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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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火竜さん、それ以上言っちゃだめです!

「び…………っくりした」


 あの後、一睡もできないかと思ったけれど、体調が悪かったこともあって、いつの間にか眠ってはいたようだ。

 けれど、眠った気がしない。

 気絶して、意識を取り戻したら朝になってた。ぐらいの感じで疲れがまだ体に残っている。


「やばい、あれはまずい」


 ぶつぶつとつぶやいてしまう。

 仕方ないと思う。だって額に口づけだけでも驚くし、なんだか胸がきゅっとして眠れなくなりそうなのに。


「なんで押し倒すような体勢……」


 一瞬、あらぬことを想像しかけてしまった。それを思い出すだけで、寝台の上を転がりたくなる。

 でもそれをやると、寝台の枕元に落ち着いてしまっているらしい火竜さんにぶつかるので、私は違う方法で発散する。

 うつぶせになって、枕に顔をうずめて叫ぶのだ。


「団長様のばかあああああああ!」


 とんでもないことを想像してしまった自分が恥ずかしくて、つい団長様に八つ当たりをする。

 いや、これは団長様に抗議していいはずだ。だって団長様のせいで……。

 私はくるっとあお向けになって、息をつく。


「でも抗議した後が怖い。だってだって、ちょっと前までありえないって思おうとしてたのに……」


 団長様が私のこと、女性として見ていたということを。

 ないないって、思おうとしてた。

 なにせ団長様は神様みたいに綺麗な人で、身分も高くて優しい。そのうち女神様みたいな人を選ぶんだろうと想像してて。一生、私はそういう意味で関係することはないって考えていた。


 その後、親しくしてくれたり、紅茶を飲んで二人で失敗したりと色々あった後は、友情を感じてくれているんだと理解していた。

 友達なら、危機に陥ったら心配して抱きしめるぐらいのことはするよねって思ったし。

 私だって友達や……団長様達が相手なら、やりかねない。飛び降りて無事だった現場にいたら、絶対にしがみつく。

 なにせこの世界、日本よりもずっとハグとかよくする文化だし。


 主従契約の後は、ペット扱いをしているから距離感がおかしいのだと……思おうとしていた。

 時々、女性らしく扱われることに戸惑ったり、どう考えてもアプローチとしか思えないようなことをされても、犬猫相手だったら、ありかなとか。

 離れて行くなと言われることも、そういう意味で理解しようとしてた。


 でも。

 自分を誤魔化しているんだっていうのも、わかっていた。

 ペット扱いだとでも思っていなかったら、私、ころっといってしまう。

 それに恋だなんてしてしまったら、気持ちがふわふわして、とても魔女のこととか、アーレンダール王国の危機だなんてことまでちゃんと考えられるか……自信がなくて。


「でも誤魔化されてやるって、誤魔化されてやるって……!」


 私はうつぶせになったまま、頭を枕にがしがしぶつける。

 冷静になれ私!

 冷静に、判断を……と思うと、枕元からあきれたような声がかけられた。


「騒がしいぞ魔女。人間は妙なことばかりするものだが、お前は朝からせわしない。頭をぶつけては、さらにその頭がアホウになるのではないか?」


 はっと振り向けば、そこには寝台の隅っこで丸くなっていた火竜さんがいた。

 ちょっとした置物みたいな大きさで、おとなしくしていると実に可愛い。和みそうになったところで、私は血の気が引いた。


 そうだ、昨日の……思い切り火竜さんに、見られ……。

 もう一度枕に突っ伏した上で、私は火竜さんに頼んだ。


「き、昨日のことは忘れてください火竜さん!」


「昨日? なんのことだ」


 それ言わなくちゃだめ? 自分の口から言うのってハードル高い!


「あの、昨日私に、団長様がしたこと……なんですが」


 額にキスとか言えない。押し倒したとか言えないので、なんとかやんわりとぼかしてみたが。


「ああ、昨日の精霊王の剣の持ち主が、お前に求愛行動をしていたアレか」


「きゅううううううう!?」


 火竜さんが直接的すぎ!

 ぼうぜんとする私に、火竜さんはふんと鼻息を吹く。


「性別がオスメスに分かれている生き物でならよくあることであろう。あのような行動ごときで何をうろたえておるのか……理解できん。さっさと相性がいいのかどうか判断すればいいものを。人間は妙にまだるっこしいのだな」


 淡々と言われて、私の頭はもうヒートアップしそうだった。

 確かに動物とかなら、そりゃそうかもしれませんか。でも人間は、そういうわけにはいきませんで。


「あの、でも、だって立場とかそういうのが人間にあって……」


「立場? よくわからんが、城のごとき堅牢な家に住めるかどうかということか?」


 まさかそれ、王様とか貴族のお城のこと言ってます?

 竜的には、巣の大きさとか頑丈さの違い程度の扱い?


「必要なのはよりよい子孫を……」


「うわああああ、それ以上言っちゃだめです!」


 思わず火竜さんの口を掴んでふさいだ。ワニに似た口の端から、不服だったのかふしゅううと煙がうっすら上がる。


「あちちっ」


 すぐ手を離したけれど、でもそれ以上のセリフは危険すぎるんですよ!


「まったくなぜそんなに大騒ぎをするのだ魔女。それにお前も悪い相手ではないと思っているのだろう」


「す……するどい」


 火竜さん、人間の恋愛システムを完全に昆虫とか鳥とかと同じように考えているらしいのに、気持ちを察する能力は高いですよね。


「当たり前だろう。押さえ込まれて抵抗の気配がないとなれば、相性が悪いとは思っていないのであろう。なら、さっさと魔力の交換をしてそちらの相性も確認して決めてしまえ」


 火竜さんの言葉に、私は首をかしげる。


「魔力の交換?」


「人間はせんのか? 魔力のない者ならしないかもしれんが……、普通竜は、口と口で魔力の受け渡しを……」


「うわああああ、もっとダメだった!」


 思わず耳をふさいでしまう。

 火竜さん過激すぎ! 早くキスしろとか言われると思わなかった!

 もう火竜さんにそのことについては聞くまい……。なんか、もっと恐ろしい単語が出てきそうな気がする。


「それより早く、我に食事を与えよ魔女」


 話題を変えてくれたので、それに乗ることにしたのだけど、まずは私のお食事である。

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