火竜さんお茶の時間です1
火竜さんの墜落場所までは、竜や飛びトカゲで行けばすぐだ。
ゲームでは火竜と戦うその前に、問題が発生する。
それはいよいよ始まる、魔女の妨害。
火竜を早く自由にするために、魔女の仲間が氷の精霊力を減らすため、魔物を放つのだ。
火では氷の精霊力にやられてしまうので、敵は寒さに強い土属性の魔物を使っている。彼らはプレイヤー達を見つけると、こちらにも攻撃をしかけることになっていた。
そのせいで、プレイヤー達は山を登りながら戦うことになるんだけど。
私はその情報を、精霊さんから聞いた、という体で話すことにする。
なにせストレートに言うと、さすがの団長様も「どういうことだ」と不審に思うだろう。そんな情報を得られるのは、敵と通じている人間だけだ。
それだと魔女だと明かす以上に、団長様にとっては信用ならない人間になってしまう。前世の記憶とか、誤魔化しにしか聞こえないに違いない。
むしろ実験時に、敵側の言うことを聞くように魔法でもかけられてて、いざという時に行動するため情報を与えられたとか、そっちの疑惑をかけられそうだもの。
……自分で考えてて嫌になってきたな。
「……団長様、火竜の側には『岩喰い鳥』がいると精霊が言っていました」
岩みたいな体の鳥だ。鳥なのに牙もあるしかぎ爪も鋭いし、なにより石つぶで攻撃をしてくる。
おかげで山頂に、竜が直接乗り入れることができなくなってしまうのだ。
岩喰い鳥のことを知らせておきさえすれば、団長様なら、火竜にこのままアタックするのは難しいと気付いてくれるだろう。
「イーヴァル!」
名前を呼び、団長様がイーヴァルさんに何かのサインを送った。それはイーヴァルさんから他の人達にも伝えら
れていく。
「魔物がいる可能性については伝えた」
「ありがとうございます!」
これで岩喰い鳥の対策はできるだろう。魔物の名前を聞いた団長様が手配したのだから、大丈夫なはず。
ブレスについては、次の交渉次第かな。
「団長様、とりあえず火竜と話してみるので、ちょっとだけ攻撃を待っていただいても?」
「……話す?」
団長様が眉をひそめた。
あ、しまった。火竜と話せること、団長様に言ってなかったわ。
「実はゴブリンやクー・シーみたいに、竜とも話せることがわかりまして」
「……相変わらず非常識な」
そう言いながらも、団長様は苦笑いするだけだ。
「お前が魔物と話せるのは、今さらのことだったな。それで竜は何と言っていた」
受け入れてくれたことにほっとしながら、私は正直に言った。
「確かこちらに対して、ブレスによる殺害をほのめかした発言が少々」
「……焼き尽くすとかそういうことか?」
「まさにそれです。でも再連絡すると言って放置したら、なんか寂しがってました」
「さみし……」
団長様が絶句していた。
寂しがる竜って話なら、火竜さんのこと、ちょっと可愛いなと思ってもらえるかと思ったんですが、だめでしたか。
「ええととにかくですね。水筒を口に放り込んでいただくタイミング的に、火竜が会話に気を盗られた瞬間を狙っていただけると安心かなと。ブレスを吐く前の前兆動作の時にも放り込めそうですけれど、近づくと危険そうですから」
団長様に作戦的な話をすると、五秒ほど無言だった。
あ、団長様を悩ませてしまったみたい……? いや、これはもしかして怒られる?
びくびくしていたら、ややあって団長様が言った。
「とにかくわかった。ブレスを吐く直前よりは、安全だろう。元から私の合図で投げさせる予定だったからな……なんとかしよう」
「よ、よろしくお願いします」
怒られなかった、良かった……。
考えてみれば、ゴブリン、クー・シーと話ができていたんだから、竜とも話せると言っても、受け入れやすかったのかもしれない。竜は知能が人以上の場合が多いという話だし。
そこでふと思う。私、ヴィルタちゃんとも話せるんじゃないかな? でも今までチャンネルDが発動しなかった。どうしてだろう。
「そろそろ上空だ、ユラ。ヴィルタに掴まって伏せていろ。そして何でもいいから話しかけ始めてくれ」
団長様にそう言われて、しっかりと鞍の持ち手を掴んで伏せ気味にする。
その背後で、団長様が剣を抜いた音が聞こえた。
私はステータス画面を出し、チャンネルDボタンを押す。
《火竜:…………》
やっぱり火竜さんしか出ないみたいだ。複数人と同時会話ができるのは、ゴブリンやクーシーでも経験済みなので、ちょっと不思議だ。
その疑問は横に置いて、まずは任務を果たす。
「あーあー。火竜さん、いつもの魔女ですがお元気ですか?」
《火竜:き、貴様。ようやくきたのか……っ!》
あれ。これって待たれていたパターンってやつですか。
「予告したので、来るのを待っててくれたんですね、嬉しいです。お届け物をしに襲撃しに来ました」
《火竜:届け物……?》
火竜さんが普通に尋ねてきてくれた。お届け物に興味ありですか? と思ったら、背後から疲れたような声が聞こえた。
「ユラ……まさか、その会話で火竜に呼びかけているのか?」
団長様に尋ねられたので、素直にお返事する。ちらっと振り返ったら、団長様が珍しくも呆然とした表情をしていた。
「はい。あまり深刻な話し方だと、普通に害意を煽るだけかなと……」
「いや、むしろ煽ってないか?」
そうでしょうか?
画面を見ると、火竜さんは私の返答が聞こえていたみたいだ。
《火竜:誰と話してるんだお前……。なんて扱いもう好きにしろよ……ブレスで吹き飛ばしてやるから……》
物騒だけど、トーンダウンしているもよう。これはいい傾向だと思うんですよ。最初は問答無用で森と一緒に焼き払うって感じだったので。
「よしんば煽っているとしても、戦闘時にまず間違いなく私を攻撃してくるので、他の騎士さん達は標的にならないのでいいかなと」
なにせ上級魔法の精霊の盾で、ブレスを防げるのはわかっているのだ。
「あと一応お話は聞いてくれるみたいですし、お届け物に興味は持ってもらえたようなので」
「……本当か?」
「疑問視されましたが、たぶん大丈夫です。だって今、襲撃のことよりお届け物の方を気にしてくれてみたいなので」
すると団長様は、三秒ほど空を仰いだ。
「……慣らされたんだな」
妙な感慨をもったつぶやきが聞こえたけれど、私は笑って目をそらした。
とにかく火竜さんにお返事しよう。
「あ、すみません放置して。火竜さん、お茶はいかがですか?」




