火竜攻略へ出発
「よし」
早朝のモーニングコールで、とにかく今は火竜さんのことを考える方向に、自分の意識が向いた。
ありがとう火竜さん、そしてありがとう。
起きて着替えやモーニングコールをしているうちに、時間は朝の6時になっていた。
午前中から出るにしても、今回のお茶はそれほど量が必要なものではない。
水筒レベルでいいのなら、朝食後で十分だ。
部屋の片づけとか、そういったものを終わらせて、いつも通りに届けられる朝食を運び、オルヴェ先生と食べる。
「今日も体調は問題ないのか?」
「はい、ちょっと寝つきがわるかったんですけれど、気持ちが悪いこともないです」
素直に答えると、オルヴェ先生が苦笑いした。
「さすがに人と人の関係については、医者の出番じゃないからなぁ」
「え……」
寝つきがわるいと言っただけで、人間関係という単語が出てくるって……え、まさか先生。そんなまさか。
ぼうぜんとしていると、オルヴェ先生が首をかしげた。
「寝つきが悪いのは、団長とフレイのことだろ?」
「えっ、ええええええええ!?」
叫んでから「しまった!」と思う。これではそうだと白状したようなものだ。あわてて私はとりつくろった。
「な、何のことでしょう? 私は今日の火竜討伐のことが気になって……」
「団長が、火竜を追いかけるよりもお前さんを拾うことを優先したんだってな」
……私は口をつぐんだ。
みんなそのことには触れないみたいだったし、普通に森にいた私を発見して、拾ったんだと解釈してくれてたんだとばかり……。
でもオルヴェ先生は違った。
「火竜が森から離れたんだ。お前の危機は去ったはずなのに、わざわざ拾うんだから、よほど心配だったんだろう」
「…………」
私は口を閉ざした。いや、ご飯を食べるふりをして、何も言わなかった。
「フレイとは、なんだか手を繋いでたという話を聞いたが」
「むぐげふっ!」
口に入れたパンでむせた。慌ててスープを飲み、それでも咳が収まらないのでお茶を飲む。
目に涙を浮かべながら苦しむ私に、オルヴェせんせいが生ぬるい笑みを浮かべて「ゆっくり食えよ」と言う。
先生のせいです! そもそも一体誰に見られていたんでしょうか……。城門の前で、ちゃんとフレイさんには離してもらったのに。
聞きたいけど、聞けば認めたことになってしまう。
困って黙るしかない私に、オルヴェ先生が笑った。
「見張りの中には、遠見の技が使える人間もいるからな。今度は気を付けろよ?」
「……ご忠告、痛み入ります……」
そうだった。遠見の技がある。騎士というよりは竜使いスキルで……。そうだ。飛びトカゲを操れる人は、竜使いスキルを持っているんだった。
うかつ……!
見られていたと思うと、残りの食事が喉を通らない。
それを見て、オルヴェ先生が「からかいすぎたか?」と言って笑う。
「フレイのを見たのは一人だ。俺にしか話していないはずだから、そっちは気にするな。それよりお前がしっかり食事もしないまま、討伐に行く方が困るからな」
そう言われて、少しは肩の荷が下りた気がした。
でも恥ずかしい……。先生に見られてたなんて……。
なんとか目の前の食事を口に詰めたけれど、胃がもたれそうな予感がした。
それはさておき、今日は討伐に行かねばならない。
朝食後はさっそくお茶を作った。
「火竜さんは甘いのが好みかな……? シナモンが嫌いじゃないといいな。苦手な人もいるみたいだし……でも入れちゃうけど」
鍋にたっぷりとミルクを入れて、紅茶を煮出す。
ふんわり香るやわらかいミルクと紅茶の香りが、とても素敵だ。そこにスパイスとハチミツを入れていく。
ミルクと同じように、約五倍の分量で混ぜたけれどいい香りがする。
確認したら、ちゃんと作成できていた。
《チャイティー。効果:心がゆるくなる(強)。スキル練度+35》
「よし」
私は用意した水筒に、でき上がったチャイを入れて行く。しっかりと蓋を回して閉めてから、それぞれに同じだけ魔力を込めた。
予定通りMP8000分。五つで4万ほどMPが減ったけれど、まだ6万あるので全然平気だ。
お茶を完成させて、私は外出着に着替える。
今度は竜に乗せてもらうとはいえ、飛びトカゲほどではなくとも空を飛べば寒い。さらに今回は、火竜の動きを封じるため、氷の精霊力に満ちた場所へ行くのだ。極寒の地だと思った方がいい。
スカートの下にはしっかりとズボン。靴下にブーツ。
厚手の服にコートを着た上で、マントを羽織る。手袋も装備した。
そして袋に入れたお茶入りの水筒を抱えて、外へ出た。
窓の外に、竜が降りてくる姿が見えたのだ。
中庭に、既に今回出発する騎士が集合していた。
見れば今回は寒い場所だからか、みんなきっちりと着こんでいた。コートの上からマント姿の人がほとんどだ。
団長様も厚手のコート姿で、いつもとちょっと違った感じがする。
銀の髪って、雪景色に同化しそうだな……。きっと雪原で埋もれたら、団長様が一番発見が遅れるに違いない。なんてひどいことを考えてしまう。
そんな方向に意識をそらさないと、とても普通に話しかけられないんです。お察しください……。
「団長様! 準備できました!」
水筒を抱えて行けば、団長様もいつも通りに冷静そうな表情で応じてくれる。
「よし、それをイーヴァルに預けろ。お前は竜に乗れ」
うなずき、私は自分で竜のヴィルタに挨拶をして乗ろうとしたのだけど。
「ひっ!」
いつも通り、団長様に無言で竜の上に乗せられたのだった。
とにかくそうして、私達は火竜の元へ出発した。




