3.魔法防御
我々に余裕はなかった。新たに徴兵され追加される補充兵たちが、足しにならないほど前線の消耗が激しかったのだ。
これには原因がある。
15日が過ぎた朝、空は灰色で今年の初雪が降り始めた肌寒い日だった。昼の担当をしていた風魔導士が過労によって倒れた。これによって昼の矢に対する防御が一時的に低下したのだ。
それを見逃す程帝国軍は甘くなかった。風魔導士が居なくなれば、矢の援護を受けながら歩兵が城壁に取り付いてくる。それを引き剥がそうと身を晒すと矢玉に撃ち抜かれ、負傷者が続出する。
「伝令!伝令!」
「なんだぁ!?こっちは忙しいんだ!」
矢の襲い掛かってくるタイミングを計りながら、盾の後ろから顔を出して城壁のはしごにへばりついている敵に矢を射かけ続けていた。治りかけだった右手がまたもや痛み始めている。
何もかも自分の機嫌を損ねに来るが、伝令を邪険にするわけにもいかない。胸壁を背にして振り返ると、盾を頭の上に乗せたウィルの姿があった。
「ウィルか!なんだ!」
「夜の防御もありません!」
「……ん?は?風魔法のことか!?」
「そうです!風魔法による防御は、二人の魔導士が完全に回復するまで中止です」
「んなバカな!これ以上に被害を増やすつもりか!?」
「辺境伯の命です!」
「……わかった。だが更に人が欲しいと伝えてくれ」
「りょーかい」という言葉を置き去るように、ウィルは階段を駆け下りて行った。
視線を眼下の敵に戻そうとする前に周りを少し見まわしてみると、城壁上にいるものは皆、体の一部を赤黒く染めている。昼前に風魔法の防御が無くなって以来、夕方まで城壁上で無傷でいられたものはいないだろう。皆どこかしら負傷していた。
特に悲惨なのが補充兵だ、丁度昼過ぎから到着し始めた補充兵達は、兵士としては年を取りすぎていた。動きが遅い上に、風魔法の防御がないところにいきなり配属され、あっという間に送り返されている。結局残っているのは、実践慣れした騎士団と一般兵達、若干名の補充兵だ。
この状況で夜も風魔法の防御支援が無ければ、間違いなく負傷者は増えるだろう。
伝令を受けてから、補充兵は来なかったものの。暫く矢を撃ち続け、間もなく日没まで漕ぎ着けた。
日没まで凌ぎ切れば、夜戦の準備の為に一度撤退してくれるだろう。という安易な考えが有ったのだが、それはあっという間に打ち砕かれた。
敵は後方から次々に夜戦の準備を整えた部隊が到着し、それまで戦っていた部隊は後退していった。圧倒的な人員の余裕が成せるわざだ。
一方のこちらと言えば、交代する隙さえ与えてもらえず必死に松明の準備や、盾の準備などをこなすしかない。頭の上にシールドを掲げ背中に物資を背負った味方が、姿勢を低くして城壁上を動き回っている。
自分も夜戦の準備を手伝い、敵を撃ち抜き、梯子を押し返しひたすら忙しく動いた。一か所敵の攻撃に押され続けている場所があり、遊軍をする余裕もなかった。やっとの思いでその場の攻撃をしのぎ切り、遊軍に戻るとフレディが矢を射かけて、奥のアントンが梯子の敵に投石しているのが見えた。だが二人は手前にかかった梯子の存在に気づいていなかった。
「フレディ!おい!」
周囲の喧騒でかき消されたのか反応がない。「まずい」そう直感が告げていた。
背中の矢筒に手を伸ばすが、掴めるものが無かった。今度は腰の矢筒に手を伸ばしてみるが、こちらも空を切る。全ての矢を今日の戦闘で使い切っていた。
矢の補充はフレディの後ろの壺に大量の予備があることを思い出し、視線を戻すと城壁の外側から手が掛かっていた。帝国軍の兵士に到達された。
「フレディ!!アントン!!」
叫びながら駆け出すが、敵の方が一足早い。完全に敵が城壁の上に乗ってしまった。
「フレディ!!!アントン!!!」
三回目の叫びでやっと気が付いた二人だったが、既に城壁の上には帝国兵士が三人乗っている。
一番最初に乗り込んできた兵士がフレディに切りかかり、それを引き抜いた短剣で受けると奥にいたアントンが援護に入る。
そこからはドンドンなだれ込む敵の陰に隠れて何も見えなくなった。このままだとあっという間に敵兵に拠点を作られてしまう、そうなれば第一城壁は陥落だ。
それだけは避けなければならない。マジックアローの出番か?
城壁上にいる敵を一掃する為に、腰ひもの間に通してあるマジックアローに手を伸ばした手が止まる。
今ここでマジックアローを使ってしまえば、一掃できるがフレディとアントンごと撃ち抜いてしまう。その上味方が居なくなった城壁上には、悠々と敵が来てしまうだろう。絶対に使えない。
動きが止まる。行動の選択肢がない。
「リデルさん!連れてきましたよ!」
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




