ひと騒動の後に 1
※ちょっと微調整入れております
話はそこで終わり、私は自室に引っ込んで一度休んだ。
でも夕食後に改めて考える。
……実は、問題はそこではないんですフレイさん。
ワタシたぶん、メイア嬢が魔女だったとして……魔力をだいぶん奪っているし、たぶん超えてる……。
「だって、ゴブリンの森のやつでしょ?」
あれで十万MPぶち越えてしまった。
「ダンジョンのやつでしょ?」
レベル上がったりしたんだから、やっぱり魔力はもらっちゃったんだと思う。
「クー・シーの時はほとんどが先方に行ったんだろうけれど、多少は削ったよね? 火竜さんのは半分はキープできたわけで」
それで私が今15万MP。
確実に先方の魔女は、半分も魔力を受け取っていないだろうと思う。それでも火竜さんと契約したりできるんだから……、魔法のことがよくわかっているんだろうな……。
その話を、寝台の上で丸まって聞いていた火竜さんが言う。
「人は面倒なものだな。敵がわかっていれば、速攻で消し炭にしたらいいだろうに」
「火竜さん、人間社会でそれやったらアウトですよ」
さすが人とは感覚が違う火竜さん。問題解決の発想も過激すぎですよ。
「弱肉強食といってもですね、一応同族同士で殺しあっては種が滅びますから、その解決法は最後の最後でもう何もないって状態になってからです」
「まぁ、竜同士で殺しあいなどせんがな……。食事の取り合いということもなし」
そうですよね。お食事足りなかったら、二匹でそのへんの森を一緒に焼くんだろうなぁ。これなら喧嘩にはなるまい。
「裏切るようなことをしたら、容赦はしないが」
「…………」
やっぱり竜社会、殺伐としてる気がする。
次に思い出すのは、やっぱりメイア嬢のことだった。
いつも冷静そうだった。
でもたおやかな感じの人で、とても魔女になろうと自分から進んで行動するようには見えなくて。
本当に彼女なのだろうか。
そうではないといいと思う。言葉を交わして穏やかな時間を過ごした相手が、よもや私を殺そうとした人た達の仲間だなんて、辛すぎる。
……私は考えるのをやめることにした。
そうして、うつうつとした気分を変えるためにも、お茶を飲むために一階の台所へ移動したんだけど。
「あれ、団長様……」
夜の台所のテーブルの前で、団長様が座っていた。
しかもテーブルの上には、お茶の器なんかがおいてあって、赤褐色のお茶の色が見える。
そしてこの香り、紅茶を自分で淹れて飲んでいたんですか?
「やはり来たか。この時間に、ここにいるのが習慣になっていただろうお前。だからもし来たら、話をしようと思って待っていた」
「なんか、お待たせしてしまいまして……」
団長様の紅茶からは、湯気が消えている。
たぶん、そこそこの時間を自分でお湯を沸かしたりして、一人きりで過ごしていたはず。申し訳ない、さっさと来ておけばよかった。
「気にするな。来なければ体調が悪いのだと判断して、話は明日にしただけだ。それより茶を飲むのだろう?」
団長様が立ち上がって、かまどのやかんに手を伸ばそうとする。
「団長様に淹れてもらうわけにはいきません、自分でします!」
待たせたあげくに、お茶まで淹れてもらったら本当に面目ないです。
「今日は体調不良だろう。おとなしくしておけ。それに一度淹れてみせただろう。私だってできるし、淹れるだけなら、誰がやっても効果は変わらないはずだしな」
団長様がむきになって主張する。
なんだかそれがおかしくて、思わず吹き出してしまった。
「なんで笑う?」
「いいえ、団長様も意地になることがあるんだなと思いまして……」
可愛いと思ってしまったのは内緒だ。男性にそんなことを言うと、拗ねられてしまうと聞いたことがある。ああ、この記憶はどっちのものかな。前世だったかな……。
「私だって、一応人間だからな?」
言いながら団長様が、お湯を入れたポットを見つめて言う。
「私だって多少の嫉妬もするし、意地にもなる」
溜息をついて、続けた。
「身分と特殊な剣を所有しているせいで、何でも持っていると思われがちなのは承知している。そんなもの、いつ取り上げられてしまうかわからない。しかもこの剣は、それほど良いものでもない。下手をすると己の首を絞める。だから、何もなくても生き残れるように努力して、必要な能力をつけた。だがこんなこと、意地がなければしなかっただろう」
確かにそうだ。
今の団長様だけを見たら、身分も外見も、その能力をも含めて、恵まれ続けている人のようにしか見えないだろう。
でもこの人は、それまでの間に沢山のものを取り上げられ、失った。その後戻されても、心の傷がすぐに癒えるようなものではない。
人はマイナスなことが起こると、二度とそんな危機に陥らないように、強く記憶してしまう生き物だから。
ポットで三分間蒸らす間に、団長様は珍しくぽつぽつと語る。
「身分はなくても死にはしない。それよりも恐ろしいのは、人の風聞と、信じていたものに裏切られることだ」
そうして団長様が、私に視線を向ける。
「お前は、フレイが信じられると判断して、魔女だと話したのか? その判断の根拠が聞きたい」
お昼にはフレイさんにも私を任せるようなことを言ったけれど、団長様はそこを心配しているのだろう。
私がある程度のことを話したのだから、その判断を信じてうなずいたけれど、それが間違いではなかったのかどうか、心配してくれたのだと思う。
「…………」
どこまで言おうか。フレイさんが隠したかったのだから、王族ということは言わない方がいいと思う。それに、フレイさんの話を聞いただけだから、あのことにも何の確証もない。
私はただ、フレイさんだからあの話を信じただけなのだ。
もしあまり親しくない騎士の誰かがあんなことを言っても、半信半疑だろう。
私は悩んで、判断理由を口にした。




