21.sideエイミー
私が物心着いた頃には両親は居なかった、いわゆる孤児と言うやつだ。ただ私には一つだけ皆と違うところがあった。それは精霊様の恩恵である治癒魔法が使えたことだ。その為私は早いうちから精霊殿で暮らせることになった。
私はお金のために頑張って怪我人や病気の人を治療した。花姫選考会に向けた教育は正直辛かった。私は最低限のお金だけ稼いで暮らせればそれで良かったからだ。どうやら私は治癒の力が強いらしく、引く手あまただった。このまま神殿で仕事が出来ればいい、そんなことを考えていた矢先のことだった。
精霊殿に王子が視察に来たのだ。私は誰にでも優しいオズワルド王子様に心を奪われた。初恋というやつだ。
この時に諦めていればよかったのだ。しかし私は見つけてしまった。街で大人気の漫画、花の楽園というタイトルのその本は、花姫選考会を題材にしていた。花姫になればあの優しい王子様と結婚できるかもしれない。そう、私は思ってしまったのだ。
その日から、私は仕事も勉強も頑張った。王子様と結婚したい一心だった。私にとって花の楽園はバイブルで、私もこんなふうに王子に見初められたいと夢見ていた。
そんな私の大好きなリコリス先生の描いている漫画の出版社で、イベントが行われると聞いて、私は貯めていたお小遣いを引っぱり出して参加した。
そこで聞いてしまったのだ。この出版社のオーナーが王子の婚約者だと。
私はオーナーを憎んだ。どうせ経営は人任せにしているに決まってる。家のお金で道楽をしているお嬢様が、王子の婚約者にふさわしいはずないと、そう思った。
私は親のスネをかじる何も出来ない道楽令嬢から王子を救いたい一心だった。
それまで以上に花姫となるために教育を頑張った。
大好きなリコリス様の漫画を参考に、国一の淑女になれるように努力した。
そしてなんとリコリス様も花姫選考会に参加すること知ったのだ。憧れのリコリス様がライバルなのは悲しいが、お会い出来るかもしれない。私は嬉しかった。
そして迎えた花姫選考会の日、私は絶望したのだ。メラニア様の点数は満点だった。そして彼女は言った。満点を取れることが王太子妃としてのスタートラインなのだと。私はまだ王子に見初められる最低ラインにも達していないということか、私のこれまでの努力は一体なんだったのか。
そして迎えたマナーの審査。メラニア様に突き飛ばされた子を見て、私は思ってしまった。猫かぶりのメラニア様に騙されている王子を救うにはこれしかないと。リコリス様の新刊では、外ヅラのいい悪女を、平民の女の子が努力で圧倒し王子の心を掴んでいた。メラニア様はその悪女そのものだ。最初の試験だって汚い真似をして点数を偽ったに決まってる。
私はメラニア様の評判を落として、脱落するように仕向けようとした。
しかし料理の審査の時、私はやり過ぎてしまった。オズワルド王子の怒りを買ってしまったのだ。王子は、メラニア様の無実を自ら証明してしまった。
その日の審査でメラニア様の提出した料理は芸術品のようだった。これをメラニア様が作ったなんて嘘だ。でも嘘を見抜く水晶は反応しなかった。きっと審査員が買収でもされているのだ。
その後の芸術の審査で、私はリコリス様の画風を真似て絵を描いた。こうすればリコリス様から私に話しかけてくれるかもしれないと思ったからだ。私はリコリス様を味方に引き入れたかった。
しかし、メラニア様の描いた絵は素晴らしいなんてものじゃなかった。嘘を見抜く水晶も反応していない。私は嫌な予感がした。
メラニアさまにリコリスなのかと聞いてみる。彼女はそれを肯定した。嘘だ嘘だ嘘だ!きっとリコリス様を監禁して絵を描かせているんだ。許せない。
私は次の審査でメラニア様が出られなくなるようにドレスを汚した。しかしまたしても王子がメラニア様に手を差し伸べる。彼は決して私の方を見ない。私は惨めだった。
決まったダンスの相手は王子の側近だった。彼は踊っている最中、私の耳元で言った。
「いい加減にしたらどうですか?これ以上罪を増やすつもりですか」
私は凍りついた。バレている。踊っている彼はとても冷たい目をしていた。
結局その後は不気味なほど何も無かった。
そして最後のスピーチで、私は知ってしまった。私の番で水晶は黒く濁ったのだ。この水晶は本物だ。メラニア様は一つも嘘を言っていない。物語に出てくる悪女などではなかったのだ。
選考会が終わるやいなや、私は騎士に拘束された。選考会を妨害した罪に問われるそうだ。王子はまるで虫けらでも見るように私を見ていた。どうしてこんな事になってしまったのだろう。私はただ王子様のお嫁さんになりたかっただけなのに。
牢に入れられ沙汰を待つ間、声が出なくなっていることに気がついた。みんなは精霊様が与えた罰だという。精霊様なんて本当に居るのだろうか。
どうやら私の罰は修道院送りになったらしい。メラニア様が嘆願してくれたのだそうだ。私は笑ってしまった。
修道院での生活は穏やかで、精霊殿にいた時と何も変わらなかった。やっと生活にも慣れた頃。お城の使いがやってきた。私は大国の第六王子に見初められたらしい。私は罪人であることを隠して輿入れすることになった。拒否権などあるはずも無い。
最後にオズワルド王子に会って言われた。
「貴様が罪人であることを忘れるな、これは貴様への罰だ、せいぜい国のために尽くせ」
私が恋をした優しい王子様も幻想だったのだと知った。実際の王子は恐ろしい人だった。
嫁ぎ先では、声の出ない私をみんなが気遣ってくれた。結婚した王子もとても優しい。でもその優しさが、まるで真綿で首を絞められているようだった。私は一生この人たちを騙し続けなければならないのだ。元気の無い私を夫になった王子が慰めてくれる。こんなに幸せでいいのだろうか。私は一生この罪悪感に苦しむのだろう。
それこそが私に与えられた罰なのかもしれない。
完結まで読んで下さりありがとうございます!




