レベル1冒険者とぐうたら ぐうたらエンド
力量が足りないせいで。
ぐうたらエンドになりました。
ごめんなさい。
そして。
黒歴史ありがとうございます。
バッドエンドと一度表記しましたが、せっかくの努力が水の泡になってしまうので。
これもぐうたらファンタジーということで。
許してください。
次は頑張ります。
その日は朝早くに目が覚め、朝食を食べるとすぐ街ギルドに足を運んだ。
胸がドキドキする。
胸の高鳴りを押さえながら街ギルドの扉を開く。
中にはすでに大勢のギルド会員がひしめいていた。
屈強な人たちばかりで戸惑う。
だが、僕はなるんだ。冒険家に。絶対に。
「すいません! 通してください! すいません!」
僕は人の合間を縫うように受け付けカウンターへと進む。
謝る姿がおかしかったのか、僕の齢がおかしかったのか。
「あっひゃっひゃっひゃ。ガキがいるぜガキが」
「青臭いガキだ」
「ここは貴様のようなガキが来る場所ではないというのに。ったく、この子の親はどこで何をしているんだ」
「また1人バカがきましたよーぎゃっはっはっはー」
「クズ!」
「ザコ!」
「家に帰れ!」
進む先々で僕に対しての話題を始める。
ギルド会員達が僕に対して罵声を浴びせてくる。
街ギルドとは、こんな薄汚れた場所だったのか? もっと神聖な場所だと父さんに聞いていたのに。
時代が変わってしまったのだろうか。
ギルドメンバーになったとして、僕に居場所はあるのだろうか。
不安になる。
だめだ、僕は弱い。こんなことでは、立派な冒険家になどなれはしない。
「よし!」
カウンターに到着する。出入り口付近よりは人と人との感覚が広くなる。
受付にいるブロンドの三つ編みお姉さんに話し掛ける。
「お姉さん、すいません! ギルド会員になりたいんですけど」
「あ、はい! かしこまりました。少々お待ちください」
お姉さんが書類を集め始める。
ギルド内は僕に対してざわつくが、もう気にしない。
よかった。
受付のお姉さんは優しそうだ。
書類を書き終えお姉さんに渡すと、少しして僕のギルドカードが発行された。
ようし、これから魔物退治頑張るぞ!
そうだ。
「お姉さん、すいません。この辺りに盗賊っているんでしょうか? どうしても取り返したいものがあるんですが・・・」
「あ、はい。いることにはいますが。ただ今のソル様のレベルでは、盗賊退治は難しいかと・・・」
お姉さんに聞いたところ、残っている賞金のついた盗賊は軒並みレベルが高く、とてもじゃないが手に負えない者達らしい。
一番低くて平均レベル38、4人組の集団だそうだ。
ちょうどその時その盗賊を狩るメンバーを募集しているパーティがあるというので、とりあえず紹介だけしてもらうことにした。この街ギルドでしばらく生活しなければいけないのだから、少しでも知り合いを増やしたいという思いもあった。
だが。
「レベル2のクソガキがあたし達に何の用だい?! 胸くそわりぃ。とっとと消えな!」
「俺たちと仲良くなりたいだって? それはなんの冗談だ?」
男女2人の戦士は、罵詈雑言を浴びるだけ浴びせてどっか行った。
受付のお姉さんは申し訳なさそうに僕を見る。
いたくない。
ここに、いたくない。
僕は帰った。
帰り際、街ギルドの外に先ほどの2人組がいた。
「もう来んなよ!」
と言った。
「ふざけるなてめえ!!!!! ぶっころしてやる!!!!!」
大声の先にあの人を見つける。
僕は駆け寄った。
でもまた消えた。
そこには、昨日のあの2人がいた。
2人は僕に気づく。
「レベル2のクソガキがあたし達に何の用だい?! 胸くそわりぃ。とっとと消えな!」
「俺たちと仲良くなりたいだって? それはなんの冗談だ?」
昨日と同じ言葉が繰り返される。
「え」
また!
