火竜さんを連れ帰った後
お城へ帰った後も、なかなか大変だった。
「ユラは怪我をしたんですか? ……!?」
顔見知りだったらしい、待機組の騎士さんが駆け寄ってきて、私が抱っこしていた火竜さんを見てぎょっとした。
いやぁ、びっくりしますよねこれ。
そんな感想は浮かぶけれど、それ以上はちょっと考えるのがつらい……。なんかこう、この世界で風邪にかかった時のことを思い出す。
なにせこの世界には、精製された薬がない。怪我や魔法効果による状態異常は回復魔法で一発だけど、病気は地道に薬草で治していくしかない。
そもそも精霊が実在して魔法が使える世界なので、原因が前世みたいにウイルスや菌なのかもわからない。体の魔力バランスが……とか、薬草でそれが安定して治って……とかありそう。
なんにせよ、重い症状が出る風邪だと、一週間は寝込むことになる。
よくお祖母ちゃんに看病してもらったな……。懐かしい。
思い出すと、もっと小さく丸まってしまいたくなる。
団長様に抱えられていても、恥ずかしさなんて全く感じなかった。とにかく体の辛さが優先で、抱えてくれる腕とかが暖かいのがありがたい。
火竜さんに魔力が移ると少し楽になるんで、思わずぎゅうっとしてしまうけれど、火竜さんもじっとしていてくれる。
「ぴぎゅー」
と抗議っぽい声は出すんだけどね。
「竜は、言葉が話せるユラに任せることにしている。ユラは魔力あたりを起こしたらしくてな、体調不良で先に戻した。ヘルガ達はいるか?」
「第五棟にいると……」
応対する騎士さんは、戸惑いながらもそう答え、手を伸ばした。
「俺が運びますか? 団長も早く戻りたいでしょう」
「いや、ここまで来たら同じことだ」
団長様は騎乗していたヴィルタちゃんを他の騎士さんに任せて、そのまま私を運んでくれた。団長様に応対した騎士さんは、先にヘルガさん達に報せに行ったようだ。
第五棟に入ると、ヘルガさん達が待ち構えていた。
団長様は私を部屋まで運んでくれると、ヘルガさん達に注意事項を告げる。
「ユラが抱えているのは、正真正銘の竜だ。うかつなことをするとかみついたり、建物を燃やす可能性もある。ユラが目覚めたらどうにかするはずだから、抱えたままにするか、うろついても触らないように」
「はい、承知いたしました」
ヘルガさんがうなずいている。
私はそれをぼやーっと見ていた。
次に団長様は、抱えられて「ぴぎゅー」と言う火竜さんに言う。
「火竜、滅多なことをしたら辛うじて保っている力をはぎとる。大人しくその娘の側にいるように」
「ぴぎゃー!」
火竜さんはおむずかりの様子で、団長様に牙を剥く。たぶん、命令するなとか思ったのかもしれないけど、ステータス画面もいつの間にか消えてて、何を言っているのかさっぱりだ。
といあえず、団長様に迷惑をかけちゃいけないと思って、私は火竜さんの頭を撫でるようにして抱え込む。
すると火竜さんも、あやされるように牙を収めて目を閉じた。
よしよし。大人しくしないと、魔力を返しませんよー。
なんて思っていたら、団長様が私の頭を撫でた。
「よくやったユラ。しばらくは飽きるまで休め」
大きな手が、周囲にいる人の目をはばかってか、すぐに離れてしまう。
けれど褒められて嬉しい。
団長様が出て行くと、ヘルガさんに声をかけられ、火竜さんを一度横に置いた上で眠りやすい服装に改める。
そうして再び火竜さんを抱えてお布団にもぐり込んで眠った。
……目覚めたのは翌日の夕方でした。
「おはよう」
目覚めの時に側に座っていたのは、フレイさんだった。
何かの合間に来たのか、マントも着込んだ姿だった。
「具合はどうだい? ヘルガ達が帰ったから、オルヴェ先生と交代で見ていたんだ。先生を呼んでくるから待っているといいよ」
「おてすう、おかけします……」
寝起きでぼんやりしながらも、それだけは言うとフレイさんに笑われた。
「寝癖、可愛いね」
「はっ!?」
フレイさんがそう言って、横髪にちょっと触ってから部屋を出て行った。
「……なに、今の……」
ぼんやりしているせいで、すぐに対応できないまま見送ってしまった。とにかく寝癖。寝癖はいかん。
オルヴェ先生はお医者さんだから、そんなこと気にしないでいてくれるだろうけど、みっともない。
ぼさぼさしているだろう髪を手で梳きながら、さっきのフレイさんの発言のことを考える。
正直、寝起きのひどい顔なんて見たら、百年の恋だって冷めるだろうと思っている私としては、フレイさんの発言が理解できない。
犬猫の寝癖は可愛いけど……そういう感覚?
とにかくできるだけ居ずまいを正そうとしたところで、横に転がる火竜さんに気づく。
あわててステータス画面を開いて、チャンネルDをぽちっと押した。
「おはようございます火竜さん、お加減はいかがです?」
「くっ、まだ戻らん……」
そう言って火竜さんはしょげていた。確かに小犬の大きさのままだ。
ん、あれ? 火竜さんの声が直で聞こえるような。
試しにチャンネルDをオフにしてみても、火竜さんの言葉がちゃんとわかった。
「え、あれ。チャンネルなくても火竜さんの声が聞こえる」
「お前の魔力を受け取ってるからだ。くっ……早く戻さんか!」
「とは言っても、方法がわからないんですよね」
「お前の魔力の中に、微弱―に我の魔力が混ざっておるが、足りぬのだよ!」
副音声で火竜さんの声に、ぴぎゃーという声が聞こえる。何とも言えないこの気分。
「とにかく時間をかけるしかなさそうですよね。しばらく一緒に暮らしましょうか。あたりの物や人を燃やさないで大人しくしてくださいね」
「おのれ……。しかしお前から返させるのが、一番手っ取り早いのは確かだが……」
火竜さんは「ぴぎゃー」と繰り返しながら悩み出す。
すると「にぎやかだなぁ」と言いながら、オルヴェ先生が部屋に入って来た。
とにかく熱なんかは無くなったとお墨付きをもらい、それでも三日は休むように指導されました。
先生の診察も終了し、再び火竜さんと一緒に寝転んだ私は、はっと思い出してステータス画面を開く。
「そうなると思ってはいたけど……またMP増えた……」
ユラ・セーヴェル/紅茶師
生命力(HP)/魔力(MP)……800/150000
攻撃力………6 魔法攻撃力………… 700
筋力…………6 魔法スキル練度…… 875
速さ…………9 剣技スキル練度…… 0
物理防御……8 魔法適性…………10000
魔法防御……650 精霊適性…………10000
取得能力
紅茶師……スキルレベル19
チャンネル:C・D・E・F・G
魔女 ……スキルレベル35
《精霊操作LV10》《精霊召喚LV10》《精霊力操作LV10》
《冥界の知識》《魔力操作》




