第265話 親友
アマノの国の都ホムラに入ってからすぐに馬車乗り場があったのでそこで下りて、そのままの足で王城へ向かうことになった。
その道中はこの世界でも異質な速度で文明が進んでいる街並みを眺めながら、気になった建物や公共の物をショナ達に説明する。
というかショナはあれもこれもと気になる事だらけで疑問が尽きない。
そんな道中も目的地に辿り着くとそれもまた見た事のない物であり、気になる疑問はそこへ注がれる。
街の周辺や街の内部も近代まで技術が進んでいたんだけど王城は何というか……。
「……見たことも無い独特なお城だね」
「和風なお城だね」
「これもルークの前の世界にあったものなの?」
「まあそうだね……」
「今更だけど、なんかズルいよね!前の人生の知恵を使えるなんて……!!」
確かにその通りだけど、私はそれを活かす事が出来なかった。
どちらかというと魔法の方が気になっていて、習得の方に重きを置いていたんだよね。
それに貴族だったから、お金にも困っていなかったのも知恵を使ってお金稼ぎをしなかった理由の1つ。
後単純に作る技術がない。
この街にあるあらゆるものは再現度が高く、専用の道具を使っているはず……そんなのは持っていないのでできる者も限られてくる。
無言でそんなことを考えていると気を悪くしたのかと勘違いしたのかショナは慌てて否定する。
「攻めてるわけじゃないってば~!だけどこれだけの技術がある場所なら味方にできれば魔王教団とも戦えるよ!!」
魔王教団の幹部の大体はアマノへ転生してきた人の子孫で敵対してしまった人達だ。
この技術を知らないわけがないはず……それに一番不安なのが未だに教団の本部は見つかっていないということ。
「魔王教団の教会はその名前を使わずにカモフラージュされてそこら中にありますがね」
「おじさん!!」
教団という割に人が少ないと思っていたけど、教会は名前を変えているのか。
それならもうどこに教会があるのかとか、そのメンバーの数も分からないわけね。
「一応、この国にも魔王教団はあった」
「あった……?もうないんですか?」
「元々魔王教団なんて言う名前ではなく女神教だったのです」
「へぇ……どうして魔王なんかに……」
「それを知るのはムーン様くらいです」
お城の中を進みながら話をしていたら既にその目的地であるタイヨウの居る部屋に来ていた。
今まで大きな建物には大きな扉が付き物だったんだけど、今回は違う。
襖という何とも懐かしく趣のある扉がそこにはあった。
警備のレベルが低く見えるけど、そこは魔法の世界。
魔法陣で幾重にも守られていて簡単に侵入できない。
襖の前にはとてつもなく綺麗な女性が立っていて、おじさんが確認すると部屋を守るための魔法を解いた。
綺麗な白い小さな手でスラスラと魔法を解く仕草は手慣れている様子。
魔法を解いて襖を開けるとそこには胡坐をかいて堂々としている白髪の中年男性が待って居た。
なんだか態度の大きい人……。
「タイヨウ様、ルーク様とそのご友人です」
「ふむ、ようやくきたか」
「お待たせしました」
「ああ……で、ルークはどれだよ?」
綺麗な女の人は私達の事を知らないみたいおじいさんを見て確認する。
おじいさんはまるで悪戯をする子供のような表情を見せると手を広げて何故かフーリアを指差す。
「こちらがルーク様です」
「……」
「その子がか?」
「……はい」
タイヨウは知らないはずなのにおじいさんの言う言葉を疑っているみたい。
嘘を見抜く能力でもあるのかな?
この人は最強の存在みたいだし、それくらいの魔法を知っている可能性だってある。
しかしタイヨウは首を振って応える。
「女に転生したことは知っているが、アイツは多分そんな気の難しそうな眼付きの悪い奴にはならなんぞ」
「と、いいますと?」
「その白髪の女は自信に満ち溢れた顔をしているし、強気な性格をしていそうだろ?」
「見た目だけで決めるのはどうかと」
「決まるんだよ……俺はアイツの事を良く知っている。そう例えばその赤毛の女の方がルークと言われても疑わなかったが?」
「……なるほど」
前の私を知っているような言い方だけど、実際会っているんだっけ。
正直全然知らない人だけど自然と嫌な感じはしない、それどころかこの人は信頼できると心の底から確信できる何がある。
それこそフーリア達以上に……。
そんな私の事をタイヨウは凝視すると冷たい声で確認する。
「てことでお前が……ルー……ク……ククッ……アハハハハハハハ!!」
「はい……?」
「お、お前……本当に女になってやんのー!!可愛いじゃねーかァ!!!!」
「なっ!?」
厳格で厳しそうな見た目とは裏腹に子供のような無邪気な笑顔でそんなことを言い出す。
なんだろう初対面の人にこんなことを思うことは無いんだけど、めちゃくちゃ殴ってやりたい!!
なんかムカッとするぞこいつ!!!!
「はー笑った。それでルーク……いやルークちゃんの方がいいか?」
「……は?」
ハッ!気づかないうちにとてつもなく口の悪い言葉を発していた。
私の珍しい態度にフーリア達ですら驚いている。
あとその言葉を聞いた綺麗な女性は私を睨んでくるのを感じて背筋がゾッとした。
「良い良い、ヒザシは下がってくれ」
「……主がそういうのなら」
「安心しろ。こいつは本物だ。俺が見間違えるわけが無い。お前は見張りを頼むぞ」
「はい……」
ヒザシと呼ばれた女性はタイヨウにそう言われて部屋を出ていく。
何故か最後に私を睨み続けながら……なんだかフーリアみを感じる人ね。
実は少し気になったことは内緒だ。
「さて、お前たちを呼んだ理由を話そう」
「私、結構無礼なことを言ってしまいましたが……」
「あ?お前に言われてもなんも思わねーよ。記憶も無いし、見た目も今までのとだいぶ違うが俺の親友である事に変わりねー!!」
「はぁ……」
友情と言うやつだろうか。
確かにこれをフーリア達に置き換えても私は仲良くでいる自信がある。
見た目とかじゃない、そこにフーリアの心が魂があるのなら私にとってはそれが本物だ。
このタイヨウという男もきっとそういう気持ちで今の私と会っているんだ。
こんなおっさんだけど、思い出してあげたいとちょっと思ってしまった。
「さて、一切感動できねー再会はひとまず置いといてルークよ。お前聖獣を何匹集めた?」
「え……?5……あ、いやルミナはどこか行っちゃったから4?」
「後3匹の居場所は分かっているぞ」
「本当ですか!?」
「ああ、2匹はこの城の守護をしてくれている」
「残りの2匹は……?」
「1匹は未だ行方不明……だが、もう一匹の居場所は分かっている……それはムーンが持っているはずだ」
あの次元が違う化け物の手元に一匹の聖獣が居る。
しかも前にサンも奪われたばかりだからこれで向こうは2匹か。
数で言ったら勝っているけど、私が捕まれば最後……その保有数は一気に変わってくる。
今更ながら自分の存在の重要性に気づいてしまったわ。
この世界の命運が自分の手に掛かっているなんて重すぎる……ってことが。




