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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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大量生産に火竜は欠かせません

 オルヴェ先生と一緒に食事をする。

 火竜さんも同席するのだけど、最初のころのオルヴェ先生は、おっかなびっくりだった。


 まぁ、ものすごく油断しているだろう食事時に、人を障害物ぐらいにしか考えてなさそうな竜が側にいたら、ちょっと緊張しますよね……。

 今はそういうことはしないけれど。


 なにせ魔力タンクである私が供給拒否をすると、火竜さんは大きくなれないからだ。

 オルヴェ先生も、そろそろ慣れてきたようだ。


「火竜は本当に火以外食わないんだな」


 と、ろうそくに火をつけて差し出しては、ぱくっと炎を食む火竜さんを見て、楽しそうにしている。

 お食事後、また中庭で火球の魔法をあげることにする。


 朝ごはんは火球五個分まで。

 それ以上やると、私の異常さが目立ってしまうものね。

 一個ずつ時間をかけて出すと、火竜さんも食べやすいようだ。


「そういえば、どうですか? ちょっとは体も大きくなりました?」


「むぅ……少し試してみるか。昨日も一応、そこそこの数は食べたからな」


 結局何個の火球が出たのか数えられなかったけれど(何も考えずにボタンを連打したせいで)、火竜さんも昨日はだいぶんお食事なさることができたらしい。


 朝ごはん分を食べ終わった火竜さんが、ふわっと宙に浮き上がった。

 その体がふっとかすんだように見えたとたん、大きく広がる。

 前回、フレイさんが抱えられる程度の大きさだったのに、あっという間に馬よりも大きくなった。


「おおお、急成長ですね! すごいです火竜さん!」


「あれだけ食えばな……」


 火竜さんが馬の1.5倍くらいの大きさの体で中庭に着地し、ふっと息を吐く。

 ま、まぁ沢山ありましたものね……。


「だがこの分ならば、七日のうちにはその建物ぐらいには戻れるのではないか?」


 そう言って鼻先で示したのは、私も暮らしている第五棟だ。


「昨日みたいに、大量に食べる日があれば、だと思うのですが」


 朝晩、ちみちみ食べているだけでは、やはり速度は落ちると思うのでそう言う。


「なんとかせよ、魔女」


「なんとかはしたいですけれど……」


 問題は、人目につかない場所へ私と火竜さんで出かけていいのかどうか、ということだ。さすがに命を狙われたのだから、団長様なりフレイさんに報告しないわけにはいかない。

 しかし私は、二人と自分から顔を合わせるのは……できれば避けたい。

 と思っていたら、火竜さんがさらっと言った。


「求愛していた人間なら、なんでも云うことを聞くであろう。二人もおるのだから、どちらかに要求してみたらいいではないか、魔女よ」


「きゅっ! ふたりっ!?」


 二人って二人ってまさか!


「昨日出かけた森から、お前を連れ帰った男。あれも求愛者であろう?」


「ちがっ……」


「違うというには、ずいぶんとあの男は頬をすりつけるような真似を……」


「本当に勘弁してください!」


 涙目で火竜さんの口をふさごうとしたけれど、馬よりも大きな火竜さんが、長い首をひょいと上へ向けてしまうともう私では届かない。


「くっ……空を飛ぶ魔法とかがあれば!」


 残念なことに、この世界で空を飛ぶ魔法って、精霊術ぐらいしかない。基本的には、飛びトカゲを入手して空を移動するのが、ゲームでは空を飛ぶ唯一の方法だった。

 あ、でも浮く魔法はある?


 思いついたものの、だめだ。上級魔法を使ったら、中庭にいてこっちに注目している騎士さん達に見られてしまう……。


「成長早すぎないか?」とか、「ちょうどユラなら乗りやすそうな大きさだな」とかほのぼのと話している彼らに、疑惑の目を向けられるのは嫌だ。

 私は最終手段を使うことにした。


「火竜さん、それ以上言うと今日のご飯はもうナシです」


「む……」


 火竜さんが嫌そうにこちらを向き、抗議するように口の端から煙を立ち昇らせる。


「なぜだ。ありのままを教えてやっただけだというのに」


「ダメなんです! 超個人的なことなので、あとでじっくり考えるべきことで……その……」


 でも考えてこれ、どうにかなるものだろうか。

 とにかく昨日のことを思い出すだけで、落ち着けなくなる。


「あ」


 こういう時にはお茶だ。お茶を飲もう。

 お店も開けたいし。少し思いついたこともあるし。


「とにかく小さく戻ってください、火竜さん。これからやることを手伝ってくださったら、普通に晩御飯もお出ししますので」


 にっこり笑って言えば、火竜さんも小さな姿に戻ってくれた。大きくなりたい火竜さんは、この提案には逆らえないようだ。

 そうして私は、第一棟の喫茶店へ火竜さんと一緒に向かった。


 昨日は午前中どころか、そのままお店を締めてしまったなと思いつつ、一昨日焼いて冷蔵庫にしまったままだったクッキーを確認し、お湯の用意なんかを始める。

 まだ八時頃だ。開店までに時間があるので、一度火竜さんにアレを試してもらおう。


 私は魔力を込めて沸かしたお湯が入った鍋に、ヘデルの葉を大量投入。

 ふわっと湯気からゴブリン精霊が現れ、鍋の上のくるくると回る。

 精霊と一緒に舞い上がった湯気と葉が、一瞬後にはぱさりと落ち、変色して茶色に変わる。

 これで紅茶作成完了。


 鍋にはもうお水は残っていないので、鍋ごと乾かせば……紅茶が完成する。


「火竜さん、さっきの頼みなのですが、この鍋の中の葉っぱを巻き散らかさないようにですね、こう布で覆いながら……。昨日私にしてくれた、温風のブレスで乾かしてほしいんですよ」


 私に頼まれた火竜さんは、一瞬ぽかーんとした顔をした。

 それから鍋と私の顔を交互に見て、がっくりとうなだれる。


「我に……この珍妙な飲み物の作成を手伝えと?」


「紅茶ですよ。とっても大事なんです。私の収入源なのでお願いします」


 火竜さん式乾燥で素早く紅茶を作れるようになれば、ヨルンさん達から依頼された量はすぐに出来上がる。

 予備も喫茶店経営の合間に作っておけば、次に依頼があった時には、すぐ渡して紅茶をさらに広めてもらえるだろう。


 ……紅茶を広めてどうするのか、ソラの考えは今いちわからないけれど。この素晴らしい味を知ってもらえるのはうれしい。


 火竜さんは微妙な顔をして鍋を見ていたが、やがて鍋を掴みやすいようにちょっと大きくなった。

 鍋をかかえ、火竜さんは作業台の上でお願いした通り、温風のブレスを使ってくれる。

 ふおおおおお、と風を火竜さんが吹き込んでいる間に、私は足りなくなった時のために、クッキーを用意していたのだけど。

 わりとすぐに火竜さんに声をかけられた。


「おい魔女。これでいいのか?」


 見てみると、鍋の中のお茶の葉は綺麗に乾燥していた。くるっと巻いてからからと音がする。


「完璧です火竜さん! さすがですよ!」


 うれしくて大げさにほめると、


「……まぁ、我にかかればこんなものであろう」


 火竜さんも、まんざらではない反応をしたのだった。

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