表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

197/259

そして私は決めた 2

「ただ、陛下の元へ行ってすぐどうこうということはないはずだ。イーヴァルがお前の紅茶を公爵家から贈るように手配していたせいか、陛下は紅茶師としてのお前に興味があるらしい」


「陛下がご興味を?」


 そしてソラが言った意味が少しわかった。そこを突破口にしろということ?


「ただ陛下が好意的とはいえ、お前に嫌疑がかかっているのは間違いない。陛下にかばいきれないこともあるかもしれない。当然、お前の疑いを助長するだろうから火竜を連れて行くのは無しだ。竜と話せるというだけでも、疑っている者を刺激しかねない」


 そこで団長様が息をつく。


「一応、こちらから一人、見守りの者をつけるように先ほど要求を通した。正直お前は魔法が使えなければ、ひ弱でどうなるかわからん。罪人の疑いがあるお前を、どう扱うかは護送する人間次第だ。陛下の命を受けていても道を外れる者はいる」


 それはとてもありがたかった。だってたった一人、罪人扱いで見知らぬ人に連れていかれるのは心細いし不安だ。

 でもその要求をした時に、護送を命じられた側の人から「信用できないのか!」と抗議されたらしい。


 ……さっき言い合いをしていたっぽい声が聞こえたのは、そのことのようだ。


「王宮へ到着後は、国王陛下もお前に会うのが目的だろうし、私の公爵家の権力を使って陛下への手紙も言づける形で、安全の保証はある程度できると思うが……」


 それでも完璧かはわからない。と言った団長は、じっと私を見る。


「だから逃げるか、それとも上手く切り抜けられる方に賭けるか、決めてもらいたい。逃げるつもりなら、何としてでも逃がす」


「団長様……」


 きっと私を逃がすのなら、このまま失踪したということにするのだろう。


「でも逃げたら、団長様達が必ず疑われます。今日に限って私が朝から失踪して戻ってこないのは不自然ですし」


 なにより、私が楽しんでやっていた喫茶店の開店時間を放り出し、そのまま逃げるなんて怪しすぎるだろう。


「もし私の単独の行動の結果だと考えた場合、私が魔女だから察知できたのだ、と理由づけられてしまうかもしれません」


 魔女はとにかく恐ろしい魔力を持っていて、なんでもできると思っている人が多い(昔の私の魔女のイメージもそうだった)。だから勘違いの末に、私の魔女疑惑を深めるだけだ。


「そうしたら、ますます私は魔女だと確信を持たれて、もっとはっきりと捜索や討伐をされてしまうのではないでしょうか。そうしたら、魔女を雇っていた騎士団や団長様にも迷惑をかけることになります」


