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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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その記憶だけは消せなくて

 とはいえ、ぎりぎりまでフレイさんに魔女だという確信を与えたくない。

 だから私は、盾の魔法レベル1を使う。

 ただし、ぽちっとボタンを押して。


 ちょうど、拉致犯Aに斬りかかったフレイさんに魔法がかかった。

 フレイさんは金の光をまとう剣を振り被り、雷の音とともに薙ぐ。精霊を集めようとしていた拉致犯Aが、雷を避けて飛びのいた。


 けれどもう一人も精霊を集めて、何かをしていたようだ。

 闇色の盾のようなものが広がって、フレイさんの剣技で放たれた雷を吸い込む。


「思い直していただくためにも、騎士団を離れてもらいましょう」


 そう言った拉致犯Bは、その闇の盾を広げてフレイさんを捕えようとする。

 もちろんフレイさんは、すぐ捕まるようなことはない。飛びのいて避け、その闇を斬り裂く。

 が、そこへ拉致犯Aの精霊術が発動する。水がフレイさんの頭上から襲いかかった。

 針のように。


 あれじゃ捕まえるというより、半殺しにして動けないところを攫うつもりじゃ!?

 盾の魔法がある程度弾いてくれたけど、さすがに初級の魔法。魔力の加減を一切していない状態なのに、ある程度防いだところで効力が尽きてしまう。

 もしかすると相手の魔法が、強すぎるのかもしれない。


 フレイさんの肩に、足に水の針が突き刺さって、私は悲鳴を上げそうになる。

 血の色に私は焦りつつも、回復魔法と盾の魔法を飛ばす。

 呪文がいらないのですぐに発動した。

 すぐに起き上ったフレイさんは、機敏に動いて続く攻撃を避ける。

 そして攻撃目標を変え、ふいを突かれた拉致犯Bの足を、周囲の水を操って貫く。


 ん? 水を操って?

 なんか変なのが見えた気がするけれど、今はそれどころじゃない。


「精霊さん達は、おやつの時間です!」


 私は盾の魔法を使ってすぐ、ポケットに入れていたクッキーを使って、拉致犯Aの周囲にまた集まってきていた精霊を呼びつける。

 トビウオ姿の精霊が、ぴょーいと拉致犯Aの側から離れて飛んでくる。

 三枚のクッキーで五体も集まった。


 魚みたいにつついてクッキーを食べる精霊を見ながら、これで少しは減らせたと私は喜んだ。たぶん精霊の数が少なければ、大きな技なんて使えないはず。

 役に立ったかと思ったけれど、拉致犯Aは手元の精霊に命じてまたフレイさんを攻撃させた。

 足と肩を負傷した拉致犯Bも攻撃し、フレイさんが一度態勢を立て直すために離れる。

 その隙に、私に精霊を奪われた拉致犯Aがこちらを見た。


「いちいち邪魔しおって……!」


 拉致犯Aが私を指さした瞬間、クッキーを食べていた精霊の体からふわっと黒い炎が立ち上がった。


「ユラさ……!」


 振り返ったフレイさんが声を上げ、私も目を丸くしたけれど。

 パチン、とシャボン玉が割れるような音と一緒に、一瞬で黒い炎は消えた。

 水の精霊達は変わらずクッキーをついばんで食べつくし、


「ぷっぷくぷー」


 と言いながら、私の周囲をトビウオのような羽を広げてふよふよと飛ぶ。

 いつも通りの精霊の姿だ。

 はて、さっきのは何だったんだろう思い、拉致犯Aに目を向けて首をかしげた。


 拉致犯Aはぽかーんと口を開けていた。私を指さした姿勢のまま。

 フレイさんも一瞬、目を丸くして私を見ていたけれど、すぐにぼうぜんとしている拉致犯Aに斬り込む。


 拉致犯Aは辛うじて精霊の盾を発動して堪えたけれど、フレイさんとにらみ合いになった。

 フレイさんも、精霊の盾を突破できるダメージを与えるには、そこそこの技を繰り出す必要があるのだろう。

 半円を描くように剣を振り、上段に構える。


「くっ……このままでは!」


 血を流して倒れていた拉致犯Bが、そのまま自分の懐を探る。

 何かアイテムを出すのかもしれない。

 そう思った私は、ポケットに手を突っ込んで、クッキーを出そうとした。周囲の精霊さんに、フレイさんを守ってくれるようにお願いをしようと思って。


 ……でも必要はなかった。

 拉致犯Bは、ナイフを取り出し――それを自分の胸に突き立てたのだ。


 赤い血が飛び散った。

 その光景に、私は自分が思う以上に衝撃を受けて立ち尽くす。

 胸につき刺した刃に、いつか見た、自分が剣で突き刺される光景を思い出して……。

 拉致犯Bはその行動で、何かの魔法を発動させたのかもしれない。彼ともう一人の拉致犯を再び白い炎が覆い、その場から二人の姿が消えうせる。


「あ……」


 危機は去った。それでも私は、なぜか上手く息が吸えなくて、苦しさに喉を押さえる。

 いや、空気を吸い込んでるはずなのに、足りていない気がして、何度も吸い込む。

 だけど息苦しくてたまらない。

 あの拉致犯の姿が、私の記憶にあるものと重なって、目を閉じても開けても脳裏にありありと思い出してしまう。

 精霊と融合させるために、剣で心臓を突き刺されたあの時のことを。


 痛みは記憶にない。

 なのに恐怖だけはぬぐえなくて、側にいるゴブリン姿の精霊がなだめようとしてくれても、今度ばかりは効力が無かった。


「ユラ、いたくないいたくない」

「大丈夫いきてる」


 腕にしがみついている精霊の声が、心に響かない。

 私自身の記憶にこびりついてしまったから? それとも恐怖は完全に忘れさせることはできないからなのか。


 怖いという気持ちが波打って、自分の気持ちも押し流していきそうだ。

 そうして息ができなくなって窒息しそうで……。

 なんでずっと空気を吸い込んでいるのに、こんなに苦しいの?


「ユラさん……ユラさん、大丈夫ですか!?」


 フレイさんが側にいるみたいだけど、苦しさでその場に座り込んでうずくまった私は、それどころではない。


「おい魔女、なぜ死にかけておる!?」


 わけがわからなかったのだろう、火竜さんが困惑した声を出していた。


「息を一度止めて、落ち着いてユラさん」


 フレイさんにそう言われても、息を止めたら死んでしまいそうでできない。首を横になんとか振る私を、フレイさんが抱える様に抱きしめてくれる。

 でもフレイさんは、息ができないようにぎゅっと私の顔を肩に押し付けてしまう。

 苦しさでフレイさんから逃れようとした。胸に手をついて突き飛ばそうとしたけど、でも力が入らない。


「…………っ」


 このまま死ぬのかな。

 ああ、考えてみれば精霊融合の禁術を使われた時、私って一度死んでいるのかもしれないし、今さらなのかも……。

 そんなことを考えながら、気が遠くなりかけたその時。

 フレイさんが私を上向かせて、顔を近づけた。

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