第9話 消えた子供
「バルトはもう戻ってこないんです」
確か私は
「バルトはまだ寝てるのかな」
と聞いたはずだ。ケインの返答は予想したものと全く異なり、混乱する。
ふと、部屋の空気が冷たくなった気がする。
ハッとして見回してみると、子供たちの表情は強ばり、リリカに至ってはスプーンをカランと落としていた。ケインだけが、何も無かったかのように食事を続ける。
今までちんまり主張していた違和感が、突然諸手を挙げて襲いかかってきた。
一瞬空気が凍った気はしたものの、何事も無かったかのように食事は再開された。この場でもう一度問うのはリスキーだと感じ、私も黙って昨日と同じどろどろを食す。
食事が終わり、ケインに再び話をしようと試みるが、彼は井戸の定期点検だとかですぐに行ってしまった。
完全に避けられた気がする。
他の子供たちも、各々の仕事に移っていた。この違和感を放って出発するのもはばかられるので、しばらくここに残ろうと決める。
メキメキいう柵に体をあずける。ここからだと村の入口が見え、薪を村に運ぶ子供たちが見えた。全員が一心不乱に、黙々と作業をしている。
バルトは戻らないと言ったか。
私の知らないところで喧嘩でもあって村から出たのだろうか。だとしたらあの微妙な雰囲気も納得出来る。あの感じだと大方ケインと喧嘩したのか。
いや、それにしてはケインは落ち着きすぎている。それに昨日見た感じ、バルトはそうそう問題を起こしそうにない寡黙な少年だったはずだ。
喧嘩別れの可能性は低いな。
追い出された、自分から出た。
逆の観点で「引き抜かれた」。いや、「連れていかれた」という線はどうだろう。
この村には大人は居ない。しかし子供を産むのは大人だ。確実にこの村に来る前まで、子供たちの周りに親がいたはずなのだ。
バルトが親に連れていかれたと考えてはどうだろう。
しかしあの反応を見ると、子供たちは親に連れていかれることを嫌と思っている感じだ。夜のうちに大人が連れ出そうとしても、幼い子供らは嫌がり反抗する。それに私が気づかない訳が無い。10メートル離れた地面で蛇がかさりと動いても気づくくらいだ。
ここは親から逃げてきた子供たち、親に捨てられた子供たちの集まった村と考えるのが妥当。
そうだとしても、やはりケインの反応には疑問が浮かぶ。
埒が明かないな。
私のモヤモヤとした心境とは真逆に、今日もグルドの空はカラッと晴れる。
村の端っこで、薪を村の外から中へ運ぶ子供たちをぼうっと眺めながらうむうむ唸る。
はたから見たら少々気色悪いかもしれない。いや、実際そうなのだろう。
「話をしてもいいですか」
それを見兼ねたのか、リリカが目の前に立った。彼女の顔は強ばり、何かしらの決意が伺えた。
私が頷くと彼女は村の奥、作業中の子供たちから見えないところに私を連れて移動する。
やはりアブナイ人とでも判断されたのだろうか。さりげなく「告白」という選択肢も脳内に入り込んでいたが、能天気な考えを脳内から蹴り出す。
柵の向こうはやはり広大な草原が広がり、一匹も動物の姿が見えない。
「ここならケインさんにバレません」
昨夜寝た家の裏側。
リリカは神妙な面持ちで続ける。
「バルトがいなくなったことに気づいて、何か変だと感じていますね」
その通りだと頷く。
「もし、この村で起きている問題を解決して欲しいと言ったら、たとえそれが、どれだけ難しくても、解決して貰えますか?」
「そういう言い方をするときは、厄介な問題だと相場は決まっているけど」
「ええ、その通りです」
私の様子を伺うように頷く。
「ただ、【プラチナ】の方なら何とかできると思っています」
これはちょっとした脅しと、信頼だろうか。
私はこの一日で、彼女がこの村で一番賢いことを知った。この村で起きてることを全て知っていて、その原因も把握しているのだろう。
この村では、冒険者としてではなくても一人の大人として、見逃せない問題があるのかもしれない。
「わかった。話を聞こう」
私の返答を聞くと彼女は
「では、すぐに行きましょう!」
と私を村の外へと案内する。
途中、薪を持った少女──ミリアムだったか──に
「外に出てくるけど、ケインには冒険者さんに森を案内すると伝えて」
と言い残していた。
もしかしたらケインは、所謂「黒幕」なのかもしれないな。




