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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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火竜さんお茶の時間です5

《火竜:なっ…………》


 火竜さんは、そのまま水筒をごっくんしたようだ。


《火竜:……くっ、げほっ、くそっ! げほごほっ!》


 胸の辺りを前足でかきむしりながら、火竜さんは吐き出そうとする動作を繰り返し、見ていてとても苦しそうだ。

 騎士さん達も攻撃する必要はなくなったと、一端上空へ退避した。


「そんなにお茶、嫌だったのかな……」


 お茶を飲まされるのが腹立たしくて、なんとか吐き出そうとしているのかと思い、私がつぶやくと、団長様が言った。


「あの茶、竜にとって毒ということはないか?」


「それはないですよ! 私が味見しても大丈夫でしたし」


「人には良くても竜には問題がある可能性は?」


「竜って、そんなにか弱いんですか?」


 正直、岩を食べたって平気だというイメージしかなかったので、食に関しては繊細なのかと驚く。

 まさか炎以外を食べるとお腹を壊してしまうとか? もしかして水筒の素材が悪かったかな……。鉄とかステンレスじゃない、竹みたいな素材の水筒だったから、竜ならイケるイケると思ったんだけど。

 ……なんだか心配になってきた。

 でもそんなことを言っている間に、火竜さんがへたりとその場に伏せをして、じっと動かなくなる。


「……やってしまったのか?」


「し、死にませんよたぶん。だってあれ、ただ魔力が入ったお茶ですし……」


 そう団長様に返しつつも、語尾が弱くなるのは自信がなくなってきたからだ。

 本当に、竜の体に合わないものだったらどうしよう? でもお茶って、火竜の体からすると、雨粒の一滴ぐらいの量だと思うんだけど。


 と思ったら、ふわっと火竜さんの体に赤い光がわずかに浮かんで消えた。

 それでも動かないので、団長様が少し高度を下げていくと……。


「あれ、傷が治ってる」


 火竜の体につけられた傷が回復していた。

 けれど私がつぶやいたとたん、火竜が地面に頬をこすりつけるような体勢で嘆き始める。


《火竜:……なんという屈辱……っ! 人の、いや、魔女のわけのわからない茶を、あんな不意打ちで飲まされる我……なんと気の毒な……》


 うおおおおんと吠えながらなも、動かずに、ごりごり地面に頬をこすり続ける竜は、相当悔しかったみたいだ。

 団長様に通訳をと思って振り返ったら、


「言わなくていい。見ていればだいたい予想がつく」


 やや疲れた表情でそんなことを言われてしまった。


「え、わかったんですか!?」


「先ほどまでの、お前が通訳した状況や発言と、怪我が治ってもぐずっている様子を見れば、誰だって想像できるだろう。もう、攻撃してくる意思はないだろう。……なんだか哀れだから、早々に用事を済ませてはどうだ?」


 団長様に勧められて、私はそうすることにした。

 まずは最初に確認だ。


「あの火竜さん、お体は大丈夫ですか? 怪我が治り切っていないのなら、もう一本、お茶をお飲みになりませんか?」


《火竜:あげくの追い打ち……しくしくしく》


 実際の音声では、小さく「うぉぉぉん」という声を出しているのだけど、言語に直した状態を見るに、あれは嘆きの声らしい。

 とりあえずお茶を勧めたら追い打ちだと言われたので、これ以上飲ませなくてもいいのかな?

 なので私は、火竜さんに用件を切り出す。


「ではお茶はこれで終わりにしましょう。ところで先日お話した、他の魔女との契約の解除についてなのですが、受け入れていただけないでしょうか?」


《火竜:くっ、茶を飲んだら解除をするとは言っておらんからな!》


「確かにこれについてはお約束いただいておりません。でも、この状況から、いつでもこちらが火竜さんを倒せるというのは、わかっていただけたのではないでしょうか。このまま契約の解除に応じて下さらないのなら、無理にということになりますが」


《火竜:くそっ。魔女なら無理やりに解除もさせられるのか? しかし我の故郷が……っ》


 火竜さんはまだ、故郷を取り戻すことにご執心の様子。

 それもそうだよね……。だって、そもそもは自分の死の間際になって帰れないとわかっていても、火竜さんはタナストラへの攻撃を諦めなかったんだもの。


「それについては、私の方でお手伝いします。契約で縛ることなく」


《火竜:契約で縛らず……だと?》


「はい」


 私ははっきりと答えた。

 なにせ他に魔女がいるということは、火竜さんを止めても、他のクエストは発生する可能性が高い。そうなれば、タナストラとことを構えることにもなる。

 ……ゲームの状況から外れるので、実際どういうことが起こるのか想像がつかないけれど。


 でも結果的に、もう一人の魔女によってタナストラの国力が削がれるなり、何か異変が起こるはずだ。

 魔女がタナストラで力を発揮したら、確実に国力は低下するだろう。周辺国家まで荒野に変える前に、タナストラはかなり広い地域を、焼け野原にされてしまうのだ。


 私がどこまで介入して、相手の魔女を止められるかわからない。

 それに相手の魔女についても、おそらくタナストラに出現するまでは、姿も居場所も想像がつかないので、それから対応するしかない。

 でも魔女の問題をクリアできれば、タナストラから火竜さんの元住処を解放する手助けをする機会もできると思う。


「確実な約束はできません。でもこのまま契約を遂行しようとして、果たせずにここで倒れて故郷を見ずに終わるよりも、いいと思いませんか?」


《火竜:我は……》


 火竜さんはここまで言われて、悩んだようだ。


「ユラ、そんな約束をしてどうする気だ?」


 一方の団長様は聞き捨てならないと、私の肩を掴んで言った。

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