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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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喫茶店のお客さんの幅が広がりそうです

 ヨルンさんという名前のおじさんは、どうも行商をしている人だったようだ。


「アーレンダールの南半分をぐるっと一周して歩いているんだよ。だから街道に出る魔物には慣れているんだがね。ここんとこ、魔物が多くて」


 そのため、魔法攻撃ができるアイテムが尽きたらしい。

 あ……きっと、先日の魔物が大量に集まる件も関連しているのかな……。

 と同時にちょっと不安になる。


 まさかあちこちに魔女候補がいるってこと? 魔石に魔力を集めたりするんだから、誰かは魔女になれそうな人がいるんだと思うけど。でなければ魔力を集める必要がないし。

 あ、融合の実験後に、すぐ魔力を補充させてみるつもりで用意しているとか? 魔女になるの、どうも大量の魔力が必要そうだし。


 ……関係ないことを祈ろう。


「なんにせよ、無事に辿りつけて良かった。手紙も預かっているからねぇ」


 丸顔のおじさんは安心したように微笑んで馬を操る。


「手紙ですか?」


 この世界では、郵便屋さんは町の中だけ活動している。というか、郵便屋さんという名前ではない。教会で預かって、それぞれ行商人や町を行き来する人に遠くへ運ぶのを頼むのだ。


「これがいい小遣い稼ぎになるんでね。商品の売れ行きが上手くない時でも、少しは足しになるんだ」


「そうなんですか。それはいいですね」


 確かに手紙、出そうと思うと高いんだよね。おおよそかかる手数料を払うと、手紙は紐でくくられて、その紐に料金分の鉄のリングが通される。

 手紙には最初に払った金額と出発点、そして運んだ人のサインが連なって行く。運んだ人は、リングを溜めて最寄りの教会へ行くと、それをお金に変えてもらえる。


 サイン無しで減っていたら、たどって行くと運んだ人にたどり着けるシステムなので、不正をすると教会のブラックリスト入りするのだ。

 今さらながらに、教会ってけっこう怖いな。

 戸籍も握ってるし、郵便も握ってるし。探そうと思えば人を探せてしまう。

 個人情報を握られているんだなと思うと、ちょっとぞっとする。

 でも一つ、納得したことがあった。


「そっか……」


 団長様が、昔おばあ様と二人だけで寂しい場所に追い払われていたという話を思い出したのだ。

 それは精霊をむやみに消滅させてしまうからってことだったけれど、でも人には影響がないのに、特定の人以外は近づかないとか、貴族の子息だったのに使用人もわずかだったとか、子供相手に酷い扱いだなと思っていた。

 でも近づかないのは、もしかすると精霊教会に睨まれた団長様に関わると、自分も睨まれると怯えていたということもあるのかも。


 それでも子供を放置した両親はちょっとどうかと思うし、ずっと一緒にいた団長様のおばあ様はとても良い人だと思うけれど。


「お嬢さんは魔法使いなのかい? 一人で採取に来るのは珍しくはないけれど、追い払うどころか、あっと言う間に倒してしまってびっくりしたよ! 気付いたら魔物が崩れて消えようとしてたんだからねぇ」


 ヨルンさんは、魔物が消滅する場面だけを見たようだ。

 良かった……。行商人なら、魔物の戦闘もよく見ていると思う。だからあんな氷の槍が何本もほいほい出て来るのがおかしいことに気づいてしまうかもしれないもの。


「いえいえ、私なんて駆け出しでして。ちょっとした魔法しか使えないんですよ。だから騎士団が巡回している森にしかまだ行けなくて」


 見ていないのをいいことに、私はごまかした。

 そうしている間に、私はお城へ戻ってきていた。


 城についたとたん、門の所にいた騎士さんに言われたのは、


「ユラ、その人に助けてもらったのかい!?」


 だった。

 以前のお茶を作ることしかできない私だったら、反応の仕方はそれで間違いない。うん。

 しかし今の私は、中級魔法も上級魔法も収めているのである! レベルにして魔法使い40LVは行ってる感じ。魔女のスキルはまだ20LVなのにね。

 初めて私、人助けができたんですと言おうとしたところ、先にヨルンさんが騎士さんに行ってくれた。


「いえいえ。この討伐者さんに、私が助けていただいたんですよ。あ、私は行商人のヨルンと言います」


 どうもどうもと一礼する人の良さそうな笑顔のヨルンさんを、騎士さんがびっくり眼で見ていた。


「え、本当に、ユラが……?」


「そうですとも。魔法であのネズミを巨大化させたようなムーリスを倒してくださいましてね。あ、私は教会から手紙を届ける仕事を委託されてきました。こちらの騎士団あての手紙です」


 ヨルンおじさんはにこにこしたまま、荷台から紙束を取り出して騎士さんに渡す。

 受け取った騎士さんは、まだ信じられないといった顔をしていた。


「ユラが今日喫茶店を閉めていたのも、採取に行ったのも知ってたんだけど、まさか人助けまでできるとは……」


「一応魔法が使えるようになったんです。採取も問題ありませんでしたし」


「お茶しか作れない子だと思ってたよ……」


 私の主張に対して、しみじみとした騎士さんの言葉を耳にしたヨルンさんが、そこで言う。


「喫茶店とは? 彼女が経営しているんですか?」


 討伐者で魔法が使えるのに、喫茶店をやっているとかお茶を作っているというのが、不思議だったのだろう。


「はいそうなんです。休んでいかれますか? ちょっと珍しいお茶を置いているんですよ」


 私はにっこり笑って、ヨルンさんを誘ってみた。


「ほう、珍しいお茶ですか?」


 商売人のヨルンさんはそこに食いついたみたいだ。もし本当にめずらしいものなら、商売になるかもしれないと思ったのだろう。

 もしかしたらソラの言うお茶を広める件、ヨルンさんを最初のお客さんにして、上手く行くかもしれない。

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