疑惑に対する推測とか
「え……」
私は思わず声を出してしまう。
メイア嬢が、魔女になっている?
信じられなかった。だって、メイア嬢は特に魔法を使えるそぶりもなかったし……。
そこでふと気づく。
危険な目に逢わないように保護されている貴族令嬢なら、魔法を使う機会は一切ない。私にさえ、ある程度隠せたのだもの、魔法を使わなければずっと知られずにいられるはず。
そしてフレイさんは驚くことを口にする。
「そもそもイドリシアの王族ともなれば、多少なりと精霊術が使えるはず。メイア・アルマディール嬢も使えないわけがないのです」
「イドリシアの精霊術については、聞いたころがあるが……」
つぶやいた団長様は、そこで嘆息する。
「そもそも彼女とは数えるほどしか会っていない上に、長時間話したことはなかったな」
それではわかるはずもない。納得してしまった私の前で、フレイさんは思わず吹き出してしまう。
「団長……本当に避けてたんですね」
「仕方ないだろう。そもそも結婚する気がなかった相手だ。変に気を持たせてどうする」
「徹底しすぎですよ」
フレイさんは苦笑いして続けた。
「なんにせよ、精霊融合の禁術に対して、精霊の血を引くといわれているイドリシアの王族は、高い適性があるはずです。そして拉致されても無事だったこと」
フレイさんが理由を指折り数える。
「あとは彼女が、イドリシアの民と一緒に北の辺境地で過ごしていたのは間違いないのです。なのに、何も知らされずに拉致されたのなら、手ひどい裏切りに遭ったことになりますが……そんな様子もなかったでしょう?」
「うなずける話だな。記憶がないと言うから、冷静そうでもそんなものかと思ったが……」
「後から、少し思い出したと言っていました。それで、私を拉致先で見かけたと……」
私は思い出してそう言う。
二度ほど尋ねられて、どうして私のことにそんなにこだわるのだろう。同じ被害を受けた人と一緒に、話をしてつらい気持ちを吐き出したかったのかなと思っていたのだけど。
もし本当にメイア嬢が魔女になっていたのなら。私が仲間になっているのを、確認したかったのかな?
でも私はあることを想像して、身震いした。
もしかして……。あの時に私が完全に魔女になっているとわかっていたら、メイア嬢はどうしたんだろう。
私を遠ざけるだけで済んだ?
でもメイア嬢が魔女だったとして考えて、ついさっきその仲間である拉致犯達は私を殺そうとしたんだ。そもそも自分たちが逃げるために、私を死体にしようとしたのが拉致犯だ。
メイア嬢がそのつもりはなくたって……、魔女だと教えたら早々に襲撃されていたかもしれない。
団長様がフレイさんに言う。
「なんにせよ、ユラについては私だけでは目が届かないこともある。こうして知った以上はフレイ、お前を頼りにしたいが……。お前は、同じ故郷の者に同調したいとは思わないのか?」
そうだ。フレイさんは故郷の人を切り捨てたんだ。文字通りの意味でも……。
フレイさんはいずれそちらのほうが、故郷の人たちのためになると言っていたけれど、大丈夫なのかな。
故郷の人全てに恨まれたら……。
心配にはなるけれど、今ここでは言えない。
フレイさんは自分のことに関しては、団長様にごまかして伝えていた。たぶん、イドリシアの王族だということは知られたくないんだと思う。それでも必要なことは話してくれたのだし、私も個人の素性まで全部話さなくてもいいのではと思うので、黙っておく。
私にも、団長様にもフレイさんに言っていない秘密があるのに、片方だけにそれを求めるのは……と思うし。
団長様の質問を受けて、フレイさんはきっぱりと言った。
「魔女を作り出そうとする理由はいくつか考えられますが、正直、その方法がいいとは思っていないんですよ」
「理由に心当たりがあるのか?」
「おそらくは、タナストラの侵攻にかかわっているでしょう。魔女を持ち出して対抗をするようなことといえば、タナストラがイドリシアの精霊達を殺しつくそうとしたり、神を降ろそうとすることかと……」
「神を降ろす?」
「それができる場所があるんです」
私はゲームの設定を思い出す。
魔女の話に、そもそもイドリシアは関係がなかった。タナストラが兵器として作り上げたものこそ、魔女だ。
フレイさんの説明だと、少し、私が思っていたものと違う。
タナストラの兵器は別にあって、それを壊すために魔女を作ったの?
またしてもゲームでの説明は、プレイヤー達が見ていた表面的なものだというパターンかな。
ハーラル副団長さんのクエストが、本当は混乱の精霊の仕業で……、元々は魔女を作ろうとした人たちのせいだった時みたいに。
「本来は魔力を集め、精霊王を召喚して神呼びを行うのですが……。無理に強行する方法もあるので。代わりに、おびただしい数の精霊達を、何体もいけにえに捧げることで」
「いけにえ」
私はそこで、ソラが以前に言っていたことを思い出した。
助けてほしいって、これのことなんだろうかと。精霊が殺しつくされてしまうかもしれないからだろうか。
もしメイア嬢がゲーム通りの魔女だったとして、彼女はそれを止めなかった?
「魔女は基本的に破壊するもの、とイドリシアには伝わっています。おそらくタナストラを破壊することで止めるつもりでしょうが……大きすぎる魔力が、人に扱えるかどうか」
フレイさんが表情をくもらせる。成功しないか、もしくはタナストラ以外も破壊しつくすと思っているのかもしれない。
私は、どうなるんだろう。
今のところ何もない。精霊さん達も助けてくれているけれど。
そんな不安を感じたのか、フレイさんがこちらを見て微笑む。
「大丈夫だユラさん。あちらは魔力を奪ったからと、ユラさんを標的にしたんだと思う。俺も守るから」
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