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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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※そして彼女は確信し……

「アルマディール公爵令嬢様を歓迎いたします」


 シグル騎士団の城から移動したメイアをそう言って出迎えてくれたのは、バルカウス伯爵その人だった。

 木彫りの人形のような、彫りの深い好々爺といった印象のバルカウス伯爵は、きちんとした部屋を用意してくれた。

 メイアは体調を崩しているということで、あまり外へ出ることはない。


「魔力の吸収が、こんなに時間のかかるものだったなんて……」


 異質なものを受け入れるからか、じわじわとしかメイアの中に吸収されていかない。しかもある一定数がメイアの中に吸収されてから、風邪をひいたように寒気がする。

 でも自分の魔力量は増えて行っているのを感じているから、耐えられるのだが。


 そんな日が五日ほど続いて、ようやく魔石の魔力がメイアのものになった。おそらく魔力量はようやく容量分だけ補充されたようだ。

 これでようやく、魔女らしい力が使えるだろう。

 そう思った頃に、アルマディール公爵領からの使用人達が到着した。


 名目上の兄であるアルマディール公爵は、できるだけメイアとは関わりたくないのだろう。幽閉先である辺境にさえ戻ればいいのか、使用人達の選別についてはろくに確認もしなかったのに違いない。

 公爵家の者はほんの二人。あとは皆、イドリシアの民たちが偽装して来た。


 いや、そもそも辺境地でメイアの世話をしていたのは、ほとんどがイドリシアの民ばかりだった。

 公爵家から派遣されて来た者の多くは、暖かくならない辺境地の過酷さがつらくて、高い給金があっても耐えきれずに帰ってしまったのだ。


 最初は、イドリシアの人々がそこで生きていくつもりだと語ったことを、メイアは思い出す。

 精霊を扱う術を持つ者が多いイドリシアの民なら、多少過酷な土地でも生きていける。タナストラからも遠い地で、とりあえず安住できる場所を見つけたと、喜んでくれるのがただ嬉しかった日々。


 何もしてはいけない、最低限の人としか関わるなと言われて生きることをメイアにとって、イドリシアの人々と笑い合い、彼らのために何かをして、喜んでもらえる生活はとても楽しかったのだ。

 ……タナストラが聖地を使って神を呼ぼうとしている、という知らせが来るまでは。


 夜半。

 バルカウス伯爵家の人々が寝静まった後に、メイアの元に使用人たちが集まった。

 話すのはもちろん、これからのことだ。


「無事の魔女への変化、お喜び申し上げます」


 先頭に立って、座るメイアに深々とお辞儀をしたのは、壮年の痩せた禿頭の男だ。


「ミタス様もお元気そうでなによりです。器が広がった分の魔力は得られましたが、この後はもう、タナストラに?」


 最終的には魔女の力で聖域を壊し、誰にも利用されないようにするという計画だと、メイアは聞いている。


「いいえ、まだこの状態では魔女としての魔力も、力も足りません」


「しかし、おそらくは一万ほどの数値はあるかと思いますが……」


「かなり良い数字ですが、それでもまだなのです。お体に負担かとは思いますが、精霊力も増やさなければ、聖域を壊せません」


 トカゲのような顔をした禿頭の男ミタスは、天井を仰いで告げる。


「聖域は神が降臨する場。であればこそ、神の影響を強く受け、他の魔力を排除しようとします。そこへ影響を与えたいと望むのであれば、やはりより強い力が必要。それこそ竜よりも……」


「竜よりも」


 半分精霊と同じ存在の竜は、魔力だけで三万はあるはず。

 それを越えるとなると、もう一度同じようなことをしてもらうしかないのだろうか。メイアは悩む。


「もし魔力が足りないようでしたら、タナストラの方を破壊するしかありません。その方がかなり難しいですし、タナストラの地の者も多く犠牲になるでしょう……。メイア様はそれをお望みではないと伺いましたが」


「ええ、そうです」


 タナストラで生きる人、全てがイドリシアの敵なわけではない。むしろ関係なく暮らしている者も多いことだろう。

 何よりタナストラの虐殺を止めるために、メイアは魔女になることを決めたのだ。その自分が同じことをしては本末転倒だ。

 うなずけば、我が意をえたりとばかりにミタスが微笑んだ。


「ですから、次は竜を使いましょう。我々が召喚を行い、メイア様に魔女として契約を行っていただきます。その時メイア様の血を頂ければ、竜の魔力がメイア様に移譲されるようにいたしますので」


 それが、竜の命を奪うことだというのは察しがついた。

 けれど人々の命があがなえるのなら……。

 いずれ、魔女としてタナストラを止めることができれば、メイアも無事ではいられない。その時に自分も消えることで、竜への償いとしたいとメイアは祈った。


 ……竜には、タナストラにある遺跡の破壊を依頼した。

 それによってタナストラの兵器開発が一時停止になるのは間違いない。そして暴れた火竜を、タナストラは全力で殺そうとするだろう。

 そう思っていたが……。


 数日後、メイアは一気に届いた魔力を受け止めたことで、昏倒した。

 その後五日ほど目覚めなかったようだが、起きたとたんにとてつもない報告が待っていた。


「火竜は死なず、リュシアン様に救われた……と?」


 火竜はタナストラへ行く前に、リュシアン達シグル騎士団によって討伐されたらしい。

 けれど火竜は命までは奪われなかった。リュシアン達は契約を破棄させようとしたようだ。


「でも、契約は……」


 契約の中に含まれていた魔術によって、火竜は契約を破った時点でも命を奪われることになっていた。

 ミタスはその答えを告げる。


「おそらく。他に魔女に匹敵する魔力の持ち主がいます」


 その時、メイアの頭をよぎったのはユラの姿だ。


「やはり……」


 彼女のことをそのままにするわけには、いかないのかもしれない。

 それでもメイアは、そのことをミタスに言うのをためらっていたのだった。

次から第三部になります!

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