「そこは気にするな」


「いいえ。今後何年も、下手をすると何十年もシグル騎士団の失点として、記憶に残るようなことはできません。だから」


 ソラが大丈夫だと言ってくれていても、たった一人の意見を信じて向かうのはちょっと怖い。

 団長様も万が一のことがあるから、逃げる選択肢を勧めてくれたんだろう。

 だけど私のことで、団長様達がひどいことを言われたり、何か罰を受けさせられる可能性があるから。


「国王陛下の元へ行って、魔女ではないと騙してきます」


 本当は魔女だから、騙しに行くというのが正解だ。

 まっすぐに団長様を見て言えば、数秒考えるような間の後で「わかった」と答えが返ってきた。


「ではフレイ準備を」


「わかりました」


 フレイさんは立ち上がって部屋を出て行く。


「フレイには、お前を王都まで送る役をさせる。本当は私が行けたらいいのだが、すぐにここを離れるわけにはいかないからな……」


「いえ、ご配慮いただいてありがたいです」


「ユラ、どうせお茶を持って行くのでしょう? あなたが姿を見せたら、護送役の騎士達は間違いなく簡単な荷物の準備しかさせないでしょうから、お茶を持ってきましょう」


「あ、ありがとうございます! 棚に缶に入れたものがありますので、それをできるだけお願いします」


 頼むと、イーヴァルさんが部屋を出て行く。

 助かった。お茶を広めようというのに、そのお茶が少ししかない状態だったりしたら、どうしたらいいのかわからない。

 疑われている私に、お茶を作らせてくれるかどうかも怪しいし。ヨルンさんが売りさばいている品を、入手させてくれるかどうかも怪しい。


 残った団長様は、立ち上がって私の側へ来る。

 なんとなく私は座ったままではいけない気がして、つられたように立ち上がった。


「無理はするな。どうしようもなくなったら、魔法を使って逃げてもかまわない」


「そんなことできません! きっと団長様達にまでご迷惑をおかけしないようにしますから……」


「迷惑をかけてもかまわない、ユラ」


 そう言って、団長様は私の肩を引き寄せて、その腕の中に閉じ込めた。


「あの、だん……」


 そこで私も言葉が止まってしまう。

 離してほしくない、と思ってしまったから。いくらフレイさんがついてきてくれるとはいえ、やっぱり怖い。


 魔女だという嫌疑を晴らせなかったら、どんなに逃げても王国中を探されてしまう。

 そうなったらもう他の国へ逃げるしかない。下手をすると、団長様ともう会えない可能性だってあるのだ。

 そう思うと、ものすごく寂しくなったから。


「火竜については、私が従えたことにする。護送の責任者にも先ほどそう伝えてある。それに準備ができ次第、王宮へ私も火竜を連れて行く。お前ではなく私に従っている姿をみせれば、誰もお前を魔女だとは言わなくなるだろう」


「それでは、団長様が……」


 変な疑いを持たれてしまうのでは、と思ったけれど。


「私には精霊王の剣がある。なんとでも理由はつけられるし、精霊教会にも後押しをさせる方法もある。だからそれまで……妙なことをしないように。あと、あの火竜に魔力供給源を失いたくないなら、私に従うように言っておけ」


 無事でいてくれでもなく、妙なことをするなと言われて、ちょっと笑ってしまう。それで少し、気が抜けた。


「大丈夫です。私も我が身が可愛いですし、アーレンダールにいられなくなって、お祖母ちゃんのお墓参りができなくなると困るので、がんばります」


 だから笑って言うことができたのだけど。

 そんな私に、団長様は耳元でささやく。


「それでも、お前は何をやらかすかわからないからな」


「ひゃっ」


 耳や首筋がくすぐったくて思わず声を上げる。


「万が一のことがあれば、お前の意見を聞かずに王宮から連れ出す。そのつもりでいろ」


「だめです! それだと、団長様まで魔女の仲間だと思われてしまいます!」


 それでは団長様や、ひいては団長様と離れる気がないイーヴァルさんまで、アーレンダールにいられなくなってしまう。

 抗議した私を説得しようとしてか、団長様が少し腕をほどいてくれる。だから私は団長様を見上げて、もう一押ししようと思ったのだけど。


「考え直してくださ……」


 言葉は止めさせられた。

 唇がふさがれたから。団長様の唇で。

 それはほんの短い時間だったのに、団長様のあたたかな唇の感触と、離れる時の少し甘い感覚が脳裏に刻まれる。


 ……私、今キスしたの?


 ぼうぜんとしている間に、団長様が私から完全に腕を離す。


「考え直す気はないからな?」


 団長様がそう言って数歩離れたところで、扉が開いてイーヴァルさんが戻ってきた。

 その手にあったのは、一杯に中身が詰まった背負い袋。


「あ、ずいぶん入りましたね……」


 ぼんやりしながら私はそうつぶやいてしまう。


「目につく缶は全て入れました。国王陛下が紅茶にご興味を示しておられるのなら、振る舞う機会もあなた次第で多くなるでしょう。これで足りなければ、公爵家に連絡をするように」


「はい、ありがとうございます……」


 返事をして背負い袋を受け取ったものの、私はまだふわふわした気持ちになっていた。

 イーヴァルさんは首をかしげたようだったけれど、それ以上に私が変な行動をするわけではないので、放置することにしたようだ。


 やがてフレイさんが戻ってくる。

 私と一緒に王宮へ向かうフレイさんは、外出の用意と馬と荷物の準備を済ませてきたようだ。


 その時点で、私が戻ってきたと護送役の騎士たちに連絡し、私はフレイさんと一緒に移動して、荷造りをすることになった。

 待ち構えていたオルヴェ先生は、荷造りをしに来た私を見て、王宮へ行くことを決めたとわかったようだ。


「気を付けて行け。俺も行けたらよかったが……。万が一の場合には、俺の知り合いの王都の医者や、地方の医者を頼るといい」


 そう言って、住所と名前を書いたものをフレイさんに託してくれた。

 このころになると、ようやく私も頭がはっきりしてきていた。


「ご迷惑をおかけします……。でも、きっと疑いを晴らしてきますので」


「部屋はそのままにしておくからな」


 オルヴェ先生の有難い言葉に頭を下げ、私は再び第一棟の前へ移動する。

 そこにはすでに、団長様と護送のためにやってきた騎士達が十人。そして窓から見たあの馬車が待っていた。


「お前がユラという娘か。国王陛下より王宮への召喚命令が出ている。我々が護送するので、馬車に乗るように」


「わかりました」


 うなずき、私は馬車に乗り込んだ。

 そうして馬車の扉が閉められる直前、振り返って団長様を見る。


 こちらを見ていた団長様が、目が合った瞬間に、微笑んでくれる。

 それだけで少しほっとして――さっきのことを思い出して、私は誰もいない馬車の中で、顔を覆ってうつむいてしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