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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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再びの大量生産のためです

 イーヴァルさんの野望はさておき、私がするべきは大量生産だ。

 前回から、イーヴァルさん経由でちまちまとヘデルの納入があり、それを紅茶にしていたので、既に一樽分は保管分がある。

 これだけあれば、次にヨルンさんが来た時にすぐ渡せるだろうと思ってたんだよね。


 けれどこれでは足りない。

 全部で五樽必要なのだから、あと四樽生産するべきだろう。

 そこでイーヴァルさんは騎士達に通告した。


「巡回中のヘデル狩りを強化します。二籠持って来た者には、1.3倍の報酬を支払います」


 騎士達は歓喜した。いわば、会社公認で職務中にちょっと内職してもいい、しかも会社がいつもより高値で買い取ると言ったようなものだ。

 そりゃやるでしょ。

 それでどれだけ集まるのかわからなかったので、私も今日は採取へ行くことにした。


「午前中休業っと」


 扉の「閉店中」の札に「午前中だけ?」と書いた紙を貼り、近くの森へ出かける服装をして出発する。

 向かうは町近くの森だ。

 魔法の効果を始めて確認したり、火竜さんと初遭遇戦をしたりと、もはや思い出深くなりつつあるあの森である。


「あの頃は、火竜さんを籠に入れて背負うことになるだなんて、全く思わなかったものなぁ」


「我とて、籠に入れられるとは思わなかったに決まっておろう……」


 背負った籠から、恨み節が聞こえてくる。

 でもそんな火竜さんを連れているおかげで、身を守るのは問題ないだろうと、行き合う騎士さん達は判断してくれる。


「火竜がいれば十分だろうなぁ」


「チビちゃんユラをよろしくな!」


「誰がチビじゃあああ」


 チビちゃんと言われた火竜さんは、うぼぁぁぁっと口から煙を吐き出す。

 やめてくださいな火竜さん。なんか、籠の中身が燃えてるっぽくて、周りの人から大注目ですよ。

 火は上がってないけど、カチカチ山の狸さんテイストは嫌なのですが。


「火竜さん連れていきませんよ?」


 籠に向かって言えば、ぷすぷすとくすぶるような煙に変わった。

 なにせ火竜さんが大人しくついてくるのは、朝ご飯として魔力を得るためなので。


 人目がなければ、大きな火球を発生させて火竜さんが食べたら、あっという間に大きくなれるだけの魔力が供給されるだろう。しかし置いて行かれると、それは叶わない。

 ちまちました火球を食べ続けるしかない火竜さんは、ちまちまとしか大きくなれないのだ。


「火竜といっても、この小ささでは単独で動くには不安がある」


 そう語ったのは火竜さんだ。


「他の飛行型の魔物に襲われることもあるからな。だからこそ、周辺を飛ぶだけのためにも、ある程度の大きさは必要なのだ」


 ということらしい。

 なので自由にお散歩がしたい火竜さんは、早く大きく変化できるようになりたいらしい。私としても、火竜さんが他の魔物に食べられたり、怪我をしてくるのは忍びないので、このヘデル狩りに乗じて行うことにしたのだ。


 なにせ騎士の皆さんは、近くの森なんかのヘデルを根こそぎにしないように、けっこう分散して遠くのヘデルを刈っているようだ。

 なので、この近辺ですぐ遭遇することはない。


 私は慣れ始めた森への道をほけほけと歩き、森の、火竜さんが黒焦げにしたあたりまでたどり着いた。

 当然まだ黒焦げのままだ。

 ちょっと痛々しい景観だけれど、火竜さんに魔法をぶつけるのにはちょうどいい。

 籠から出て来た火竜さんは、少し離れた場所に待機。


「いきますよー」


 私も今回は楽だ。人前と違って加減するために呪文を唱える必要もないので、ボタンを押していけばいい。そう思っていた。

 ぽちぽちぽちぽち。

 調子に乗って連打すると、一度に三個火球が出て来て火竜さんに飛んで行く。


 けれどこの機械的な連打に、火竜さんがついていけなかった。


 火球レベル1が発動。

 三つの火球が火竜さんに飛んで行き、火竜さんが自分の体ほどの大きさの火球を飲み込む。

 煙を吸い込んでいるような感じだけど、三つを一気に飲み込むのは大変だったようだ。

 そうこうしているうちに、連打した次の分が火竜さんに届けられてしまう。


「ひぃっ」


 慌てて受け止める火竜さん。燃えもしないし熱くはないらしいけど、吸い込んで処理するのにとても大変そうだ。


「ちょっ、まっ……」


 火球レベル1発動。火竜さんに飛んで行き、火竜さんが慌てて受け止めて必死に炎を飲み込む。


「おい!」


 と言う間にもまた火球レベル1発動。火竜さんに飛んで行った。


「すみません、先に何回か連打しちゃった後でして! 止められるのかなこれ?」


 と言っても、取消しボタンなんて見当たらない。

 そのうち火球の塊に囲まれた火竜さんの姿が見えなくなる。


「どうしよう、大丈夫!?」


「……ごふっ」


 火竜さんは火球を飲み込み続けているみたいだけど、苦しそうだ。


「氷の槍を飛ばしちゃだめだし、水、水……」


 考えた末に、私はすぐ側にあった池まで走った。

 ちょうど池には、トビウオみたいな水の精霊と一緒に、ゴブリン精霊も一緒にいたので、彼らにクッキーを使う。


「お願いなーに?」


 三体のゴブリン精霊に尋ねられ、私はもうこれしかないという頼みごとをした。


「あの火を消火してほしいの!」


「オッケー!」


 ゴブリン精霊三体は、一斉にグッジョブポーズを決め、くるくると水面の上で回り出す。


「え?」


 と言っている間に、池の水が噴水のように吹きあがった。


「ええええええ!?」


 水は火竜さんのところまで一気に吹きあがって、火球を取り込むようにかかり、周辺もろとも水浸しにした。

 すぐに水が吹きあがるのは終わったけれど。


「…………」


 側にいた私もげしょ濡れ。

 火竜さんは火の圧力と水圧のダブルパンチだったせいか、地面にへたっていた。


「か、火竜さん大丈夫ですか!?」


 慌てて拾い上げるも、泥だらけの火竜さんは恨めしそうに私を見る。


「おのれ魔女め……」


「大変ご迷惑をおかけいたしました」


 私としては、そう謝罪する以外にない。

 とにかく泥だらけの火竜さんを、綺麗にすることにした。水は今さらもう少しかかってもかまわないというので、池の側まで連れて行き、水で泥を流して拭く。

 問題は私だ。


「あー……」


 マントは重し、他の服もスカートも歩く間には乾いてくれないだろう。端から水が滴ってる。


「へくしっ」


 くしゃみも出て来た。これは急いで帰らなければと思ったところで、声をかけられた。


「ユラさん?」


「はい?」


 返事をして振り返ると、そこにいたのはフレイさんだった。

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