4.城壁の上
「リデルさん!言われた通り連れてきましたよ!」
ウィルの声だった。またもや頭の上に盾を載せながらこちらを見て、どうだ?いい仕事をしただろ?と言わんばかりの表情をしている。普段なら丁寧なお礼でも言いたいが、それどころではない状況だ。
「ウィル!助けるぞ!!」
「ん?え?あぁ!!」
指さした先に見える帝国兵によって、城壁の上の深刻な状況にやっと気づいたウィルが、驚きで目を丸くする。急かしたいが自分の準備も全くできていない。今手元にあるのは、帝国の歩兵装備を纏った兵士に対して、不利と言わざるを得ない短剣のみだ。
手近に矢を補充できるところがないか周りを見回してみると、左隣にある胸壁に立てられたボロボロの木の盾に目が留まった。今日は防御の風魔法がない分、ずっと敵の攻撃に晒されていたはずだ。
夜空を見上げて矢が飛来してきていないことを確認し、胸壁から身を乗り出し木盾の表側を見てみると、無数の矢が刺さっていて針の筵の様だ。
一度体を引っ込め、息を整えながら敵の目算をする。大体7~8、後は登ってるのを合わせて10本以上が必要だ。
そうこうしている間に、ウィルは引き連れてきた補充兵達に指示を飛ばしながら剣を引き抜いている。
「帝国のクソ共を追い落とすぞ!付いてこい!!」
「ウィル!」
「なんだ?」
「援護する!」
「了解!」
走り出したウィルと、ぞろぞろと付いていく補充兵達を援護しなければならない。
敵の矢が降ってこないことを祈り、立ち上がり木盾に身を預けながら、再び身を乗り出し木盾に刺さった矢を引き抜いた。
少し曲がっているがこの距離なら問題ない。
矢を番え、引き絞り、放つ。
放たれた矢は狙った場所より少し右に向かって進み、スミスと補充兵の隣を通り過ぎて帝国兵の背中に突き刺さった。城壁上に登ったばかりだったその帝国兵は、不意を突かれバランスを崩しそのまま城壁の下へと落下する。
そのまま2射目へと入る為に、木盾からもう一本を引き抜き矢を番えた。今度はあからさまに鏃が潰れ、バランスが崩れているが致し方がない。
放たれた矢は、こちらの存在に気が付き振り向いた帝国兵に素直に進んで、右わき腹に突き刺さった。いつもならそのまま地面に横たわっても不思議ではない距離だが、鏃が潰れていた分威力不足なのか、興奮していて物ともしていないのか、シャフトを折ると仁王立ちしている。
「だよな」
潰れた鏃を見た時に予想した未来と、大して差がない現実を目の前にして思わず口から言葉がこぼれたが、撃ち止める訳にもいかない。
味方が帝国兵に到達するまでに、なるべく数を減らそうと次々に矢を放っていくが、まるで”くじ”を引いているかの如く、右に行ったり上に行ったり弱かったりする。
『オォ!!』
気勢を上げながらぶつかりに行く味方の為に、2人は斃せただろうか。明らかに放った本数と敵の倒れた数が合わないが、自分の腕でもこれが限界だった。
城壁の上に登った帝国兵は完全に味方の背に隠れたが、まだまだ仕事は終わらない。今度は梯子に取り付いている敵を一人でも倒し、登ってくる敵の数を減らさなければいけない。
木盾から更に矢を引き抜き、片っ端から腰の矢筒に突っ込んでいった。10本ほど取れた所で一度やめ、姿勢を低くして胸壁に沿って移動を始める。
いつも使っている矢であれば、この距離でも十分な命中精度と威力を出せる自信があるが、さっき敵に放った矢の”くじ”度合だとなかなか厳しいものがある。近づいて放った方が確実だった。
味方の最後尾まで近づいて、胸壁の隙間から下を覗くと2本の梯子が掛けられ、びっしりと敵兵が順番待ちをしている。更に3本目の梯子が掛けられるのを、奥にいる味方が投石で防いでいた。
手始めに2本の梯子の手前を潰すために、矢を番えて放つ。
放たれた矢は”あたり”だったようで、一直線に上から二番目の敵の脇腹に吸い込まれた。その敵は下の3人を巻き込みながら落下する。
この調子でもう一本の梯子を潰すために、矢を番えると目の前で何かが弾けた。
「どわぁ」
慌てて頭を引っ込めた今ならわかる、完全に敵兵に狙われていた。目の前の標的に必死になりすぎて敵のアーチャーの存在を忘れていたのだ。
弾けた石が当たった頬をさすりながら、敵兵の腕に感謝する。飛来した方向は右斜め下だろう。矢を番えながら、隣の狭間に移動して引き絞りながら顔を出す。
目に入った弓兵は5人いた。そのうち弓を引き絞っている一人に向かって矢を放ち、また頭を隠し移動した。そして別の狭間から顔を出してを繰り返し、5人の弓兵を片付ける。
次の弓兵が到着する前に、今掛かっている2本の梯子を何とかしなければならない。
残りの矢は4本のみだ。これで必ず片を付ける。
1本目の矢は、一度射抜いた方の梯子に登ってきた新たな敵を撃ち抜き、下の2人を巻き込みながら落下する。続けざまに放った2本目の矢は、奥側の梯子から城壁に手をかけていた敵に命中した。そのまま5人を巻き込みながら落下していく。
残りの矢は2本しかない。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




