火竜対策を練ってみる
すぐに意識が団長様のことに戻ってしまいそうなので、私はお店を開けることにした。
一人でじっとしているのは良くない。
だって結論の出ない堂々巡りで、頭の中がいっぱいになるもの。
とはいえ、お店に人が来るわけもない。
騎士さん達は、火竜の討伐準備で大忙しだ。
だから来る人と言ったら、この人ぐらいだった。
「ところで、炎を防げる茶なんてものはあるんですか?」
今日もヘデルを納品に来たイーヴァルさんに、そう尋ねられた。
「炎耐性がつくお茶はあるにはありますが、火竜の炎に対抗できますかね?」
もうちょっと強くない魔物の炎なら、怪我を抑えることができるだろうけど。あの火竜のブレスを想定しているのなら、上級魔法の精霊の盾一択ではないかなと。
実際にブレスを防いだ身からすると、そう思ってしまう。
「やはり茶では効果が弱いですか……」
「一応研究はしますが、間に合うかわかりません。なので、魔法の方がよほどいいかと思います」
「なるほど。確かにそうでしょうね。一応模索をお願いします。第一陣が明日には出ますが……」
「わかりました」
イーヴァルさんはヘデルの料金を受け取ると、うなずいてすぐに立ち去った。
それでもイーヴァルさんと竜の話をして、気持ちがよりそちらにリセットされた気がする。
団長様の剣の力が使えない以上、通常戦力であれを倒さなければならない。
だからイーヴァルさんも、何かしら騎士達の防御力を補強できるものがほしいのだろう。火竜のHPは削るの大変そうだからなぁ……。
私ゲームでは別の騎士団に所属してて、火竜が通り過ぎたことで現れた、魔物退治の方をやってた。だから詳しくはわからないけれど。おそらく火竜の方がハードモードだろう。
「たぶん、ブレス以外にも何かしらの魔法攻撃とかもあるだろうし」
ネットの話で、火竜がばら撒く火の粉に当たると、後の全体攻撃ブレスでダメージが倍増するとか。ブレスを五回以上吐かせると、足場が一定時間で少しずつ削れるとか。うっかりその範囲にると落ちるとか聞いたことが。
せめてそれだけでも伝えなければならない。だって、ゲームと違ってリスタートとかできるかわからない。
それを伝えるなら、団長様だ。精霊に聞いたと言って話せば、いけるだろう。
「うううう……」
くそう。またさっきのことを思い出してしまった。
「今は忘れるの。きっと団長様だって、そんな本気じゃ……」
元々、ああいう事柄については言葉選びがおかしいから、あれもその延長……。だけど口づけはどう考えたらいいかわからない。
本当の犬猫だったら、私だってちゅーしてしまうけれど。でも私人間だし。ペット扱いの契約する時だって、団長様は私が人間だから、この魔法を勧めるのはためらっていたぐらいだし。
「だめだめ。せめて団長様が何か言う時が来るまでは、ペットと勘違いしたと思え私」
両頬を手でぱちんと叩いて、思考から団長様のことを追い出す。
そう。団長様がそういう気持ちだと言ってくれない限り、私だけ浮かれて想像して、空回りするだけになってしまうもの。
頬を叩いただけでは効果が弱かったので、お茶を淹れて飲み、気を取り直す。
「……ええと、他の方法もあるといいんだけどな」
火竜は魔女に呼ばれたとはいえ、操られているという感じではなかった。ということは、導きの樹の精霊にやったみたいに、お茶で状態解除をすることもできない。
せめて力を弱めることができたら、楽に戦えるし、犠牲も出さずに済むと思うのだけど。
だって蘇る魔法なんて、聞いたことがないもの。
「そもそも、どうやって呼び出したんだろう」
魔力を使って、ここに来いと誘導した?
それだけだったら、団長様にあれだけのことをされたら逃げて行くと思うし……。
何か、取り引きをしているんだろうか。それなら魔女が差し出した代償に、見合うものを与えられれば立ち去る?
「そもそも取り引き材料もわからないんじゃなぁ……。あと火竜を説得できるかどうか」
火竜は思いきり殺る気満々だったもの。話を聞いてくれそうに見えない。
誰もいないのをいいことに、私はステータス画面を開いて色々と考える。
お茶は上位効果のお茶のヒントなんかを見ても、まだ炎耐性のお茶を作った方が早そうに見えた。……これは後で作業してみよう。
「あとは私が倒しに行くか……」
これはクエストだから、私が動くのなら、ソラに行って精霊さんプレイヤーを連れて行くことは可能だろう。精霊さんなら、足場が崩れても落ちそうにないし。炎の精霊が盾役をする分には、ダメージを受けないだろう。
ただそれで本当に倒せるかな。
こっそり山へ行けるかどうかもわからない。
あと魔女と対決する前に、私が魔女だとバレてしまうのも困る。それまでは騎士団にいなくては。
それに私がここを出て行くまでの間に、お茶の普及をしなくては。行商人さんには売ったので、次は町でも売ってもらいたい。
なにより団長様が許可してくれるかどうか……。
「うううう」
唸りながらステータス画面を見ていると、ふとチャンネルDの色が変わっているのを見つけた。
いつもより、淡い色の変化なのですぐ気づかなかったみたいだ。
「え、これってまさか、交信可能?」
とにかくボタンを押してみた。




