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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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火竜さんと魔力と……

「この増えた魔力。火竜さんの分なのかな……」


 五万……。

 でも元が十万あったせいか、なんだか感覚がマヒしているのか、まだだるさがあるせいなのか、初めて十万という数字を見た時よりは衝撃が少ない。いいことなのかどうかわからないけど……。


「は? 五万? 魔力量がか?」


 私の側で亀のように伏せをしていた火竜さんが「ぐわっ」と言いながら、長い首を起こした。


「お前よくそんな魔力量を吸収して、生きていられるな……」


「え?」


 吸収しすぎですか?


「普通の人間なら、五千も吸収すると体がはじけ飛ぶであろう」


「はじけっ……!?」


 え、なにそれ怖い。思わず身震いする。でも似たような話をだれかに聞いたような気もする。


「フン。魔女ならばそれはないか……惜しいことよ」


 火竜さんが鼻息とともに、小さく煙を吹いた。


「げふげふっ」


 ちょっ、煙いですよ火竜さん。


「それより、お前が五万とか言っておったが、それはわしの魔力量を超えてる気がするんだがな」


「え? 竜さんの魔力のうちの半分くらいとかじゃないんですか? これ」


 他の魔女がかけたっぽい魔法の契約。あれのせいで火竜さんの魔力が根こそぎ奪われそうになって、無我夢中で私が吸収して引き止めたんだけど。

 半分なのかどうかも実はわからない。


「いや……でもわしは半分精霊と同じだからな。存在のために割り振られていた魔力の分かもしれぬ」


 そういえば、精霊さんはみんな魔力=存在だと聞いた。確か団長様に。


「存在値ってけっこう魔力を使うんですね……」


 つぶやいて、再び私は、魔力が増えすぎるとはじけ飛ぶという恐ろしい話を思い出した。


「存在値が増えすぎてそうなるのだとしたら……もしかして体重が増えたりするのかな?」


「バカか貴様は」


 速攻で火竜さんから怒られた。


「人の考えるような重さは、魔力には宿らぬ」


「でも山では、じたばたしていた時に、けっこう地響きとか土煙とか上がっていたじゃないですか」


 氷や霜のある場所だったから、土煙と一緒にきらきらしたものも舞っていましたよ。


「けっこう重そうに見えたんですけれど。だから大きさと相応の体重かなと」


「しょせん元は魔力。軽くもできるわ! さもなければ飛べないであろうが!」


 シャギャー! と火竜さんが怒ってぼっと小さいながらに火を吐く。


「ちょっと焦げますってば。焦がしたらもう魔力戻しませんからね火竜さん」


「な、なんだと!? 我の魔力を人質にとるとは……っ!」


「そもそも魔力を止めて火竜さんを助けたりしたのは、私の厚意ですよ? 別に返さなくても……」


「うわああああ! この鬼畜魔女めええええ!」


 火竜さんが「ぎゃおー!」と叫びながら、横になってじたばた足を動かす。でも火は吐かないし、短いあんよを動かしてる姿が可愛い。

 なんかずっと文字で通信していたせいなのか、悪口言われてもあんまり気にならない。小さくなったせいもあると思うけれど、火を吹いても怖くないんだよね。

 そこでノックの音がした。


「はーい。ちょっとお待ち下さい」


 私は寝間着にしている簡素な生成りのワンピースの上から、赤と黒のチェック柄のショールを羽織って起き上る。

 きっとオルヴェ先生だろう。水を持ってきてやるから、今日は一日動くなと言ってくださったのだ。

 戸口でお水を受け取って、それで終わろうと思ったのに。


「ずいぶん元気そうだな」


 扉を開けたところに居たのは、団長様だった。


「だんっ、あの」


 油断していたせいで、うろたえてしまう。

 お医者さん相手だから大丈夫と思ったけど、寝間着のまま団長様と顔を合わせるつもりが全くなかったので。

 いや、団長様には寝起きを二度も見られているわけだけども。一度目も二度目も一応ちゃんと服を着ていたんです私。布団を掛けている状態でもないので、なんかこう、恥ずかしい。


