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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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団長様を訪ねようとしたら

 お茶の効果は弱めたはずなのに、ちょっと気持ちがふわふわしている。

 でもそのおかげで、団長様に会うことに緊張しなくなった。お茶の効果はすごい。


 でも、団長様の執務室の近くに来たところで、ふっとイーヴァルさんがいたら話しにくいなと思った。けれど、そこは、内密の話だと言えば団長様が配慮してくださると思う。

 ……あとでイーヴァルさんに嫉妬されそうだけど。


 なんて考えていた私は、団長様の執務室から出て来た騎士さん二人と鉢合わせた。

 喫茶店にも何度か来てくれている、第三部隊の隊長さんと副隊長さんだ。隊長さんは角刈りの髪型をした、茶の髪に茶色の目の、スポーツマンらしい雰囲気の人だ。第三部隊がラグビー部っぽく見えるのはこの隊長さんの影響かもしれない。


「こんにちは」


「ユラさんか、今日は団長に用が……って」


 しかし隊長さんは、私の手に気が付いてしまう。

 あ、覆ってたハンカチが、表にまで血がにじんでる。いけないいけない。


「怪我をしているのか?」


「え、ユラが怪我だって!?」


 二人が驚きの声を上げると、廊下の向こうにいたらしい騎士さんまで寄ってきた。その姿を見たのか、さらに階下からも何かあったようだと、三人ぐらい騎士さんが上がってきてしまう。

 え、ちょっと待ってください。どうしてみんな集まるんですか。


「ただのかすり傷ですよ。全然ひどくないので気にしないでください」


 笑顔でそう言ってみたけれど、騎士さん達がなぜか引いてくれない。


「いや、小さい傷を放置するのは良くない。回復魔法が使えないのかい?」


「まさかお茶を淹れすぎて、魔力を温存するくらいまで使いきったんじゃ?」


「そんなことありませんから、ね? あの、私は団長様に用がありますので、ここで失礼を……」


 私は団長様をダシにして、退場しようとした。

 けれどそうは問屋が卸さなかった。


「治していきなさい、ユラちゃん」


「そうだ。俺が回復魔法かけてやるから」


 そう言われ、逃げようとしたところを腕を掴まれてしまった。

 こうなっては観念するしかない。


「ヨロシクオネガイシマス……」


 血はハンカチがあるから、なんとかなるだろう。そこに気づいたので、治すのに同意する。

 周囲の騎士さん達がほっとしたような顔をした。それから第三部隊の副隊長さんが回復魔法をかけた。

 思ったより深かった傷に小さな光がまとわりついて、するりと治って行く。乾いた血だけがついてしまっているけれど、そこは拭えばいいことだ。


 仕方ない、と思ったところで私は気づく。

 ……効果を抑えたはずなのに、私、判断力までふわふわ気分でおかしくなってた? 考えたら、ハンカチに血をちょっとつけておいて、傷を治して団長様のところへ行けば良かったのに。

 なんにせよ、騎士さん達にはご迷惑をおかけしてしまった。

 私はお礼を言おうとした。


「ありがとうござ……」


「何の騒ぎだ」


 人が集まってわいわいしすぎたみたいだ。執務室の扉を開けて、団長様が出て来てしまった。

 そして私を見て断定する。


「原因はユラか……」


「え、それちょっとひどくないですか?」


 何も聞かずに原因と言われるとは。いや、間違ってないですけど。

 すると周囲の騎士さん達が、言い訳がてらに状況を詳しく説明してしまう。


「ユラが怪我をしたまま歩いていたんですよ」


「指を切ったみたいで。喫茶店の業務で、ナイフでも使ったんじゃないでしょうかね」


「だから治しただけでして」


「あ、俺は野次馬です」


「俺も野次馬です」


「私も」


 いつの間にか、洗濯物を戻しに来ていたらしい、洗濯場のおばさんが一人紛れてた。

 あああ! こっそり実行する計画が、無しになった! しかもこれじゃ、ヘルガさん達にも私の失敗談が広まってしまう。

 これはダメだ……。

 うなだれる私に、さらに団長様が言う。


「そうか、話があるのかユラ。それなら話してもらおうか」


 目が座った団長様が、私の腕をがしりと掴んだ。

 私はしおしおとうなだれて執務室へ連れて行かれた。

 扉を閉めて、私はようやく気づいた。

 あ、今はイーヴァルさんもいなかったんだ。これは惜しいことをした……。誰にも会わなかったら、剣の魔力を回復させる計画が、上手く行ったはずなのに。


 心の中で「るーるるー」と悲しい音楽を口ずさむ。

 そんな私を扉から離れた場所まで引っ張った団長様は、さっそく尋ねてきた。


「で、なぜそんな怪我をした? お前ならいくらでも治せるはずだが」


 そう。他の騎士さん達はよくわかっていないけれど、団長様は知っている。私がナイフでちょっと切ったぐらいなら、すぐに治せることを。

 だから不審に思ったのだろう。怪我をしたまま来たことを。


「その、これには深いわけがありまして」


「どういうわけだ」


「火竜の件に関わってですね、どうやらなんとかできそうな道がちょっと見えてきまして。それにどうしても必要で」


 肝心のことを口にしたくないせいか、無意識に遠回しな言い方になってしまう。


「それで?」


 団長様は無情に、先を促した。


「あの、火竜に特性のお茶を飲ませることで、火竜に契約を取り消させることができるみたいなんです」


「しかし茶をどうやって飲ませる?」


「そのために、団長様の剣の力が必要なのです」


「剣の力?」


 団長様に、私は自分が思い描く筋書きを語った。


「まず、団長様が剣の力で火竜を抑えつけます。私のお茶を、誰かが火竜の口に投げ込んで、飲んだら、私がすぐに火竜をあやつって、さも団長様が言うことを聞いた風に見せかけます。これで火竜が大人しくなったのは団長様の剣と、お茶でちょっと大人しくなったおかげ! やった魔女だってバレないよ! と見せかける作戦を思いつきまして。そのために団長様の剣の力を少しでも回復させようと思ったのですが……いかがでしょう?」


 尋ねる前に、団長様が自分の額をおさえていた。


「計画自体はそう悪くはない。とりあえずお前がむやみに前に出ず、魔女だとわかりにくい方法なのは評価する」


 お、やった。でもなんでそんな嫌そうなお顔をしていらっしゃるので?


「だが、お前が自分の指を傷つけた理由がわかってきたぞ」


 団長様が額に触れていた手を離し、じっと私を睨む。


「剣にお前の魔力を、直接与えるためだな?」


 ……大当たりです。

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