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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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それは後悔ではなくて1

 遠ざけられた。

 厳しい言葉に、一瞬、風も止まったような錯覚があった。

 そして私は団長様のややキツイ表現を思い出す。


 ――お前の様子を観察させる役目から外した。


 団長様は、私に見守りが必要なくなったからだ、と説明を加えたけれど、フレイさんとの間では、もっとシビアな話があったみたいだ。そういうニュアンスを感じる。

 詳しい理由については、詮索するべきではないんだろうな。団長様とフレイさんの間のことだもの。

 遠ざけられるというマイナスな出来事を、フレイさんだって話したくはないと思う。

 そう思って、別な話題を探そうとしたんだけれど。


「仕方ないね。他人のものに手を出したように見えたんだろうから」


 フレイさんは笑ってそう言った。


「他人のものって一体……」


 口説き文句みたいなことを言って、冗談ですよね? と言おうとして……私は血の気が引きそうになる。

 え、まさかペット契約のことをご存じで……? どこかでフレイさんに気取られるようなことした?

 契約の時以外は、わりと普通だったはず。ということは、ダンジョンでの魔法を、フレイさんはなんらかの形で感知していたとか?


 これはまずいと思った。

 団長様がそんな魔法を使ったとなれば、団長様のお立場が……。


「どうしてそこで、怯えた顔をするんだろうね。本当に君は変な人で、面白いよ」


 動揺していると、フレイさんになぜか笑われた。


「な、何か変ですか? それに私は物じゃありませんし」


 む、変だといって笑うのだから、契約の魔法のことではなかった? それならいいんだけど、そうするとフレイさんの言葉の意味がちょっとこう、本気で受け取るわけにはいかない種類に。

 頭が混乱している私に、フレイさんが歩きながら驚くようなことを言い出す。


「物だったら、綺麗に飾っておけるんだけどね。君が生きている人なんだということは重々承知だよ」


 私は驚いて足を止めかけた。だけどフレイさんが歩調を変えないので、慌てて後を追う。ショックを受けたら、ものすごく意識してるって思われるのが嫌で。

 綺麗に飾っておきたいだなんて、たぶん、口説き文句みたいなものだよね?


 心臓がばくばくする。

 フレイさんを好きとかそういうのではないと思うけど、誰だって異性に思わせぶりなこと言われたら、こんな風になるよね?

 もしかして自分のことを好きなのかなとか。うぬぼれたくなって、でも恥ずかしくて。

 いやいや。私みたいなのを置いておいても、綺麗な服を着せても服に申し訳なくなるだけだ……。想像しただけで、さらし者にしかならないだろうなとわかる。そんな自分にちょっぴり涙しそうだ。


「君は、あまりに自分のことが良く分かっていないだけだと思うけど」


 フレイさんはさらに追い打ちをかけてくるけど、正直受け入れがたい……。

 あれじゃないですかね。

 こう、親なら自分の子供がとても可愛くみえるような現象。フレイさんも私の面倒をみすぎたせいで、世界一可愛い鶏ぐらいに思えてるだけでは。


 あ、でも鶏なら綺麗に飾ったら可愛いかも?

 鳥になった自分を想像したら、ちょっと落ち着いた。おかげでするっとお礼が口から出てくる。


「お世辞をありがとうございます。さすがに「そうですね」なんて言ったら、私、方々から石を投げられそうですし、そんな風に自信を持っていいのは、メイア様みたいに万人が認めるほど綺麗な人ぐらいでは」


 お人形のように美しいメイア嬢なら、白亜の王宮の一室で、真珠のように輝く淡い海のような色のドレスを着せて座らせておくだけで、ものすごく映えるだろう。

 想像するだけでため息がでそうになる人というと、どうしてもメイア嬢が思い浮かんでしまう私だ。


「貴族女性はね。褒められる美しさを身に着けることを要求されて、小さい頃から育てられるから。君の良さは、それとは少し違うかな。例えば……ねじを巻くと踊るような感じかな」


 褒め言葉……なのかな? 微妙に違いそうな感じがするけど、でもその方が肩の力が抜ける。

 面白おかしいと言われた方が落ち着くのだもの、仕方ない。


「私が変なことをするのを、見て楽しみたいってことですよね?」


「そういう部分もあるかな。団長もね、たぶん同じだよ。お気に入りの君のことをとられたくなくて、俺のことを引き離したんだろう」


 団長様のお気に入りという表現をされると、どうしても竜に乗っていた時のことを思い出す。

 甘い言葉をいくつもかけられて、私の頭が溶けそうだった。

 きわどい話をされて、私はどうしていいのかわからない。自分のことじゃないみたいだ。

 引きこもりのユラが、何か恋愛物語を読んで、良い夢でも見てる途中だったりするんじゃないかな。

 そんな私の感情も、フレイさんは承知の上のようだ。


「君はこういう話になると顔を赤くはするんだけど、逃げたそうにするよね。でも、今日は君に聞いてもらいたいから、途中で止めないよ」


「な、何のお話ですか?」


 フレイさんの話を聞くのはやぶさかではないけれど、でも一体何を言うんだろう。

 怖い気がして逃げたくなるけど、その前にフレイさんが言った。


「ああでも、もう町の中だ。まずは買い物を済ませたらいいよ」


 言われてみれば、城からの下り坂を降りきって、町の中に入ろうとしていた。

 人の姿も沢山見えるので、確かにこんな話はしていられない。

 だから買い物を優先させたのだけど。

 香辛料だけしか買うものがなかったし、町も火竜の出現のせいで騒然としていた。だから早々に町を離れることにする。


 でも、フレイさんの話が再開されると思うと、落ち着かない。

 改めて聞いてもらいたい話ってなんだろう。

 正直怖い。

 聞いたら何かが変わりそうで。

 いっそこと、なにかうかつなことをやらかしてて、怒られたりする方がマシじゃないかなとか、ぐるぐると考えてしまう。


 でもフレイさんは、帰り道の途中までは何も言わなかった。町を出てすぐにも、何も言わなかったので、言うのをやめたのかと思ったけれど。

 途中でふいに、フレイさんに手首を掴まれた。

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