火竜さんから思いがけない話が
その日一日は、とにかくやすむことにした。
団長様の突然の行動に気が向いてしまって、どうにもできない。
「なんで……」
団長様は、二度もあんなことをしたの?
一度目も驚いた。
火竜さんの攻撃、そして火竜さんを一度動けなくした後のことで、心配のあまりにしても……どうしたの団長様!? と思ったから。
何かあったんだとは思う。今まで気安く頭を撫でられたりはしたし、発言内容が女性にそれ向けちゃダメ! な感じのものが多かったのは事実だけど。
おおむね精霊が相手でもやりそうだから、ペット扱いなんだろうと思っていられた。
でも、あの口づけは……。
いつかの額への口づけは、私に魔力を戻すためっていう理由があった。
前回は、心配をかけたからだと思って、無理やりペット扱いだからと自分を納得させたけど。
「二度も団長様が気の迷いにとらわれたとか、ありえないものね。だから、意図的なんだと思うんだけど」
勘違いしていいんだろうか。
でもそんなことをして、本当にペットのつもりだったらいたたまれない。だから団長様に聞くのも恥ずかしくて、一度目は忘れることにしたのだ。
「悩むようなことをする、団長様がいけないんだよ思うけど。私もどうしてが聞けない……」
聞くのが怖い自分のせいで前に進まないのも、わかっている。とはいえ勘違いだったら騎士団にいられなくなりそうなくらい、気まずくなるだろう。
「どこかに移動しようにも、ゲームの内容が……」
他に魔女がいることは決定的になってしまった。竜と契約した人がいるんだもの。
そこでハッとする。
「火竜さん!」
「なんだ?」
「あなたと契約した魔女について教えて下さい」
そう。魔女について火竜さんに聞けばいいのだ!
「女だったな」
「……いやそうでしょうとも」
男の場合、たぶん魔女って言わないから。
「そもそもなぜ他の魔女の特徴など知りたがる? ……そうか。早々に見つけ出して、始末するためか」
火竜さん発想が怖い!
「始末するかどうかより、これから危ないことになるので止めてほしいんですよ!」
あちらの方が、確実にゲームで国を滅ぼした魔女に近い。おかげで私はラスボス役じゃないことは確定したみたいだけど、彼女を止めなければ、人が大勢死んで、この辺も荒野になっちゃうんですよ。
私は紅茶を作って、おだやかに暮らしていきたいんです。
できれば喫茶店も二店舗目とか作って、紅茶ももっと大々的に売って、世の中に紅茶を広めたい。
何より団長様をもっと紅茶好きにしたいし、他の仲良くなった騎士さん達が死ぬのも嫌。城下町ではちょっと辛い目にもあったけど、元凶はこの間叩きのめしたわけだし、別に誰かにいなくなってほしいなんて思ったこともない。
だから各国ともこのままですね、穏やかに存続してほしいわけです。無くなっちゃ困ります。
私の言葉を聞いた火竜さんは、いぶかしげに目を細める。
「お前は……未来視ができるのか?」
あ、そうだった。これからのことを口に出したら、そう言われても仕方ないよね……。
私は三秒迷って、首をかしげる。
火竜さんに話したとしても、団長様達はお話ができるわけじゃない。ただ、人間と契約しているということは、火竜さんて普通の人ともお話できたりするのかな。
「あの、火竜さんて魔女以外の人間とも、会話はできるのですか?」
「相手の魔力次第だな。それさえ基準を超えられれば、我の魔法によって、意思を伝えられるようにできる。こちらは何を言っているのかはわかっているから、それで会話が成立するだろう」
「……てことは、団長様とお話ができちゃう?」
「先ほどの、精霊王の剣を持つ男のことか? まぁできるだろうな。それに精霊王の剣の力を使えば、あの男の方から会話ができるようにもなるだろう」
すると、団長様とは話せる可能性があるんですね……ちょっとやっかい。
「さっきとか、ご不満がありそうなのにお話ししなかったのはどうしてですか?」
「なぜ我がわざわざ、話をしてやらなければならぬ」
ふん、と火竜さんは鼻息をした。
これはたぶん、団長様に反論したくなったら、火竜さんの方から話しかけちゃいそうだな。
私はまた三秒考えて、ふわっとした表現で話すことにした。
「未来視ってわけではないんです。そういう特殊スキルがあるわけではなくて……。魂が未来の出来事を記憶しているというか」
前世って言い方をして、竜にはわかってもらえるのかわからない。なのでそんな表現をした。
「ほぅ? 魂がのぅ……。そんな話を、どこかで聞いたような……」
「え!?」
同じような人がいる? ということは。
「あの火竜さん、教えて下さい! どこでお聞きになったんですか!?」
火竜さんを持ち上げて、がくがくと揺らす。
「ちょっ、止めろ魔女!」
「ああすみません」
火竜さんからストップをかけられて、手を止める。
「それで、思い出せますか? どこで聞いたのかを」
なにせ魂が未来の出来事を記憶してるって、前世が日本人で、ゲームをやったことがある人じゃないの? その人は一体どうしているんだろう。もしかして、仲間が見つかるかもしれない。
誰かもう一人ぐらい手伝ってくれたなら、もっと早く魔女を止める手立てが打てるかもしれないし。
だから教えてほしいのに、火竜さんは私の必死さを見てニヤッと笑った。
「そんなに教えてほしいのか……。だが、先に我の体を戻す努力をしてもらおう」
そっちが済んだら教えようと、取り引きを申し出て来たのだった。




