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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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フレイさんの様子がいつもと違いました

「あ、こんにちは。巡回はお済みになったなんです……ね……」


「ユラさん」


 ややこわばった顔をして近づいて来たフレイさんは、巡回から戻ってすぐのようだ。

 飛びトカゲに乗ったのだろうか、金の髪がやや乱れて、そのぶんだけこちらを見る目を険しく感じる。

 あ、これヤバイやつ。

 すぐに察した。たぶん私の今日のおでかけのこと、もう知ったんだ。

 案の定、フレイさんはさっそくそれについて口にした。


「今日は一人で森へ行ったと聞いたよ? 私には今日はどこへも行く予定はないと言っていたのに」


「ええと、急に気が変わりまして……。けど、きちんと団長様にも許可をとりましたし」


 答えながら私は一歩下がる。


「私も故郷では森や山に入ったりもしていたので慣れていますし」


 さらに一歩下がる。

 でもその度にフレイさんは距離を詰めて来た。


「それに魔法も使えるようになってますので、一人で町の人が出入りする森ぐらいなら平気でしたよ? 子供でもないですし」


 しまった、もう下がる場所がない。

 窓際に追い詰められた私は、フレイさんの動向をうかがうしかなかった。

 過保護になったフレイさんのことだから、私が森へ行きたいと言っても一緒に行くと言っただろう。でもこうして置いて行けば、フレイさんはきっと不安から過保護を加速させそうで、私の行動範囲が狭まりそうなのだ。

 なので無事に戻れた後になってから、団長様からフレイさんにお話してもらう手筈だったのに。どうして先にバレたんだ。


「子供だったら団長も許可しなかっただろうにと思うと、なんとも言えない気分だね」


 フレイさんは私のすぐ前に立つと、壁に手をついて言う。


「君が子供じゃないのはわかっているんだ。ご令嬢のように扱うこともできない。けど君の事情から、町の女性と同じように扱うわけにもいかない」


 困っているんだよね。

 フレイさんはそう言いながら、じっと観察するような目をして私を見下ろす。

 私はそこに違和感をおぼえた。まるで私の答え方から、何かを探ろうとしているみたいだ。


「しかも特殊な状況にある上に、とんでもないことをやらかす人だからね」


 そう言って頭に手を置かれたけれど、フレイさんの手が冷たい……? まるで緊張している人みたいに。


「森へ行くのは大丈夫かもしれないけれど、人助けをするのは慎重に考えるようにね。魔法を使えるのはわかっているんだ。だけど巡回で打ち漏らした魔物が強い場合もあるし、反撃をされた時に対応できるかわからないだろう?」


「あ、はい」


 フレイさんが気になったのは、ヨルンさんを助けるために魔法を使ったことのようだ。


「はい、気を付けます」


 素直にうなずいたものの、フレイさんの表情は変わらない。というか少し固い?


「それでユラさん。何の魔法を使ったんだい?」


「あ、火球の魔法を……」


 本当のことは言えない。

 まだ中級魔法が使えることは、団長様しか知らない。そして魔法書を持っていることを他に知っているのは、団長様が秘密を墓に持っていけと言えば従うイーヴァルさんだけだ。


「なるほどね」


 うなずいたものの、フレイさんの表情が変わらない。どうして?

 やっぱり今日のフレイさんは何かおかしい。昨日もなんだか沈んだ様子だったなと感じていたけれど。体調が悪いんだろうか。

 疑問が浮かんだけれど、すぐに吹き飛ぶ。


「森へ行くのはわかったし、団長が許可した以上は私は何も言えない。けれどもう少し大人しくして、心配させないで欲しいんだけどね」


 ため息をつきながらうつむいたフレイさんが、脱力するように背中を曲げて私の肩に額をくっつけた。


「フレイさ……」


「約束してくれたら離れる」


 う……。約束なんて無理だ。私がやろうとしていることは、ことごとくフレイさんの意に反する。団長様の意にも。

 だけどこの体勢! さすがにまずい。よくない。

 この世界の人の感情表現は、いうなれば欧米か! な要素が多いから、家族じゃなくても感動したり泣いていたらら、抱きしめたりすることもあるくらいだけど。

 今はそういう状況じゃなくて。


 それにフレイさんはたぶん、離れてほしければいうことを聞けと言ってるんだと思う。

 だからこれはようするに、フレイさんは自分の行動の影響をよくわかっていてやっているんだ。私がドキドキしてしまうことも。焦って逃げ出したくなって、むやみに約束するだろうことも。

 だけどフレイさん。私もずるい人間なんです。


「大人しくします……」


 あっさりと口先だけの約束をする。

 私の言葉を聞いて、ようやくほっとした表情を浮かべるフレイさんを見ると、胸が痛い。心配してくれているから、こんなことをするんだと思うから。

 なにせ、あまり時間が経たずにバレてしまう嘘だ。

 その時にフレイさんが驚かないように、悲しまないように、私は少し考えなければならない。

 きっと、フレイさんに嫌われてしまうしかないだろう。

 でもその先で、私を何度も助けて気遣ってくれたこの人をも守れるなら、それでいいと思う。


 ようやく離れてくれたフレイさんの顔を見上げながら、私はそんなことを考えていた。

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