第8話 浮き出る違和感
いつの間にか居眠りしてしまったケインの代わりにリリカが就寝の合図を出した頃には、既に声が枯れてしまっていた。
起きた今でも喉が痛い。調子に乗っていくつか誇張して黒歴史も話した気がするので頭も痛い。子供は恐ろしいね。
リリカ曰く、ここまで冒険譚に興味を持ってくれたのは、村に冒険者が来ることも稀だからだそうだ。あれだけの反応を見れたから、多少の黒歴史も許せたりする気もする。
床に大量に敷かれた毛皮の、中央あたりで体を起こす。
寒い。
とりあえず周りで寝ている子たちを起こさないように、2番目に大きな家からそっと外に出る。
少し村を散策しつつ、昨夜説明された場所で水を浴びる。さすがに凍えてしまうので、魔法で温水に変えた。板が壁替わりになっていて、樽に沢山の水が溜まっている。ここらは雨が少ないから、地下から水を汲んだのだろう。
昨夜は気にならなかったが、改めて考えると疑問が湧いてくる。
今思えば、子供たちから聞いた色んな話に、両親のことやこの村のできた経緯などが一切なかった。
この村には大人の介入が本当にないのだ。
さらにいえば、誰々がモンスターを捕らえた、殺したなどの自慢話がなかった。罠を設置するなど他の方法もなくはないが、そういった知識も欠如している。どの子供にも目立つ傷が一切ないことからも、モンスターとの交戦が一切ないことがわかる。
しかし、建物がたった四件、柵も木製で貧弱。
いるのが子供だけとならば、賢いモンスターはこの村に入って来る可能性が高い。例をあげれば、ゴブリンなどだろうか。
それでも村に侵入された形跡もなければ、この辺に冒険者が来ている影もない。
この村の近くの森はモンスターの数が異様に少ないのだ。
昨日の魔獣の影響もあるといえばありそうではある。
それにしても何か引っかかる。周りを見渡した時に、ふと心の隅に黒い違和感が写り込むのだ。
服を着て、村の散策を再開したところで森の向こうからゆっくりと太陽が姿を見せる。
感じた違和感の正体はなんだろうかと歩きながら考えてみるも何もわからなかった。
己の推察能力の低さに落ち込んでいると、ケインがやってきた。さすが、村長の朝は早い。
「おはよう」
「おはようございます」
そういうとケインはストレッチを始める。
「これから稽古でもするのかい?」
聞いてみる。対獣の剣術訓練をするのだろうか。
「いいえ、木登りです」
「は、へえぇ」思わず変な声が出てしまった。ケインはいつも質問の予想を裏切る。不可思議な好青年、恐ろしや。
「他の子達がまだ寝ているこの時間帯が、絶好の木登りタイムなので」
そういうと楽しそうに村の外へかけていった。村長も大変なんだろう。
その後私も剣の素振りをしていると、続々と子供たちが起きてくる。
しばらくするとケインが戻ってきて、朝食が始まった。昨夜と同じくお誕生日席に座っていることもあってか、無意識に子供の数を数えていた。
昔から黙って数を数えるという変な癖があったからだが、今回はそれが役に立った。
子供が1人足りない。
何度数えても29人だった。
誰だろうか。持ち前の記憶力を頼りに顔と名前を照合する。
わかった、バルトだ。
昨夜の自己紹介の時に、俺たち3人組!!みたいな強い絆を感じた、マルコとグレイが二人で食べている。
なんてことは無い。バルトはまだ起きてないのだろう。私も朝に弱かった時期はあった。なんて感慨に浸っていたからか、特に何も考えずケインに尋ねていた。
いや、予感はあった。この村の違和感と関係がないわけないのだろう、と。
「いえ、彼は戻りませんよ?」
「...なんて?」