 そういえば眠る前は、団長様に抱えられたままだった私。うわああああ、思い出しちゃって二重に身の置き所が無い。

 でも団長様の方は、そんなことには気づかないようだ。


「何か問題でもあったか? オルヴェの用事も代わりに受けて来たのと、火竜の様子を見たかったんだが」


「ありがとうございます……」


 私は差し出されたデカンタを受け取る。そうして火竜の様子を見にきた団長様を中に入れた。

 デカンタをベッドサイドの卓上に置いた私は、ショールの前を合わせながら、ベッドの上でふてくされていた火竜に近づく団長様に近づく。


「火竜の様子はどうだ?」


「今のところ、大人しくしてくれています。ずっと抱えながら魔力を移動させようとしているんですけれど、どうもお茶みたいに上手くいかなくて……」


 聞いていた団長様の方は、いやいやをする火竜をわけもなく持ち上げて、しげしげと見る。


「おろせ人間め! それに手を介しての魔力の受け渡しが微妙なら、口からでもいいではないか!」


「口?」


 火竜に聞けば、そんなことも知らんのかと言いたげな目をする。


「人は手や口から魔力を放つのだ。だから早く試せ魔女」


 そう言って火竜が、ぷいっと私から顔をそむけて後ろを向いた。これはもしかして、後頭部に口づけをしろということ?

 まぁ相手が小さな竜なので、特に恥ずかしいとは思わない。強いて言えば、団長様に見られていることが、落ち着かない気分にさせられるけれど……。


「団長様、ちょっと火竜さんを貸していただけますか?」


 私に頼まれて、団長様はあっさりと渡してくれたのだけど。


「火竜は何を要求している?」


 団長様には火竜の声が聞こえない。だから私は説明した。


「火竜が手から魔力を受け渡すより、口づけの方が効率がいいと……」


「それは最終手段だ」


 団長様が無表情のまま、手放したはずの火竜を私から取り上げ、言った。


「お前には茶を飲ませるという手段があるだろう。おそらくそちらの方が効率がいい」


「あ、そうでした」


 それじゃ今からお茶を作って……とつぶやいたところで、ベッドの上に火竜を置いた団長様が私の右腕を掴んで、自分の方へ引き寄せてくる。


「それはせめて明日以降になってからにしろ。少なくとも、魔力を大量に受け取って、まる一日眠り続けた人間がやることではない……心配するだろう?」


 一歩団長様に近づくことになった私は、見つめてくるその顔を見られずに、視線をそらしながらうつむいた。


「すみません」


 そんな私の頬に、団長様が右手で触れる。


「お前の様子も診ておきたい。あれだけの魔力を引き受けて、本当に大丈夫なのかを。少しじっとしていろ」


 そう言われて、団長様が手を触れたまま目を閉じる。

 いつだったかも、こんな感じで魔力の確認をされたなと思いながら、私は大人しくしていたのだけど。


「……まぁいいだろう」


 向かい合った団長様の声が、近づく。

 え、と思った時には、こめかみに口づけられていた。

 やわらかな感触が、羽のように押し付けられてくすぐったくて、頭の中が真っ白になりそうだった。


「……………!」


 様子を診るのにどうして! と思うけれど、私は指一本動かせない。

 側頭部からざわっと撫でられたような感覚に、困惑する。

 でも嫌だとは感じない自分が、一番どうかしている。そのままでいてほしいだなんて思ってしまう。


 ただしそんな時間は、いつまでも続くわけでもない。

 団長様が離れていく。

 目を見開いたまま硬直している私を見て笑い「魔力は安定しているようだ」と、団長様は平然と言った。

 いえそんなことより。あの、今のは……!


 火竜さん討伐の前後は何もなかったので、私はおおいに油断していた。

 その前の出来事は、何かの気の迷いだって。

 でも二度目ですよ! これってペットへのアレな感じなんですか?

 どっちなんですか……。


「無理をしないで、今日はまだ休むように。あと、火竜に茶を飲ませるのなら、万が一のために外でやるように。……また明日様子を見にくる」


 団長様は何もなかったかのように、指示するべきことを伝えると部屋を出て行った。

 私は団長様が閉じて行った扉を、ゆっくり十秒くらい見つめた後、ようやく肩の力を抜く。


「心臓……止まるかと思った……」


 はぁとため息をついたら、火竜が言った。


「よくわからんがまだ死ぬな。我を戻してからにしろ」


 自分の要望をストレートに伝えてくる火竜の言葉に、現実に引き戻された私は「アハハハハ、ドリョクシマス」と空笑いをするしかなかったのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 人様をペット呼ばわりして立場を利用して迫ってくる団長が嫌すぎる。男女関係を上下関係にすり替える男は基本クソです。 ユラは自己肯定感か低すぎるから気が付けないんですかね…?
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