。
扉を開けると長い廊下に繋がり、道のりに従って歩いていくと教会内へと繋がった。
白い女神像が祀られていて、その足元でヒゲを生やした緑人族が片膝をつき、胸の前で手を組み祈りを捧げていた。
アグリーである。
アグリーはこちらの気配に気がつくと、今にも泣き出しそうな顔でよろよろと歩いてきた。
「し…史朗様…!お目覚めになられたのですか…!良かった…本当に良かった…!」
そして俺の足元で、さっきと同じように祈りを捧げる姿勢をとった。
「此の度は我が種族を御守りくださり感謝いたします。全ての緑人族を代表して、深い感謝と忠誠を誓います。」
アグリーから強い信頼を感じる。あの時は生きたい一心で戦っていて、正直自分の事で精一杯だった。
そんな内心を明かすわけにもいかず、苦笑いしながら俺はアグリーに尋ねた。
「そういえばあれからどうなった?」
「はい。史朗様が眠られている間に、まず土人族ですが、彼らは武装解除し降伏をしました。しかし、我々も同胞を殺された身。このまま返すわけにはいきませんので町外れの地下倉庫に捕虜として集めています。史朗様の判断に任せたい所存でございます。」
実は土人族の処遇については決めている。
「わかった。そのことはあとで伝えるよ。その前に町の様子を見に行っても良い?」
「承知いたしました。では、わしがご案内いたします。」
「あー、一人で歩きたいから大丈夫。」
「しかし…」
と、アグリーがなにか言いかけている間に外へと歩いて行った。
教会を出てすぐ目の前は、広場に繋がっている。【食屍鬼王】と戦った場所だ。あの時の禍々しい雰囲気はまるでなく。とても穏やかな、まるで休日の昼下がりのようなぽかぽかした雰囲気がある。
破壊された建物もほとんどが修理されており、先頭の面影があまり残っていない。
これを一週間でこなしたのか…。すごい…。
町を一通り歩いてみる。この町思っていたより広い。そしてそれなりに発展しているようだ。
特に農作物を沢山揃えている様で、田んぼや畑が中央広場から離れるほど増えている。しかし、土人族にいくつか破壊されているらしく、荒らされたままの土地もあった。
加えてひとつ気になるのは、緑人族とすれ違うたびに跪かれることだ。
正直恥ずかしいからやめてほしい。
声をかけようとしても慌てられるし、完全に恐れられている。
『仕方ないわ。だって貴方この種族の【王】なのだもの。』
フォルンがやれやれと言わんばかりに教えてくれるがしっくりとこない。そもそも王様なんてものに自分を当てはめることが出来ない。ましてや魔王とか完全にラスボス過ぎて、思考が追いつかないのは無理もないのではないか?
そもそも【魔王】の仕組みについてちゃんとした説明をしてもらいたい。
あの時は混乱していたし、戦いにもなったからきちんと話を聞きたい。
『【魔王】とは、この大陸を統べる王の候補者なのよ。各種族が【魔王】を召喚し、共に大陸の王を目指し争う。その目的は、いずれ起きる人間との戦争に向けての大陸内統一なのよ。』
フォルンはみるからに機嫌が悪くなった。どうしたんだよ。
『昔の話よ。ワタシはある人と平和を望んで旅をしていたの。いろんな景色を見て、人と、魔物と、差別なく良い世界を作ろうとしていたの!……でも結局、あの人は死にワタシも力のほとんどを失った。もう二度とあんな悲劇を繰り返したくない…。せめてワタシに力があれば。あいつの手のひらで転がされているのは分かっているけど、自分の気持ちを裏切るような行為をしているのも分かっているけど…。これしかできない…。』
おれは何も言えなかった。
『ねえ、貴方は何者なの?あの人と関係があるの?』
フォルンの質問に俺は困惑した。フォルンは何かを知っている。
俺もフォルンを知っている気がする。だが確信が持てない。もしかしたらフォルンも確信できないものがあって言えないのかもしれない。
『ごめんなさい、話を戻しましょうか。』
と、突然話題を元に戻した。いずれ分かる時が来るのだろうか。
俺はフォルンから色々と話を聞いた。そしてわかったことは、俺は特殊なケースらしい。
元々【魔王】として召喚されるのは、死後も含めた様々な世界の悪魔、魔物、魔人などであるらしい。
そんな中人間が呼ばれることはまず無いのだという。加えてステータスだが、【魔王】であることで、大幅に強くなるが、俺の場合はそのケタが違うそうだ。おかげで【食屍鬼王】を倒せたのだから助かったが。
『しかも貴方、【食屍鬼王】から私の力を取り返しているのよ。』
ん、どういうことだ?
『ほら、はじめに石を触ったでしょ?【食屍鬼王】も取り込んでいたのだけど、貴方を介して、統合されたみたいなの。』
『そこで貴方にお願いがあるの。』
俺は黙っている。この後の展開も想像がつく。
『貴方に他の全ての【魔王】を倒してもらいたいの。そして、いずれ起こる悲劇からみんなを救って!!』
「……」
本当になんでこんなところに飛ばされてしまったのだろう。一週間前にこの世界に呼び出され、いきなり【魔王】と言われ、戦って死にかけたし、普通ならこんな経験出来るはずもないよね。
俺はこの世界のことをもっと知りたい。
この知らない世界には、何か秘密がある気がする。自分すら知らない俺自身の秘密が。
なってやろうじゃないか。【魔王】に。
第一部完
最後までありがとうございます。




