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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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火竜の契約解除 1

「お前はタナストラへ行くつもりか? どうして……」


 団長様が不安そうな顔をするのも無理はない。保護者が必要そうな私が、急に異国へ行くつもりなんて言い出したら、驚くのも当然だ。

 でも火竜との交渉では、言わなくてはならなかっただろうから仕方ない。


「団長様。いずれタナストラへは行かなくてはならなくなるはずなのです。……精霊が、魔女はいずれそこへ行くと言うので。それに魔女をこのままにすると、竜を呼び寄せるどころではない事が起きる、と聞いたんです」


「だから魔女を追いかけると?」


 私はうなずくしかない。

 本当に、私の他に魔女がいるとわかった以上、見知らぬその彼女を止めなければ、アーレンダール王国も滅んでしまいかねない。


「私にそんな警告をする精霊はいなかった。だが……お前が会話できているゴブリンに似た精霊。彼らとは私は話ができないからな。精霊が人を騙すとしたら、狂った状態でもなければあり得ないのはわかっているが」


 団長様が眉間にしわを刻む。


「だが、お前が率先して行く必要はないだろう」


 団長様にそう言われて、私はどう説明しようか迷った。そこまでして魔女を追う理由を、精霊がそう言うからというだけで済ませようとして、団長様が納得してくれる気がしない。

 だから先送りした。


「この件が終わってから、お話ししましょう団長様。今はとにかく火竜の方を」


 団長様も、このことを追及するよりも火竜を優先するべきだと考えたのだろう。うなずいてくれる。

 そして私は火竜さんに話を向けた。


「火竜さん。契約の解除には、私がお手伝いします」


《火竜:お前に……できるのか? しかし契約には……》


 火竜さんは前向きになったようだけど、言葉を濁す。


「契約を破ることによる反動は承知しています」


 私はソラを再び呼び出して、具体的な契約の解除方法について聞いている。その時に、火竜にも私にも、魔法を解除する反動が来て、多少のダメージはこうむるだろうことも。

 でもそれで、私が死ぬことはないと保証してくれた。


 契約解除の気配を察してなのか、ふわふわと精霊達が私の側に集まってきてくれている。

 さっきまでプレイヤーとして、戦っていた精霊達は、戦闘が終わったと判断して消えてしまっている。だから彼らではなく、いつも通りのゴブリン姿の精霊達だ。

 表示を見ると、その姿でもさっきのウサギ姿の精霊と同じ、氷の精霊らしい……。なんとも見分けのつかない外見だ。


《氷の精霊:あなたを保護中》


 その文字を見て、いつかソラが私に言ったことを思い出す。


 ――信じてユラ。僕達は君も守りたいんだ。


 ソラは私のことも守ってくれると言っていた。精霊達は、そんなソラに頼まれたのかもしれない。間違いなく私のことを守ってくれるんだと思うと、反動があると聞いて内心では怖いなと思っていたけど、そんな気持ちも落ち着く。

 大丈夫。信じて良い。

 魔力の渦に飲みこまれた時も、私を助けてくれた。団長様も精霊は嘘をつかないと保証してくれている。


《火竜:…………》


 火竜はしばらく黙った。十秒ぐらいだろうか。それからようやく返事をくれた。


《火竜:わかった。契約の解除に応じる》


「ありがとうございます」


 私は団長様にお願いした。


「団長様、火竜さんの前に私を降ろしてください。でなければ、火竜がこの近くを攻撃することを約束してしまった、契約を解除できないんです」


 団長様は顔をしかめた。


「本当に危険ではないんだな?」


「大丈夫です。精霊の盾もまだ効力が続いていますし、物理攻撃が心配なら、別な魔法も使えますから」


 団長様も、軽々と火竜のブレスを跳ね除けた精霊の盾のことを思い出したんだろう。承知してくれて、竜を地上に降下させた。

 心配してのことだろう。イーヴァルさんやフレイさんも地上に降りてくる。

 けれど魔女であることを知られるわけにはいかないので、団長様以外は近づかないように指示してもらった。心配してくれているのにごめんなさい。


 間近に立つと、伏せているのに巨大な火竜の姿はとても大きくて、威圧感がすごい。

 可愛い精霊さん達がくっついていてくれるから、多少なりとゲームっぽい夢を見ているような感覚になって、足が震えたりしないでいられる。


「では、備えてください火竜さん」


 私は火竜さんにそう言って、ぎゅっと自分の両手を握り合わせる。

 やり方は、ダンジョンで冥界の精霊を従わせたのと似ている。

 ただ今回は、火竜さんが飲み込んでその体に浸透しつつある私の魔力を動かさなくてはならない。

 目を閉じて、自分の魔力を感じようとする。


 ――もう一人の自分を探すように。


 ソラには「それがコツだよ」と言われた。

 自分の魔力を感じて、同じものを探す。

 私の魔力は……なんていうか、ふわっとした紅茶みたいな感じでイメージしてしまう。


 やがて、なんとなく目の前に自分と同じ魔力を感じられるような気がした。

 その感覚を捕まえると、もう一人の自分の周囲には別の魔力があるのがわかる。

 私が溶け込んでいる、温かい熾火のような魔力はたぶん、火竜さんのものじゃないだろうか。


 その他にもう一つ。

 冷たく暗い魔力がある。それがじわじわと熾火のような火竜の魔力を抑えつけている。

 私はそれを取り払おうとした。

 たぶんそれこそが、契約の魔法だと思うから。

 でもその冷たい魔力は、網のように絡まっている。普通に押しのけるのは難しい。


「それなら……」


 溶かしてしまえばいい。

 自分の魔力を集めて、相手の魔力に紅茶を注ぐように温めてしまう。溶かした端から私のものにしてしまえばいい。

 魔力が増えていく感じがする。体がすっと手の先から冷たくなっていく。

 でもその半分ぐらいを取り去った時だった。


 ――パチン、と他の魔女の魔力が弾けた。


 これで終わったかと思ったら、火竜さんの体から火の粉のような輝きが立ち上り、叫び始める。


「これは何だ!?」


 団長様が抱える様にして、私を火竜さんから引き離そうとした。

 だけど精霊が止める。


「だめー」


「死んじゃう死んじゃう」


「けーやくを破ろうとすると、死ぬようになってたみたいー」


「え!?」

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