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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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王宮への途上にも色々とありまして

「とりあえず、護送中は問題なく過ごせそうだね。この先も基本的には町の宿に泊まるらしいよ。ユラさんが女性だから」


 紅茶に口をつけ、フレイさんは真面目な話から切り出した。


「なんにせよ、野宿じゃなくてよかったなと思います。扉がないと、眠っているうちにグサーっと刺されたりしそうで、さすがに怖いので……」


「そんなこと考えていたんだ」


 フレイさんにクスクスと笑われてしまう。


「変ですか?」


 だって警戒するよね? 本物の魔女だと思っていたら、王都へ連れて行くのも怖いから、殺して死体を持っていけばいいって判断されるかもしれないもの。


「俺がさせないよ。信じられない?」


 カップを置いたフレイさんが、じっとこちらを見ながら言う。


「でも一人では……」


「不意さえ突ければどうにでもなるよ。それに俺は魔術が使えるからね。剣だけじゃないから」


 そういえばフレイさんはいろんな手が使える人だった。


「それにユラさんも、そこまでの危機になったら魔術を使って逃げればいい」


「でもそんなことをしたら、フレイさんまでアーレンダールにいられなくなってしまいます。それは申し訳ないので、せめて私に騙されたふりをしていただいて……」


「それは嫌だな」


 フレイさんが二度も国を追われることがないようにと思って言ったけれど、本人に拒否されてしまう。


「え……でもフレイさん」


 説得しようとしたけれど、フレイさんは立ち上がって私の頭に手を載せて言った。


「ユラさんが国を出ることになるなら、俺はついて行くよ」


「申し訳なさすぎます。私、自分の身は守れるようになりましたし、他の国へ行くことになっても一人でなんとかします」


 もう引きこもりのままの自分ではなくなったし、紅茶を売るとか生活手段も手に入れている。だから何でもできるだろう。

 どちらかというと、ヨルンさんに連絡だけはとってほしいなと都合のいいことは考えているけれど……。

 けれどフレイさんが、困ったように言う。


「俺が一緒にいたいんだよ、ユラさん」


「え、そこまで面倒をみていただくわけには。子供でもないわけですし……」


 フレイさんの手がふわりと一度離れてから、耳に触れる。くすぐったさに、声を上げそうになった。

 そこに気を取られているうちに、フレイさんが顔を近づけていた。


「君のことを、子供だなんて思ったことはないよ」


「…………」


 真正面からそう言われて、私は口ごもる。

 だって「そういうこと」にしておきたかった。団長様も、フレイさんも。あいまいな言い方をしたまま、笑ってスルーしてくれていたらそれで済ませられたから。

 何かの気まぐれかもしれないし。本当だったとしても、どうしていいのかわからない。

 なのにフレイさんは、逃がしてはくれなかった。


「ユラさん」


 ついうつむいてしまった私は、呼びかけに顔を上げて後悔した。

 頬に触れた吐息と感触。

 それが次に額の上にも降りてくる。


「これでも、子ども扱いをしているって思うかい?」


 身を話したフレイさんが、小さく笑って尋ねてくる。


「ふ……ふれいさ……」


 な、なんてことをなさいますやら!?

 そう言いたいのに、もはや声が上手く出ない。

 団長様のアレだけでも手一杯だったのに、フレイさんにまでこんなことをされるなんて。


 ど、どうしたらいい?

 なんかこう前世知識的には、男女二人きりの部屋の中で「子供扱いじゃないと思います」と言って、大丈夫? あ、でもフレイさんて「子ども扱いだと思います」と言ったら煽ることになりそうで怖い……。


 自分がどう行動すべきかわからなくて硬直していたら、フレイさんが耳元に触れていた手で私の肩を叩いた。


「とりあえず、嫌がっていないみたいで良かったよ。とりあえずこれで、俺が君についていきたい理由はわかってくれただろう?」


 わからないと答えたら、絶対にもっと悲鳴を上げそうなことになるはず。

 急いでうなずけば、フレイさんは満足そうな表情になった。


「じゃあ精霊の見張りを置いていくよ。ゆっくりお休み、ユラさん」


 そうしてフレイさんは穏便に部屋を出て行き……。私は、目の前のテーブルに突っ伏した。



 かといって、この後はフレイさんも同じようなことをしたりはしなかった。

 私はとても助かったけれど……。

 どうしてあんなことをしたのかといえば、私に何があってもついて行くことを納得させるためだろう。


 ただ、唐突な行動というわけではなかったな、と思う。

 団長様の場合は、何か方針転換したみたいに、甘い言葉をかけてくるようになって、ものすごく戸惑ったけれど。


「フレイさんって、元から甘い言葉を言う人だったもんね」


 だからか、フレイさんだと突然という感じはしない。お城でもなんかギリギリなこと言われていたせいだと思う。

 そもそも初日にあんなことを言ったのも、護送中に何かがあった場合にどうするかを、私に教えておくためだろう。

 護送が思ったよりも和やかに済みそうだけど、何が起こるかなんて予想がつかないし。

 逃げることになった時に、私とついて行く行かないの問答をしなくてもいい。


「でも……」


 これって、どうなんだろう。

 二人とも好きだから何かをしてほしいとは言わない。

 普通、き、キスをしたりする時って、付き合ってほしいって言われるとか、そういうシチュエーションしか私、思いつけないんだけども。


 かといって、言わないにしてもこう、時々言葉の端から独占したいようなことを匂わせたりするんだけど。


「ええと。とりあえず中断しよう」


 長時間馬車に乗って、ぼーっとする時間が長いせいで、どうしても衝撃的だったことを考えてしまいがちだけど。そろそろ気持ちを入れ替えなければ。


 もうすぐ馬車の旅が終わる。

 関所のような場所を通り抜けたら、大きな川にかかった幅の広い石橋を渡った。

 白石の橋は、頑丈そうなのに柱や柵に装飾があって、瀟洒な感じまでするものだ。


 そうしてとても大きな町の中に入る。

 全面が石畳で舗装された街並みは、レンガや石の背の高い建物が立ち並んで、まるでビル街にいるかのよう。

 行きかう人の姿も多く、裕福そうな服装の人も多い。


 そんな街並みを眺めているうちに、さらに頑丈な門を二つ通った。

 やがて馬車が止まったのは、窓から見る限り、どう考えても……平民の私がやってくるにはふさわしくないような外観の場所だ。


「これ、お城のメインのエントランスとかそういうやつでは」


 噴水をそなえた広々とした庭には、薔薇があちこちに咲き乱れ、建物の前には、二手に分かれて登れる白石の階段がある。

 平民用の通用口みたいなところから、兵士の詰め所みたいな所へ連れていかれるのだとばかり思っていた私は、びっくりした。


 でも護送してくれた騎士さん達は、その階段を上れと言い、隊長らしき人に先導されてしまう。

 フレイさんも後ろからついてきてくれたので、恐る恐るながらも階段を上ると。


「あなたがユラ・セーヴェルなの? 初めましてっ!」


 上り切ったところろで、やたらと明るく挨拶してきた人を見て、私は目を丸くした。

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