第263話 知らない再会
朝、とてつもなく嫌な気配を感じて目を覚ます。
私の寝ているベッドに乗って、顔を近づけてくるルーフェの姿が……。
そんな信頼も信用もできて尊敬できないルーフェによって叩き起こされる。
なんだか顔も赤くてちょっと色っぽいんだけど……と思ったら多分昨日の夜、沢山飲んだわね。
「ほらほらそろそろ起きないとチューしちゃうぞ~!!」
「……通報しますよ?」
勝手に部屋に入ってくるなんて、たしか鍵を掛けていたはず。
……この人どんな魔法でも使えるのか。
古今東西全ての魔法を使えるルーフェなら鍵を開ける魔法も習得していてもおかしくない、これくらいは容易いんだろう。
窓の外を覗くとまだ日が昇っていない。
「あの、まだ朝じゃないですよね?」
「4時くらいだね」
「は!?どうしてそんな時間に……まさか本気で夜這いに……」
「おやおや?とっても嬉しい誘いだけど、残念ながらそうじゃない。休憩時間は終わりという事さ」
ルーフェにそう言われて早く支度するように指示を受ける。
とりあえず……着替えるか……。
「目の前で着替えるんだね」
「めんどくさいので」
寝起きは考え事をすると頭が居なくなるので何も考えていない。
それに女の子同士なので観られてもなんとも思わない。
「寝起きは弱いと……」
「変なメモ取らないでください」
身体が寝起きのせいでだるいのであまり強く言わないけど貞操だけは守る。
それにしてもこんな深夜に何の用だと思って宿を出ると既に馬車の準備がされていた。
もう中にはみんな入っている。
昨日の晩、ルーフェの武勇伝を聞くのが嫌で即宿の部屋で休んだ。
確か隣にはフーリアが居たはずだけど、既に起きていたみたい。
「というかなんで一緒に来ないのさ伝えてと言ったはずだよフーリアちゃん」
「伝えたわよ……耳元でこっそり」
「寝てるルークちゃんに……?匂いを嗅いでいたの間違いじゃないかい?」
「そ、そんなわけないでしょ!!寝てたから仕方なくよ」
寝てる人間の耳元でこっそり話しても聞こえない気がするけど……。
こんな朝早くにどうして集まっているのか、どうやらこの時間から出発するみたいで寝るのは馬車の中でとのこと。
それだけタイヨウの居る場所から離れているという事か。
「後、夜に移動するとは向こうも考えないだろうからね」
一番の狙いは移動中、魔王教団に襲われる確率を下げるためだった。
夜に行動するとは向こうも考えないという逆の考えでこんな早くから呼ばれたのか。
納得したものの、先ほどまで完璧に眠っていたので馬車ではすぐに寝れない。
既にこの馬車に居る子達は目を閉じて眠っていた。
可愛い寝息を立てていて皆疲れていたのがわかる。
「ルーク様!」
そこへ貫禄のあるおじいちゃんが白馬に乗りながら話しかけてきた。
名前は……未だに聞いていないのでどう返そうか悩む。
「えっと……ベテランの人ですよね?寝なくて大丈夫ですか?」
「私は4時間ほど睡眠を頂きましたから」
「4時間って……少ないですね」
「いえいえ、前世は2時間も眠れませんでしたからその倍眠れていますよ!!」
「前世……そうかあなたも」
アマノは魔導騎士が最初に生まれる場所。
魔導騎士の大体は転生者かその子孫だから、たまに前世の記憶を持った人もいるんだ。
この人の話を聞く限り相当劣悪な環境で日々を過ごしていたのね。
今は笑顔だけど、無理をしているようにも見える。
せっかく別の世界に来たのなら向こうのことなんて思い出したくないよね。
「というかあまり大声で話すとみんなが起きます」
「それは大丈夫、私の魔法で会話を聞かれないようにしておりますから」
「音のみを限定して遮断する魔法?結構高度な魔法なんじゃ……」
「ここから先は私よりも優秀な魔導騎士が多く、これくらいはむしろ序の口ですよ」
「さすが魔導騎士が多い国ですね」
「ええ、そしてそれらを束ねるタイヨウ様はおそらくこの世界の誰よりも強いお方です」
「タイヨウ様……ってどんな方なんですか?」
知らない人とこれから会うわけだから少しでも情報を聞いて置こうという算段だ。
相手はこの国のトップであり、この人の言うことが本当なら最強の人間。
不敬なことをしないように心がけておくためにも地雷になるような事は知っておかないといけない。
しかしそんな心配をしているのを聞いて貫禄のあるおじいちゃんはニコニコと笑う。
「ははは、どれだけ不敬なことを言おうとあなた様なら問題ないでしょう」
「私初めて会うんですが」
「おや?前世の記憶があると聞いておりますが……60年前に居た勇者ルーク様の記憶は無いのですか?」
「あ、いや……私の前世の記憶は前の世界のものしかないんです」
「なんと!」
勇者ルークはタイヨウにあった事があるのか。
だからこの偉い人は多少不敬なことを言っても見逃されると言ったのね。
勇者ってことはそれなりにタイヨウを助けていたのかもしれないしね。
「それは残念です……タイヨウ様と勇者ルーク様はそれは仲良しでして……」
「はぁ……」
仲良し……まるで見てきたかのような言い方。
この人の年齢はいくつか分からないけど見た目的には60から70じゃないかな。
勇者ルークが60年前に生きていたのならこの人が10代の時に会っていたのかもしれない。
そう考えると私が治癒の炎で治す時に止めないどころか信用とずっと目を輝かせながら馬車の子窓から顔を覗かせているのを見つめているのも頷ける。
白馬に乗りながら愉快にそんな話をしている彼のことを思い出せないことに少しだけ胸が痛い。
私がもし早く死んだらフーリア達のことも忘れてまた前の世界の記憶を持ったまま転生するのだろうか。
残されたフーリア達は一体どう思うんだろう。
この人のように記憶が無いことを知ると悲しむのだろうか。
そんなことを考えていると瞳がウトウトしてくる。
それに気づいたおじいちゃんは話を止めて離れてしまう。
結構お歳の方だったけど、年下の私の気遣いもしてくれるとってもいい人だ。
勇者ルークと仲がいいというタイヨウは一体私の何を知っているんだろう。
そんなことを考えながら私は眠りについた。




