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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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火竜さんのお食事3

 心臓が跳ねあがって息が止まりそうになる。

 今どうして、手首を掴む必要が……?


「本当は、私が側にいられればいいんだが」


「あの、いえ、お忙しいでしょうから……」


「他の人間に任せれば、そちらに懐いてしまうだろう、お前」


「なつ……」


 ええと、この表現だとやっぱりこう、ペット扱いをされているとして話すべきなんですね? そうですね?


「でも私を飼ってるのは、団長様ですから。他の人ではありませんし……。その、こうして掴まなくても、逃げませんよ?」


 そう言いながら、そっと手を引こうとするけれど、団長様は一向に離してくれる気配がない。


「ここ最近は、もっと懐かせておかなければならないなと思っている」


「な、なつかせる、ですか?」


 それでこの行動? おかしくないですか団長様!


「懐くと言うなら、もう十分懐いてますよね? だって契約だってしていますから……」


「いずれ」


 団長様が私の発言を遮り、顔を近づける。


「お前の力が増していけば、私の契約を破ることも可能になるだろう。火竜と他の魔女との契約に逆らってみせたお前だ。その可能性を考えた」


「…………」


 否定できない。

 団長様に迷惑をかけないために離れるには、無理にでも団長様との契約を破棄しなくてはならないだろう。でも魔女として力が強くなれば、それは可能だと考えていたから。


「それ以外に、お前が離れがたくなる方法を探している。どうしたらいいと思う?」


「え、あの……」


 離れがたくなる方法って、まさか、先日からの口づけたりするのも、そういう理由からですか?


「このやり方を団長様がするとたぶん、女性を落とす方法で、離れがたくするというのとはなんかこう、微妙に方向性が違うというか……っ」


 私を誘惑してどうするんですか。そうちょっとだけ遠回しに言ってみたら、団長様が嬉しそうに微笑んだ。


「嫌か?」


「いっ……!?」


 どうしてそれを私にお聞きになるのです! え、なんて答えてほしいんですか。それともからかっているだけですか!?

 混乱しながらも、私は自分の顔が赤くなっていっているだろうことだけはわかった。かっと火が付いたように熱くなるから。

 とっても恥ずかしい。だって真っ赤な顔をするなんて、嫌じゃないって言っているようなものじゃない。


 もしそれで、団長様がからかっているだけだったとしたら?

 団長様に本気だと思われて、嫌がられたりしない? だって団長様は、結婚したくないタイプの人で……。もしかしたら軽い付き合いはしても、本気になられるのは困るのでは?

 主従契約した状態で微妙に避けられるとか、どんな針の筵……。


「そ、そんなことよりですね! 火竜さんに魔力を戻すのはやぶさかではないのですが、暴れたり、お城を壊したり、すぐさまタナストラに飛んで住処を取り返してやるとか言っていて危険なので、団長様に火竜さんと契約を結んで頂きたいんですが!」


 私は答えを避けて、強引に話題を変更させた。

 団長様は私がそうすると思っていたのかもしれない、気を悪くすることなく、応じてくれた。


「そこは私も懸念していたところだ。だが交渉はできるのか? 強制的にやってもいいが、そうすると行動できる範囲内でおおいに暴れると思うぞ」


「がんばります」


 話が変わると、団長様も私の手を離してくれた。ほっとする。

 胸を撫で下ろしながら、私は隅っこに行った火竜さんに近づいた。


「あの火竜さん、魔力を戻すにあたって条件があるのですが……」


「貴様、この可哀想な我にまた要求をする気か!?」


 火竜さん、まだご立腹中でした。でもこちらとしても譲れないのです。


「条件を飲まない限りは、魔力を戻しませんがどうされますか?」


 ストレートに脅してみた。


「ひどい人間だ……我はなぜひどい人間にばかり関わるのか……」


「そうおっしゃる気持ちはわかりますよ? お家に帰る方法を教えてくれる代わりに、命を盗られる契約を結んだりしたばっかりですしね? でも私の方の契約は安心安全です。暴れたりものを壊さずにいていただければ、私が引き受けた分の魔力をお戻しします。私では不可能なようでしたら、契約主である団長様の秘策を使ってでも、魔力は戻しますので」


 もし魔法による火でも魔力を戻せなかったら、団長様がいつだったか導きの樹の精霊の魔力を取り出したような感じで、私から魔力を引っこ抜いてもらおうと思っていたのだ。それなら間違いなく、火竜さんの物だった魔力を戻せるだろう。

 そこで火竜さんはちらっと団長様の方を見る。


「精霊王の剣の持ち主か……。それならば、いかようにもできそうであるが……」


 火竜さんもそれについては異存はないようだ。それならばと私はひと押しする。


「ちなみに契約する相手は、私ではなく団長様です。それだけで安心できませんか?」


「ふん……」


 火竜さんはもう一度団長様を振り返り、上から下まで見回して鼻息を漏らす。


「まぁ、お前のような魔女と契約を結ぶよりはいいであろうな」


 び、微妙に傷ついたけど、納得してくれるのならそれでいいかと思う。

 そこでふと思いつく。


「ところで火竜さんって、常に大きな体にしかなれないんですか?」


「小さくもなれるが……」


「契約したらお家に戻れるようになるまで、行動を一緒にしていただく必要があると思うんですよね」


 だけど火竜さんが大きいままだと、この近辺に生息してもらうの、むずかしくないかなと。


「では、小さくなっていろと?」


「話が早くて助かります。できればそうしていただきたいんですが。その間は、お食事については間違いなく供給しますし、大きいままの方が、お食事量も多くなるんじゃないですか?」


「……確かにそうだ」


 どうも小さい姿というのは、火竜さん的にも省電力モードのよう。


「だが、時々は基本の大きさにならねば……」


「時々以外は、小さい姿でいてくださるなら、それでいいです」


 火竜さんはしばし考え込む。自分の元の家に帰りたい。私は家に帰すための行動をするというのだ。なら側でうろちょろする必要があるものの……といったところだろうか。

 やがてしぶしぶといった感じで言う。


「食事は確保できるんだろうな?」


「私にできない場合でも、騎士さんの火の魔法で供給してくれるようお願いします」


 その方が、お腹減ったからって森を燃やしたりされなくていいはず。


「よかろう……」


「では決まりですね!」


 重々しい返事を受け、私は火竜さんを抱き上げて、団長様の前に連れて行った。

 多少不満顔ながらも、火竜さんは大人しくしているので問題ないんだろう。


「いいのか?」


「はい、契約するそうです」


 団長様に答えると、団長様は私にしたように契約を行った。


「では火竜よ。この契約をしている限り、私の意に反することはできないのを覚えておけ。この城や騎士団の人間に害をなせば、すぐに精霊としての存在を消し去る」


 うわ、私の時よりかなり厳しい団長様のお言葉。森を焼きかけたりしたせいだろうか。


「……我が本来の力を取り戻すまでだぞ」


 こっちもちょっと不穏なことを言っている。

 団長様が右手を上向けて、呪文を唱える。

 いつだったか見たような、白い光の輪がその手の上に現れた。

 私にしたときよりもかなり気軽な感じで、団長様はひょいと火竜さんの首に光の輪を通す。きゅっと火竜さんの首のサイズになった光の輪は、すぐに溶ける様に消えて見えなくなった。

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