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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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竜に契約をクーリングオフさせるためには

 クッキーの量を確認。

 パンケーキの材料も揃っているから大丈夫。

 私はパンケーキの作成にかかった。


 紅茶は私が新たにヘデルから直接作ったお茶だ。細かくして、小麦粉とミルク、砂糖を練ったものに混ぜて行く。

 フライパンにバターを入れてまどの上に載せると、じゅわっと溶けて香ばしくもまったりとしたバターの香りが広がった。

 作ったパンケーキ種をそれで焼き、三枚用意。

 お皿に盛って広い作業台の上に置いた上で、私はクッキーをかまどにいるゴブリン精霊に使った。


 私が手を離す前に、ゴブリン精霊がクッキーに飛びついて来る。

 私の指ごとクッキーを抱きしめて、やだ、かわいい……。

 ゴブリン精霊は温度が低いので、葉っぱに触れたような感じがする。火の精霊だから熱いかと思ってた。

 ちょっと思考停止しかけたけれど、ゴブリン精霊の「お願いなーに」のフレーズで正気に返る。


「ソラを呼んでくれる? 貢物は用意したから」


「みつぎー? エサかな? いいよー」


 ゴブリン精霊は右手の親指を立てて『グッジョブ!』の仕草をすると、ひゅーっと指笛を吹くような仕草をした。

 そのとたんにぞろぞろと、かまどの中からゴブリン精霊が現れる。

 そうして前回のようにソラを呼び出すと、ぱっとその姿を消したのだった。


「ユラ、呼んでくれてありがとう」


 町の人の中に、ゴブリンが紛れていたような姿をしているのに、ソラが穏やかな声でそう言うと、紳士的に聞こえるのはどうしてだろう。物腰なのかな。


「今日は何をしてほしいんだい? 竜が来たことに関連するのかな?」


 ソラはもう、火竜が来ていることは知っているみたいだ。


「その火竜について、聞きたいことがあるの。魔女と火竜の契約を打ち消す方法がないか、知っている?」


 火竜は契約をしているから、タナストラを攻撃しようとしているのだ。だから契約を破棄させてしまえば、火竜が攻撃をする必要はなくなる。

 まずそこをクリアしなくてはならない。


「一番いいのは、君の魔力でその契約を強制的に打ち切ることだね」


 あっさり力業を提案されてしまった。


「え、できるの……?」


 私の魔力で、相手の魔女の契約を打ち消すだなんてことが。

 ソラはうなずいた。


「できるよ。ただそれを実行するのが難しいんじゃないかな。ユラの場合は、まず竜にお茶を飲ませなくてはならないだろうからね」


「あ……それはまた、とんでもなくハードルの高い……」


 火竜にお茶を飲ませるとなると、壊れやすい水筒かなんかにお茶を入れて、火竜の口の中に放り込むぐらいしか思いつけない。

 ただそれをやるには、火竜が口を開けてくれること、動かないことが必須だ。

 騎士の誰かに頼むとしても、かなり火竜に接近することになるだろうし。

 今のうちに突撃したところで、身動きできないけれど、火竜は賢いので口を閉じてしまうか、ブレスで水筒ごと焼き落とされてしまうんじゃないだろうか。


 力で抑えつけて……となると、団長様の剣の力でもないと難しそうだ。

 でも団長様の剣の力が復活するのを待つと、火竜はあの山から飛び立ってしまう。


「もっと火竜を身動きできないように……。氷の力だけじゃ、難しいみたいだしなぁ」


 身動きが取れない間、氷の精霊の力は火竜を拘束しているわけではない。

 回復を遅らせているだけなのだ。


「もっと早く、団長様の剣が回復できれば可能なんだけど……」


 たぶん、普通に倒そうとしたら、ゲームのように死の間際にむやみやたらに攻撃をまき散らし、結局はタナストラに攻撃してしまうだろう。それでは元も子もない。


「半分ぐらいを回復できればいいのなら、君には手段がある」


「どうやって!?」


 驚く私に、ソラはゴブリン顔で爽やかに微笑んだ。


「君の魔力を、リュシアンの剣に与えればいい」


「魔力を……与える……」


 言われて最初に思いついたのは、


「剣の紅茶浸け……?」


 樽一杯の紅茶に、回復するまで剣を浸けておくという方法だった。でも剣って、紅茶の魔力を吸収できるの? さすがに無生物には無理だよね?


「いやいやユラ、それじゃちょっと難しいんだ」


 ソラはなんでもないことのように、解決法を教えてくれた。


「剣に君が直接魔力を与えればいいよ」


「剣に……てことは、お茶みたいにしたらいいのかな?」


 剣を握って魔力を込めるのなら、団長様にわけを話せばすぐにできるだろう。

 と思ったのだけど、そうは簡単に問屋が卸さなかった。


「あの剣は精霊そのものだから。水のようには与えられないんだ。だから……一番効率がいいのは、ユラが口づけることかな?」


 なんですと!?


「え、あの、ソラさん、他にいい方法とかないんですか……?」


「人間が口づけにためらいがあるのは知っているけれど、剣だよ?」


 なぜためらうのか理解できないと、ソラは首をかしげた。

 不思議に思われても仕方ないけど、でも、今は普通の状態じゃないんです!

 だって団長様が、ついさっきあんなこと言うから……。できれば会うのも緊張するので、逃げ出したくなるんですよ。

 必要とあればやるけれど。


 でも剣に魔力を与えて、使えるようにできるみたいなんですーと言うだけならまだいい。そこに追加される説明がいけない。


「口づけさせてくださいって言えない!」


 めちゃくちゃ恥ずかしい! たぶんこれ、団長様が普通の状態だったとしても言うのためらうよ?


「でも他の方法……。君の血を刃に塗るとか? リュシアンはいいと言わないんじゃないかな?」


「ぜひそっちの方法を使いたいです」


 私は即答した。剣を抜いてもらって、ぺっと私の血をくっつけたらいいんだよね? キスするよりずっといい。


「本気かい?」


 ソラにものすごく不安そうな表情をされた。なぜだ。


「先に怪我して行けば、団長も今さら嫌だとは言わないだろうし、血を塗るだけでいいのよね?」


「塗った上で、魔力を込めるんだ」


「オーケーオーケー。それならまず大丈夫!」


 それで団長様の剣が少しでも使えるようになるなら、お茶を飲ませることも可能だろう。


「竜に飲ませるお茶も研究するといいよ、ユラ」


 なんだか諦め気味の表情でソラが助言してくれる。


「導きの樹の精霊みたいに覚醒が必要ではないけれど。君の力を竜が受け入れやすいお茶にするべきだろうね。つい『うん』と言ってしまうような感じで」


「ついうんと言う……」


 ほわっとした気持ちになればいいのかな?


「あと、竜はたぶん君のお茶の効きが悪いと思う。強い効果にしてもいいと思うよ」


「それなら心当たりがあるかも。ありがとうソラ!」


 私はさっそく実行することにした。

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