量産チャレンジと魔力調整
その後はお客さんが数人来て、イーヴァルさんともども引き上げて行った。
お客がいなくなったので、私はその間にと、量産チャレンジをする。
鍋二つ分もある葉。これでどれくらいのお茶の葉ができるかな?
「レッツチャレンジ!」
まず水を入れたカップ。ここに少し魔力を込める。沢山込めるととんでもないことになりそうだから、三秒ぐらい。
紅茶になれーと念じておく。
小鍋に水を入れて沸騰させる。
量が少ないのですぐ沸騰したそこに、葉を一つかみ投入。
するとふわっと湯気からゴブリン精霊が現れた。
「おお、もう成功も同然!」
嬉しくなる私の前で、鍋の上の精霊がくるくると回り、同時に湯気と一緒に葉が舞い上がって、一瞬後にはぱさりと落ちた。
しっとりと濡れた葉は、変色して茶色に変わっている。
ふわっと周囲に広がるのは、まさに紅茶らしい香りだ。ドゥルケ茶を混ぜなくても大丈夫っぽい。
紅茶はお茶っ葉一種類で出来るよね? と思ってヘデルだけで作ったけれど、上手くいきそうだ。
「淹れて色とか味を確認したいけど、これ乾かすべきだよね」
私はそのまま鍋を火にかけて水気を少し飛ばした。ちょうどそこに3人お客さんが来たので、火から降ろして卓上に広げておいた。
お客さんの対応をして見送ったあとに見てみると、小鍋の葉は良い感じに乾燥して、くるっと巻いていた。
「さて出来栄えを確認」
ステータス画面を開き、紅茶に画面を通して触れてみると。
《紅茶A。効果:気力の回復+20。スキル練度+20》
「あれ、効果とか上がってる。ていうか紅茶A?」
なんだろう、品質? でもAで悪いってことはないと思う。
でもこれ、もっと魔力を込めると変化するんだろうか。
「……ためそう」
わくわくしてきたので、もう一度お茶を作成してみる。
今度は水にたっぷり魔力を込め、小鍋で沸騰させて葉を入れた。
しゅわっと湯気が弾ける様に上がる。
そこからゴブリン精霊が三匹も出て来て輪になって踊り、消えたと思ったら鍋にはもう水が無くなっていた。
代わりに、キラキラとそこはかとなく輝く茶色の葉が残る。
「光ってる」
お茶っ葉が端々できらっと光るのだ。なんだこれ。とにかく乾かしてみた。
その間に、さっきの紅茶Aのお味見をしておく。香り、味、色。まさに全てが紅茶。
「ヘデルだけで本当にお茶ができた!」
これは色々買わなくて済むので楽だ。
イーヴァルさんに依頼してヘデルを採取してもらえば、無限にお茶が作れる。ようは鍋に魔力を込めたお水を入れて沸騰させて、葉をどさっと投入するだけなのだから。乾かす方法をちょっと考えるべきだろう。今のままだと場所をとる。
「火の魔法で加減できないかな」
団長様と魔法の確認をした時に、改めて考えよう。
そんなことを頭の中でぐるぐるしつつ、再び入って来たお客さん五人ほどに応対した後で確認したら、魔力を沢山込めた葉も乾いていた。
「そしてやっぱり光ってる……」
さっきより、陽の光に当たってキラキラしている。茶色の葉っぱが丸まったような形の宝石みたいだ。
「か、確認」
ステータス画面を開いて、私はなるほどと思った。
《魔女の紅茶。効果:HP回復1000、気力回復100、魔力回復500、スキル練度100》
「もはや紅茶と言っていいのか……これ」
でも、先日のクー・シーの件を納得した。紅茶に魔力をそそいだわけだけど、たぶんこんな感じの効果がクー・シーにもあったんだろう。そりゃ魔力がすぐ回復するって喜ぶよね。
「とにかくしまおう……」
またクエストで使うこともあるだろうけれど、今はまだ人に見せられない。小さな容器に入れて棚の中にしまった。
それでもまだお客さんが来なかったので、もう一つ二つやっておくことにした。
「まずは一秒くらいだとどうなるのかをチェックしよう」
水に移す魔力。これが一秒くらいだったらどうなるんだろう。
さっそく実行し、沸騰したお水にわしっと掴んだ葉を入れてみた。
ふわっと湯気が上がったところに、かまどからよいしょっとゴブリン姿の精霊が現れる。そうして湯気を丸めてボールみたいにすると、鍋にぶつけてかまどに戻って行った。
「……何か違う紅茶になったっぽい?」
煙を投げつけるのは、今まで作って来た紅茶と同じだと思うけど。
調べてみると、その通り。
《紅茶。効果:気力の回復+10。スキル練度+10》
今まで通りのお茶ができた。
でもこれでわかった。
「そうか。魔力を込める力加減か」
今日、森や人助けのために使った魔法は、ボタンでぽちっとするものだ。もしかして呪文を唱える方法なら調節できるかな?
「攻撃魔法だとまずいことになりそうだから……」
私は客席に飾った花瓶を持ってくる。
一本を途中で折り、回復魔法をボタンひとつでかけてみた。
みるみる折った場所が元に戻る。それどころか葉の付け根から新たな茎が伸びて来た。確実に回復(小)のLV1などではなく、回復(中)ぐらいの効果だ。
「深き場所、生命の源……」
唱え始めると、昔は感じなかった魔力の流れが自分から目の前の花に向かって行くのを感じる。私はなんとなく呪文を途中で止めて、折った部分に指先で触れた。
それだけでするっと切断されていた場所が元通りになった。
「なるほど。途中で止めたらいいのかな」
攻撃魔法については、団長様と一緒にお試しする時に加減してみよう。もしかしたら、もっと早く呪文を止めてもいいかもしれない。
「呪文を省略とかかっこいい……。でもフレイさんにバレないようにする方法もかんがえないと」
小声で言うとか。色々なやり方をしてみよう。
そんなことを考えたところで、喫茶店に人が入って来た。
フレイさんだ。