どうなっているんだ?!
その後に続く罵声も、昨日を繰り返しているようだった。
盗賊狩りの話を、初めて聞くかのように。
男女2人の戦士は、罵詈雑言を浴びるだけ浴びせてどっか行った。
もう嫌だ。
諦めよう。
村に帰ろう。
涙があふれてくる。
父さん、ごめん・・・。もう、いやだ。こんなところ・・・。
「なれるさ」
目の前が見えない。
涙で覆われて視界がぼやける。
大地が揺れる。
目をこすると、そこは世界が一変していた。
空は黒い。だが周りはよく見える。
僕は立っていた。意味の分からないこの世界に。
あの人と。
目の前には黒竜。黒い鱗に覆われたそいつが、足を左右入れ替えるたびに地面を大きく揺らしていた。
「ここはどこなんですか!?」
「ん? ああ、ここはそうだな。まあ、言ってしまえば、お前を強くしてくれる場所。だな」
その人は言う。
僕は黒竜を見据える。でかい。とてつもなく。
どうして僕がここに立っているのか全く理解できないが、思えばここ数日は理解できないことだらけだった。この人はほんとに。いったい、何者なんだ!!!!?
「すいません。今更で。でも教えてください。・・・貴方は、いったいだれなんですか!?」
「俺か・・・。そうだな。俺は、この世界で最強の男だ。出来ないことはなにもない。ただ、最強すぎてぐうたらになっちまった。やる気がでねぇのさ。なんにも。まったく。からっからだ」
その人は見据える。黒竜を。
「でもお前はこの世界で、知りたいことがまだまだあるはずだ。やる気もある。優しさもある。諦めない強い心も持ってる。俺をスライムから守ろうとしたように」
「でも、僕は・・・弱い」
「今はな。レベル2だし」
「はい・・・」
「だがな。お前は今からこいつを倒す。俺のチートがそれを助ける。それでお前もチート野郎だ」
チート野郎?
意味がわからない。
「強く生きろよ。少年!」
その人は僕の手を取り、銅の剣を握らせた。
新しくギルドでもらった銅の剣。それが光る。父さんのお下がりも悪い訳じゃないけど、やっぱり武器は新しい方がいい。
「攻撃力∞のイチコロマシンだ。それを振り抜け」
それがもし本当なら、僕はラクラク大幅レベルアップしてしまうことになる。
いいのか!?
それで!?
「いいんですか!? 本当に」
「いいんだよ。あのバカ共をぎゃふんと言わせてやれ!」
本当にそれが出来たら、どんなに気持ちがいいだろう。
僕は、やっぱり諦めたくない。
父さんを、楽させてやりたい。
それを、その夢を、もう馬鹿にされて黙っていたくない。
僕は振り抜く。光り輝く剣を。
光が飛ぶ。斬撃だ。
黒竜が一撃で悲鳴を上げ、倒れた。
あっけにとられる。
本当に倒してしまった。
僕のギルドカードのレベルが変わる。
48だ。
黒竜を倒しただけで、レベル48になってしまった。
本当にいいんだろうか。
「いいんだよ」
あの人は言って、僕の頭をぐしゃぐしゃにかき回す。
「よし。黒竜も倒したし。お前のレベルも上がった。もうあの街ギルドで一番強いのはお前だ。周りの目も変わるだろう。おめでとう」
嬉しそうじゃない。つまらなそうに褒める。
それもそうだよな。つまらない上がり方しちゃったし。
「じゃあ、俺、もう行くわ」
この人は言う。
「行くって。どこにですか?」
僕は少し寂しくなる。
「どこだろうなぁ。どこでもいいし、まあ気分次第だな」
目の前が暗くなり始める。
また戻るのだろうか。あの街ギルドに。
戻ったら夢だったなんてことはないだろうか。
ありうる。
でもそれでもいい。
僕は勇気が出た。
1からでも2からでも、やってやる。誰にののしられても。何を言われても。
僕はもう、逃げたくはない。