魔女との戦いが近づくかもしれない中
もう慣れ親しんでしまった、竜での飛行。
目の前でヴィルタちゃんの首元にふんぞりかえって座る火竜さんがいたおかげで、あまり緊張せずに済んだ。
そうしていると、ヴィルタちゃんの子供みたいですね火竜さん……。
まもなく団長様が下りたのは、先日襲撃があった場所とは別だけれど、騎士団の城からはそう離れていない場所だった。
森の一画なので、他の魔物が出ないか気になったのだけど。
「竜が二匹もいれば、ザコどもは近寄らんだろう。命が惜しいだろうからな」
火竜さんがそう言うので、ゴブリンなんかは警戒しなくていいのだろう。
「強い魔物とかはどうなんでしょう、火竜さん」
「我のような何百年も生きている竜を倒しておいて、お前は何を心配する気だ?」
「いやまぁ、そうですが」
不意打ちは嫌じゃないですか。怪我したくないですよ。
それに狙われているらしい身ですので、二方向の敵が一度に来るのとか、避けたいじゃないですか。
「ユラ、魔物を警戒しているのか?」
火竜さんと会話をしていると、その内容が半分しかわからない団長様が、ヴィルタちゃんに何か言い聞かせた後でこちらを振り返った。
「あ、はい。火竜さんは竜が二匹いたら近づかないだろうと」
「そうだろうな。もう一つの魔女を作り出した敵の方も、突然の竜での移動なら、まず追ってこられないだろう」
そうして団長様が付け加える。
「空間移動をするにも、そう何体も死体を連れ歩くわけにもいかないからな」
団長様はふっと笑うけど、私は「うへぇ」って気分になりました。死体をロープで繋いで歩く姿を想像してしまったから。
「それでも早めに済ませてしまえ」
そう言われて、私はさっそく火竜さんにご飯をあげ始めた。
前回の反省を生かし、ぽちっとボタンを押した後、出てきた五つの火球を火竜さんが食べ終わるまでじっと待つ。
でも人に見られない場所だからと馬ぐらいの大きな姿でお食事してもらったら、だいぶん食事のスピードがアップした。
五つぐらいならすぅっと吸い込める。
それならと、少しリズム良く供給し……100個を吸い込んだところで、火竜さんが「待て」と手を挙げた。
「もうそこまででいい。これ以上一気に食うと、我の腹がはちきれる」
「あ、了解です」
ボタンを押そうとしていた指を止め、火竜さんのお食事は終了。
そして火竜さんは。
「おおおおお!」
取り込んだ魔力でどれくらい大きくなれるかを見ると、第五棟そのものぐらいの大きさに戻っていた。
「我の体が着実に戻っておる!」
「ご満足いただけましたか火竜さん」
「よかろう……少し空を飛ぶ!」
うれしくなったのか、火竜さんはふわっと空に舞い上がった。
そのまま大きく周囲を旋回する……といっても、薄暗くなってきている時間なので、ちょっと見えにくい。
じっと目を凝らしていると、ふいに今まで黙っていた団長様が言った。
「一昨日、国王へ書簡を送った」
「それは……メイア様の」
メイア嬢に魔女の嫌疑があることを報告するもの。そして、彼女に知られないようにアルマディール領の情報を知りたいという手紙を送ると言っていた、あれだ。
「返事は、おそらく一週間ほどで来るだろう。返事が来た頃には、メイア・アルマディールの元に、捕縛のための兵や、精霊協会から司祭達が派遣される」
そこで団長様はため息をついた。
「もし彼女が反発せずにとらえられるのならいいが……。そうではなかった場合、騎士団も出動することになるだろうが、その時はお前を連れて行くしかないだろう」
「……魔女の魔力に、騎士団の方々では対抗できなかった場合、ですね」
「そうだ」
団長様はうなずく。
「人を倒す覚悟をしてもらわなければならないかもしれないが……」
私はその言葉に緊張で胃が縮むような気持ちになる。あの拉致犯達だけでなく、メイア嬢まで殺すようなことになっても、覚悟しろと言っているのだ。
魔力で反抗し、それが騎士団まで出動するような事態になった場合、間違いなくメイア嬢は魔女の力を手に入れているということになるのだから。
でもそこで、団長様は苦く笑う。
「まぁ、お前のことだからまた何かするのかもしれないが」
今までのことが随時そんな状態だったから、団長様も私が普通には解決しないだろうと考えているのだろう。
そして、同情していた相手だからこそ、少しだけ団長様も迷う気持ちがあるのかもしれない。
違うといい。その場合、メイア嬢は無抵抗で兵士を迎えるだろう。
違わなかったとしても、沢山の人を犠牲にした罪の果てのことだ。おとなしく捕まって拉致犯達とともに罪を償うのであれば、団長様も何か手を貸せることもあると思っているのではないだろうか。
なにせ私が魔女だと聞いても、偏見も持たずに接してくれた人だ。精霊協会にも影響力があるのだから、メイア嬢の状況によっては情状酌量を求めようとするかもしれない。
……優しい人だから。
でも団長様は、そうではなかった場合のことも考えている。
その場合は徹底的にやるつもりでいるから、自分だけでは対応しきれないことも考えて、私を連れて行くと言っているのだろう。
私も、何度となく想像した。
メイア嬢が魔女だったとして、私はかなり魔力を奪っているからこちらの方が強い可能性は高い。
だけど禁術を使ったり、火竜さんを呼び寄せたり、あちらは魔女の様々な知識を持っている。力押しと精霊さんに頼るしかない私で、どうにかできるのか怪しい。
何より、ここで魔女との対戦ということになったとして……。本来の魔女との闘いとして認められるのだろうか?
ようはプレイヤー役精霊さんが、出てくれるかどうかがわからない。
いつも側にいてくれたから平気でいられたけれど、いなかったら戦力も減ってしまう。
それで魔女に勝てるのかわからないけれど……。
「何か案がないか、精霊に聞いておきます!」
いつだってそうしてきた。たとえプレイヤー役精霊さんがいても、最後にどうにかするのは、私の場合は紅茶だ。
魔女にも、どうにか紅茶で対処する術がないかをソラに聞くことが、私にできる準備の一つだ。
胸を張って自分で考えました! と言えないけれど。
ただ、どんな形でも団長様やフレイさん達が怪我が少ない状態で、全てを乗り切れるようにできればそれでいい。
そう宣言すると、団長様は笑った。
「期待している」
そう言ってくれて、私はとても光栄だった。
うなずいた団長様は、続けて言った。
「タナストラも、先日の竜騒ぎを見て難癖をつけてきているらしい。そちらに専念するためにも、魔女のことは先に片づけなければな」
「え?」
火竜さんがタナストラに攻撃をしかけていないのに、抗議?




