訪問のご連絡を入れました
その夜。私は早く眠った。
団長様との出来事を思い出しては脈拍が上がって苦しくなり、フレイさんとのことを思い出してしまっては、壁に頭をぶつけ、その果てに起きているから考えるんだ、と結論を出したからだ。
疲れていたのか、私はするりと眠りに落ちた。
でも起きたのは、まだ空が白みはじめた頃だ。日の出の前だった。早すぎる。
それでも、眠る前よりは落ち着いた気がする。
まぁ冷静にというより、なんか、夢の中の出来事として意識から少し遠ざけたような気もしなくはない。
「一体どうしてこうなった……」
なんとなく、二人ともがとんでもないことを考えているっぽい気配はする。それは感じているけど、理由がわからない。
「こんな地味で、別に綺麗な令嬢でもないし、あげくねじまきおもちゃ扱いなのに、なぜ」
嫌われるよりずっといい。私だって好かれたい。
だけど待って。私は魔女だ。
私と仲良くすると、子供の嫉妬なんかによる嘘で仲間はずれになるとかじゃなく、後々リアルでマズイことになるんです。
「特に団長様! どうして知ってるのに……」
まさか気にしていない? そんなわけないよね?
「いや、可能性はある……まだ可能性は捨てられないぞ。だって団長、私が白状した時もそんなに驚いていなかったもの」
魔女だとか言っても、バレなければ問題あるまいとか考えてる? いや、団長様がそんな軽い調子で考えているわけがない。私じゃあるまいし。
「教会に圧力をかけられる立場を利用して、何かあれば潰す気だったりとか? そっちの方がありそう……」
だとしても、団長様に負担をかけることには違いない。それは私の本意ではない。
ペットのつもりでやってるにしても危ういけれど。
そしてフレイさんはもっと深刻だ。あれが、感謝とか挨拶的なもの以上の意味がないことを祈るしかない。
いや、感謝する必要もないことで、私の方がお世話になりまして……って感じなのだけど。
「ふーっ」
ため息をつく。とにかく二人のことから意識を離そう。
現実を思い出すことができないのは困る。
これから切羽詰まった事情を解決するため、戦闘も辞さない状況になるわけで。
「火竜と戦うっていう時に、ふぬけていられない! でもどうやって……ん?」
そうだ、と思いついて。私はモーニングコールをすることにした。
ステータス画面をオープン。
チャンネルDをスイッチオン。
《火竜:……………》
何もしゃべっていない。いや、山の中で寒い方の霜ふり状態で、独り言つぶやいてるっていうのもこわいけど。
一人きりで寂しいかもと思いつつ、私は咳払いして話しかけた。
「もしもし、先日ご連絡した者ですが。火竜さん、お加減いかがですか?」
《火竜:き……きさまっ! いつまで連絡して来ない気かと思ったわ! とんでもない人間め!》
返事から、お怒りの気配を感じます。
「あれ、まさか再連絡をお待ちでしたか? それは申し訳ないことを……」
《火竜:自分だけ言いたいことを口にして、一方的に会話を切るなど、わしを誰だとおもっておるのだ!》
「火竜さんですよね?」
《火竜:そういうことじゃなかろう! うわあああ腹が立つぅぅぅぅ!》
火に油を注いだ様子。
普通に目の前にいたら焦るところだけど、文字のやりとりはすばらしい。私は火竜さんのお返事を読み直す余裕もあった。そして気づく。
「すみません。待っていてくださったんですね……。私にも事情はあったんですが、寂しい思いをさせてしまいました。そこは謝罪します」
《火竜:もうやだ……わし帰りたい……》
なんか、泣き声が聞こえてきそうなお返事が来た。
どうしよう、いじめたつもりはなかったんだけど。と思ったら、腐っても火竜だった。
《火竜:くそっ、お前などひと吹きで滅ぼしてくれるわ》
殺害予告をされてしまった。そしたらこちらもお返事をしなくては。
「あ、私の方もあなたが他の魔女とした契約、破棄させてもらいに行くので、心づもりをお願いしようと思っておりました。目途がたちましたので」
《火竜:腹立つうううううううう!! 抹殺する! お前だけは許さない!》
「どうしました。血圧高いんですか?」
《火竜:お前のせいだああああ!》
「安心してください。契約を破棄できれば、すぐに家に帰ることもできます。その方が火竜さんのお望みに叶うのではありませんか?」
火竜にとっても悪いことは言っていないはずなのだ。どうしても火竜が実行しようとしたら、団長様達と死闘になった後でタナストラに攻撃したあげく、火竜さんは死亡とあいなるのだ。
それを回避した方が、火竜さんもハッピー。私もハッピーでいいことづくめですよ。
《火竜:その故郷を取り戻すため、わしは契約したのだと言っておるだろうに……》
叫び疲れたのか、火竜さんがようやく落ち着いて返事をしているようだ。
「火竜さんのご実家は、タナストラにあるのですか?」
《火竜:人間のことなど知らんわ。とにかく人が、我の住処から火を奪ったのだ》
そうして住めなくなった、と。
私は家に繋がる電線を切られて、真冬に凍える様を想像した。
「工事……いえ、その火を戻せば家に帰宅できるのですか?」
質問については、火竜はしゅんじゅんしたように数秒黙り込んだ。
《火竜:……詳細は、別の魔女との契約が破棄されない限りは、話せんな。》
なるほど。どうあっても力づくで、契約を解除させねばならないと。
「わかりました。では後ほど訪問しますので、よろしくお願いします」
《火竜:襲撃予告とは不遜な……》
殺害予告よりマイルドだと思うのだけど、だめだったか。
そんなことを思いつつ、私はチャンネルボタンを押して、通信を切ったのだった。




