第35話 嵐の前夜
しんしんと雪を落とす真っ白な空。年の終わりの迫るこの頃は、一層寒さが増してくる。
もちろん、北国の人々が特別寒さに強いというわけでもないので、この時期は室内で過ごすのが一般的だ。そういうわけで、ロック一番の大通りも夏の賑わいなどとうに忘れて、この街一番の静けさを保っている。
しかしながら、室内で温かさを保つには暖炉の火を絶えずつけ続けなければならず、それは非常に億劫で、倉庫の薪の消費量も馬鹿にできない。最近では木の伐採過多も問題視され始め、薪の量は冬の間暖炉をフル稼働するのに遠く足りないのだ。
しかし、寒さで死ぬ可能性があることも事実で、それを凌ぐためにどうすればいいのか。人々が思い立った対策とは、
「今日も混んでるなあ」
「まあ、普段こういうことないし暖かいし。楽しめるものね」
「あ。新書が入ったみたいですね。それでは...」
「そう。ギルドの解放である」
いつもなら朝に冒険者が密集するくらいだったギルドのホールに、老若男女、多くの人がたむろしていた。
普段はない椅子や机が運び出され、各々好きなところに座って好きな人とぺちゃくちゃ喋っている。
「お、なんか言ったか?」
「ああ、ここに来ると楽しくなってくる」
「ジン好きよね、ここ。こないだだって普段飲まないお酒まで飲んでたし」
「あー。俺もこっちなら酒飲めるんだろ?取ってくるわ」
「やめた方がいいわ。あたしたちが飲むと喉が痛くなる」
「お前飲んでたのか...。道理で声嗄れてるなあと。いや、お前沢山飲んだからじゃね?」
「1杯でこれよ...」
「お前が酒弱いんじゃねえか」
「ち。あんたね...」
「おい!殴るのやめ、な?危ないっ、て!」
「気をつけろよー」
あっという間に1人になってしまった。リリカはどんどん魔法の知識を蓄えているようで、最近は家でも新しい魔法を使っている。水を一瞬で熱湯に変えたり、腐った野菜を新鮮な状態に戻したりしていたので、適性は変化魔法にあるかもしれない。まあ、腐った野菜を新鮮にしても食べたいとは思えなかったが。
ヨウタとアマネはいちゃついているように見えて、色んな人と話しているらしく、特に同業者にはその強さを絶賛されていた。2人はこの街に定住して冒険者をやっていくようだし、友好関係を気づくのはとてもいい事だ。ここらでは、夏になると大量のモンスターが押し寄せてくるため、地元民にとって心強い味方が増えたことになる。
帝国の学校を卒業して、冒険者を志した者の大半もこの街に来ることになるため、そいつらにはいい刺激になるはずだ。「勇者」のような初心者狩りをしなければいいのだが。まあ、「勇者」も良かれと思ってやった事だし、ルークたちのような志高い新米冒険者が増えるのは嬉しいことだけれど。
久しぶりに図書館でも行こうかな、とホールの端にある階段を登ろうと足をかけたところで、ガタンとギルドのドアが開く。さしてそのこと自体は気にすることでもないため、そのまま登ろうとするが。
「号外!号外!帝国広報部の新聞だよ!!」
「おお!!」
「久しいなあ、号外なんて」
「雪の中、ご苦労さんねえ」
「さあ、気になる方は持ってけ持ってけ!その前にちゃんとバッジ見せろよ!」
珍しい。号外なんて数年に1度、それこそ国王の崩御くらいでしか出されないようなもののはずだ。雪を被った新聞配りの青年は、クタクタになりながらも目を輝かせて配っているので、それはないだろう。まあ、前の号外の内容が最も非道なものだったから、別に国王の崩御でもいいのだけれど。
「はい」
「毎度...あ、お兄さん。このバッジ更新前のだよ?」
新聞を受け取るために帝国広報バッジを見せると、困ったような顔をされた。これを予め買っておかないと、帝国広報部の新聞は買えないことになっている。
「知らなかった。すまない」
「いえ。新しいのと交換する?100ネピー」
「おう...そら」
「サンキュ!はい、毎度!!」
バシッと手渡された新聞は、2つ折りにされていた。
その片面が目に入った時、どうしようもなく消化しがたい感情が湧き上がってくる。
ゆっくり自分の感情を抑えて壁に体を預ける。いくら見ようと、何度見ようと。その見出しはより詳細により微細に、私の脳みそに事実を突きつけてきた。
【『勇者』たち一行、シグルド山に棲みつく黄金竜の討伐に出発】




