ソラに相談したら不思議な助言をされました
「どう……」
どうしよう。
私が魔女だという密告があった経緯はわからない。というか、今も何か話しているみたいだけど、聞く気力がわかない。
それよりも早く逃げる方法を探さなくては、と思った。
自分がここにいては、団長様達に迷惑をかけることになってしまう。
わざわざ「私が外出している」という口裏合わせを徹底したのだ。逃がすなりするための時間稼ぎをするつもりだろう。
それがバレたら、さすがの団長様も何もおとがめなしというわけにはいかなくなる。
なにせ私の捕縛は国王命令なのだから。
かといってどうしたらいいのか。
魔女じゃないと訴えて、聞いてもらえる? 望みは薄い?
もうこうなったら一度逃げるべきだろうか。でも団長様に迷惑をかけずに逃げる方法……。
私はポケットに入れていたクッキーを取り出す。
いつでも万が一の場合を考えて、数枚持つようにしているのだ。……そのまま私のおやつになることもあるけれど。
団長様の部屋の中で、精霊がいないかを探した。けれど見当たらない。
「じゃあ精霊召喚……」
私は扉から離れる。
入っていた部屋は、団長様の私的な居室になっているみたいで、ソファーや、テーブルセットなどが置いてある。たぶん食事などはここでしているのだろう。
私はテーブルの上にクッキーを置き、ステータス画面を呼び出す。
LV10になっている精霊召喚の技を選択。
《召喚しますか?:要おやつ一個 Y/N》
私は無言でボタンを押した。
するとゴブリン姿の精霊が5匹、ぽぽんと卓上に現れた。
火竜の魔力を吸収したけれど、ゴブリン精霊さん達の格好は変わっていない。……火竜さんに魔力を戻しているからとか、そういうことはないよね?
とにかく今は、ソラを呼び出したい。
一個のクッキーを五体で頭上に掲げたゴブリン精霊に、私は尋ねた。
「クッキー以外でソラを呼び出すなら、何を作ったらいいのかな?」
絶対に値上がりしているから、最初から作るべきものを聞いておく。
するとゴブリン精霊は一斉に首をかしげた。
「んー。ふわっと甘くて」
「クリームいっぱいの?」
……それで予想できるお菓子って、スポンジケーキぐらいしかないんですが。ホットケーキ重ねてクリームで飾っても大丈夫? そんなわけないよね?
どっちにしろ今の状況でお菓子を作れるかどうかわからない。だから念のため重ねて聞いてみた。
「クッキーでどうにかすることはできない?」
「んんー、100枚?」
「げ」
多すぎ! 絶対無理! と思ったら、一匹のゴブリン精霊が別の回答をくれた。
「クッキーをぴかぴかにするといいよ!」
「クッキーをぴかぴか?」
「お茶も輝くよ?」
お茶……そうか、魔力を込めろってこと?
でも物質に魔力を込めたことなんて……あ、火竜さんの時みたいな感じかな? とにかくクッキー一個でソラが呼べるのなら、今すぐやろうそうしよう!
五体のゴブリン精霊が、分け合ってクッキーを食べている横で、私は一枚のクッキーに魔力をなんとか注ごうとした。
しかも急がなくてはならない。
扉の向こうでは何かもめているようで、激昂した声が聞こえたりしている。出入りする靴音もわずかに響いていた。
「…………んむむむむ」
それでも一分ほど頑張って、ステータス画面のMPが1000ほど減ったところで、クッキーがぼんやり光り始めた。
「光るクッキー……」
何とも言えない代物が出来上がった。
それを見て、クッキーを食べ終わったゴブリン精霊がはしゃぐ。
「ぴかぴか!」
「ちょっとぼんやりさんだけどダイジョブ」
「呼ぶよ呼ぶよー」
彼らにクッキーを渡すと、光るクッキーを中央にして、五体のゴブリン精霊が輪になる。
「いでよー!」
「王様やっほー」
「おいでませー」
「魔女のお呼び出しなの」
「お願いきてー」
めいめいに好き勝手な呼びかけをして、繋ぎあった手を挙げる。
とたん、ぴかっとクッキーの光が増し、その光が白く広がって広がって……。
「!?」
前よりちょっと大きい。私より背を越してしまったような大きさっぽい輪郭になる白い光。その輝きがすうっと消えた後には……。
「ソラ……?」
フレイさんぐらいに背丈が伸びたソラは、衣服こそ前回のままだったけれど。
「やあユラ」
にこっと微笑んだその顔。いやその頭には、長い黒髪がふっさりと生えていた。
「か、髪……」
なぜ髪が生えたの!? 叫びたいけど、今そんなことはできない。しかもソラの容姿にこだわっている場合じゃないけど、ツッコミを入れずにいられない!
ソラは恥ずかし気に髪の端を摘んでみせる。
「ああこれ? 君の魔力が増えると、どうしても僕、元の姿に近くなるから……」
「元の姿?」
どういうこと? と思ったけれど、ソラに質問をスルーされる。
「それよりユラは、切羽詰まった状況なんだろう?」
「そうなの、魔女だって疑われて、捕縛命令が出て。団長様達に迷惑にならないように、今すぐどこかに逃げたいんだけど、できる?」
頼んでみたら、ソラから意外なことを言われた。
「大丈夫だよ、ユラ」
「え……」
「王都にもお茶は広まってきている。それにリュシアンも、君に不利にならないように手を尽くすことができる。ユラは安心して、国王にお茶を広めてくるといいよ」
「お茶?」
捕縛されるのにどうやってお茶?
疑問でいっぱいの私の頭を撫で、ソラはふっと姿を消してしまう。
数秒後、扉がノックされた。




